(2008年3月)

3月初日、仕事がついに決まった。第一希望は、最後の最後で残念な結果に終わったけれど、それでも決まった会社は、自分自身の結論に納得できる会社であったので、そこでお世話になろうと思った。完全に異業種への転職は、簡単なことではないことだろう。今まで経験したことのないような絶望が待っているのかもしれない。ただ、この時は、そんな絶望にさえ、待ち遠しく思うくらい、早く仕事がしたかった。


仕事が決まってから、初出勤日まで、2週間ほどあった。この2週間を、何とか有効活用できないものか、少しでも仕事で役立つ知識を増やしておきたい、そのためには、やはり関連する本を読むことだと思った。本は本当にたくさんのことを教えてくれる。人生で、何が大切で何がそうでないか、これまで本から得たものは数知れず。 人生において、本当に重要なことは、文章にすればおそらく2~3行で書けるのかもしれない。ただ、それを理解するためには、想像も出来ないくらい膨大な量の本を読まなければいけないのだと思う。


仕事が決まらない時、毎日就職活動をしていた時、自分のことのように親身になって心配してくれた友人がいた。

しわしわになった気持ちを、あたたかい言葉で励ましてくれ、辛いことが続くけど、明日も頑張ろうと思えた。仕事が決まった時、仕事が出来る喜びと同じくらい、支えてくれた人達に良い報告が出来ることが嬉しかった。学生時代の就職活動と違って、この年での転職は、一人の戦いになってしまう。同じ状況の誰かと、励ましあうことなどできやしない。ただ、おれは経験してみて、自分自身を強くするという意味では、非常に良かったと思っている。そして、前よりも色々な人の気持ちが理解できるようになった、前よりも、もっと色々な人に感謝していかなければいけないと感じた。これに気付かせてくれた、励ましてくれた真友には、感謝の気持ちでいっぱいだ。


あきる野は、厳しい寒さが和らぎ、少しずつ春の匂いが香り始めた。今でも覚えてる、おれが毎朝、乗っていた朝6時41分の中央線東京行き。東京では珍しい、自分でドアを開けるシステム。あれってすごく不思議なものだ。最初の頃は、田舎っぽくて嫌だなぁなんて思っていたけど、慣れてくるとすごく効率的なシステムのように思えてくる。降りる時に、ボタンを押すシステムを知らない人がいると、腹が立つ自分がいた。おれは、だんだんとあきる野人になっていたのかもしれない。新宿や渋谷みたいに、華やかな街ではないけれど、ここにしかない営みは、確かに存在する。おれは、ここに何かの偶然でたまたま移り住み、何かの偶然でたまたま、その営みと同調しているだけなのかもしれない。ただ、それをおれは、ラッキーだと思える。ここにいて良かったと、本気でそう思える街。一度住むと、大好きな街になる人は、たくさんいると思う。


どんなことでも、新しいことを始めるということは、新鮮で刺激的である半面、分からない歯痒さにストレスも溜まるものだ。出会う人、ほとんどが初対面。初めて会うならば、やはり自分の事を良く見せたいと思うのは当然の心理。無理をして自分を良く見せて、何だかこの時期は、自分ではない自分が、日に日に大きくなっていくような、そんな不安が毎日のようにあった。それほど、長い時間、働いているわけではないのに、これまで経験したことのないような疲労感であった。もともと、おれは、誰とでも親しくなれるタイプではないし、人見知りだし、人間関係は決して上手ではないと思う。ただ、自分ではそれに気付いていたし、変えたいとも思っていた。学生時代は、気の合う友人と仲良くして、楽しければいいかなと思っていたけど、社会人になるとそういうわけにもいかない。社会人になって大きく変わった点は、「理解してもらわなくてもいい」から「理解して欲しい」に変わったことであると思う。そして、今は、もっと早く、そのようにして、多くの人とコミュニケーションを取ってれば良かったということだ。


夜、何の不安もなく、眠れるようになったことはすごく嬉しかった。パン屋時代は、仕事の日はアレルギーで、鼻水・くしゃみで眠れないことが多々あり、眠れてもすぐに起きてしまうことが何度もあった。疲れてるのに、眠れないということは、今考えても、苦しいことだ。それが、なくなったということで、どれだけ心が晴れただろう。とにかく、毎朝、気持ちよく仕事場に向かえるということが、すごく嬉しかった。


3月、表参道で友人の結婚式があった。二人で海外旅行などをした、非常に親しい友人だ。スライドショーなどで、自分の写真が出てきたときは、懐かしかったし、その写真を選んでくれたことに感謝の気持ちであった。この友人も含め学生時代の友人たちとの’つながり’を、おれはもっと大切にするべきだったと感じている。確かに忙しかった、ただ全く連絡が取れなかったかというと、そうではない。一日にちょっと電話する時間やメールする時間は絶対にあったはずだ。それができなかったのは、要するに自分の時間の使い方が下手くそだったのだ。’つながり’は、極めて重要なものだ。もっともっと大切にしていかなければいけない。


3月は仕事ができる喜び、そして友人がいるという喜びを特に強く感じた月でした。