2013年4月25日、オペ当日。


朝8時過ぎに病室へ入るなり、
微妙に緊迫した空気に気付いた。
聞けば、夜は落ち着いていた体温がつい先ほども高かった
(38度くらい)とのこと。


暫くしてベテランの麻酔科医がやってきて、さくらを聴診した。
今まで居合わせたどんな診察よりも慎重だった。
厳粛な空気はピリピリ刺激が強い。


このままオペをやってしまって大丈夫なんだろうか?
でも、どうせならこのまま一刻も早く治療を
進展させてあげたい…。
若干混乱した心が揺れた。
私にはどうしようもなく、
プロフェッショナルにすべてを任せるしかない。


「…大丈夫だと思います。感染の徴候は見られません。
 手術を実施します。」


オペ室に吸い込まれていく小さなベッドと小さな小さなさくら。
しっかり目に焼き付けようと思ったが、涙で見えなかった。


待合室に座り、我々夫婦、私の両親、義母の5人で待った。
待合室ではつとめて平常心を保った。


時間の経過とともに、数人のDr.がオペ室から出てきた。
手に瓶を持ち、家族に説明する。
「これが○○ちゃんから取れた扁桃腺です。
 おっきいでしょう!」
「わぁ、すごーい!こんなんあったら苦しいですよねぇ~。」
……いやに楽しそうだな。正直そんなふうに受け取った。
軽いノリが羨ましかった。
その日は扁桃腺の摘出だけでも4件はあった。
皆次々と現れては消えていくのを、横目で追う。


我々はただ待つばかりだった。
術前説明では、胆道造影の結果は途中で説明しに
来れないと伝えられていた。
8時45分にオペ室入り、その後麻酔などの処置、
中心静脈カテーテル挿入。


まずは胆のうに穴を空けて造影剤を注入し、
流れを確認する胆道造影を行い、
胆道の閉塞が確認されればそのまま葛西術。
造影だけならその後の処置も含めてお昼にも終了。
葛西術はそこから5時間ほどかかる。
かかった時間で進行を推し測って下さいと。


「先生、来ないね…。」
それはやはり「そういうこと」を意味するんだろうか…。


午後1時ほどだっただろうか。
消化器科のDr.がいらした。


「途中からですがオペを見ました。
 胆道造影の結果…胆のうの上(肝臓側)にも
 下(十二指腸側)にも 造影剤が行きませんでした。
 胆道閉鎖症で診断確定となります…。
 これから空腸吻合にうつるところです。
 お母さん心配なさってるだろうなと思って、
 まずはそれだけお伝えしに来ました。」
お気遣いに感謝した。


胆道閉鎖症……
正直、だいたいこの病気なんだろうなと、わかってはいた…。
疑われていた病名の中では私の中で最悪の結末だった。


だがうらはらに、なぜかどこかすっきりした気持ちにもなった。
「胆道閉鎖かもしれない」という不安は凄まじいストレスだった。
非常に逆説的なのだが、病名が決まってしまえばもう
肚を括って前に進むしかない。
そんな心境だった。


「生後38日という早さでここまでたどり着いたんだ。
 きっと大丈夫。」


私はできうる全てをやった。
最高の早さで、最善の医療環境まで連れてきた。
だから大丈夫。きっと大丈夫。
胆汁がきちんと流れるようになって、うんちも茶色になって、
肌も目も白く戻って、元気になれる。自分に言い聞かせた。


陽が傾き、そして夜になった。
待合室には我々だけが残っている。
遂に執刀医が現れた。

「手術は無事終わりました。別室でご説明します。」