4月11日に胆道閉鎖症疑いで入院してから、早2ヶ月ほど。
2013年6月7日、退院。
移植までの間に少しでも体重を増やすこと、
家族と一緒に過ごすことを重視して、とりあえずの退院
…ではあるけれども、いざその時になるとやはりうれしい。
病院の庭にある親子のゾウ(石像)の前で記念撮影をする。
いつか、完全に元気になってまたここで写真を撮ろう
そう心に決めながら。
さくらが帰ってきた家は賑やかになった。
といってもさくらは東京の自宅で過ごしたことは
入院前の1日しかなかったので、本人は新鮮だったと思う。
人目を気にすることなくさくらとくつろげる時間はとても
久しぶりで、ゆったりと過ごせること自体が嬉しかった。
病棟内は写真撮影禁止なので隠し撮りするほかなかったが、
今しかないこの瞬間を残してあげたくて、何度も一眼レフを
構えた。
一番喜んだのは兄の光かもしれない。
入院中はいつも保育園で最後の一人になるまでポツンと
預けられ、妹にもガラスの窓越しにしか会えず、
土日も病院を探検するのみで、寂しかったに違いない。
何度も何度も妹のところに寄って来ては頭を撫でていたし、
抱っこさせてほしいとせがんできた。
小さなさくらをひざに乗せた時の嬉しそうな表情は
忘れられない。
本を読んであげたりおどけて見せたり、これまで
離れていた分を取り戻すかのように、
小さいながら兄としてできる精一杯のことをやってくれた。
「しゃくらちゃんって本当にかわいいねぇ、かわいしゅぎるねぇ」
「ぼくが、妹がほしいよって思ってたら、
神さまがしゃくらちゃんをつれてきてくれたんだね」
「ぼく、しゃくらちゃんのこと大好きなの」
なんともほほえましい光景で、親の私も頬が緩みっぱなしだった。
さくらはさくらで、兄に対してだけ特別に嬉しそうな反応を返した。
手足を思い切りジタバタさせて、ニコニコしていた。
そうかそうか、さくらも嬉しいのか…。
お家に連れて帰ってきてあげて良かった。心から実感できた。
入院時は新生児だったさくらも、退院して間もなく
月齢3ヶ月を迎えた。(2013年6月17日)
身長 57.5cm
体重 4,950g
教科書通りの成長を遂げた兄と比較すれば小さめで
あるものの、中身は月齢なりに育っているようで、
「あ~、うー」と声を出してこちらに話しかけていた。
そうかと思えば熱心に手をしゃぶっている。
ずっと病院暮らしでも、栄養がうまく取り込めなくても、
ちゃんと成長するんだなぁと感慨深かった。
退院直後は、今思えば家での生活も比較的平和だった。
さくらは本当におだやかな性格で、意味もなしに泣くことはなく
常にニコニコしている。
そんな日常をつれづれと書き連ねてみよう。
肝臓が悪いため疲れやすいせいか、
さくらは寝ている時間がとにかく長かった。
まだ寝返りできないさくらを、リビングのローテーブルに敷いた
マットに転がしておくと、そのまま寝てしまうことも多かった。
入院生活が長かったためだろう、寝かしつけで寝るという発想が
そもそもないので、夜は暗くなったらすーっと眠りに入った。
その点は手間もかからず大変良い子だった。
肌は黄疸のため浅黒く、黄色がかっていて
真っ黒に日焼けし元々肌の黄色味が強い光も
さくらと並ぶと色白に見えた。
うんちの色は相変わらず薄かった。(No,2程度)
そのかわり行き場を失ったビリルビンは尿に溶け出して、
お風呂の中におしっこすると入浴剤でも入れたかのように
お湯がはっきりした黄色になったことをよく覚えている。
尿を吸い込んだおむつは、時間が経つと茶褐色に変色した。
(本来の赤ちゃんのおしっこはほぼ無色らしい。)
胆汁酸という物質が血中に増えると、刺激で肌が
痒くなるのだが、この頃はまだ痒がるにしても時折で、
深爪にしておけばなんとか見過ごせる範囲内だった。
光の保育園の送り迎えは、朝は極力夫にお願いし、
夕方はさくらが寝ているすきにダッシュで迎えに行くなどして
対応していた。
(入院中ステロイドを内服していた副作用で、感染症に
かかりやすくなっていたので用心した。)
送り迎えでの滞在時間は知れたものだが、たくさんの園児に
「赤ちゃんだ~!」と取り囲まれてベタベタ触られるのに
抵抗があったのだ。
(皆赤ちゃんが大好きなので、ものすごい勢いで群がってくる。)
その代わり、ベビーカーに乗せて人の少ない公園などを
ちょくちょく散歩してあげた。
入院中は外の空気を感じることもできなかったのだから。
通行人に「あら~、かわいい赤ちゃん!」と声をかけられる
ことはあったが、あからさまに「病気なの?」と指摘される
ことはなかったように思う。
黄疸は見た目にもはっきりしていたが、色黒な赤ちゃんとでも
思われていたのかもしれない。
はっきりした顔の光と比べると、さくらはあっさりした顔立ちだが
寝ている姿などは不思議とそっくりだった。
2人並んで仲良くすーすー寝息を立てる姿を眺めるのも
このころの平和な楽しみの一つだった。
胆道閉鎖症は「じわじわ悪くなる病気」。
のんびり過ごしている間にも、さくらの肝臓は少しずつ固くなり、
線維化していった。