我が家から少し坂を下った所には、ウォーキングトレイルがいくつかあり、
歩き始めると、数分前まで車が行き交っているところにいたとは全く思えないような、自然の豊かな森の中になります。
雨季になる晩秋から冬は、トレイルがぬかるんで歩きにくいので最短コースでささっと引き上げますが、
春夏には長めのコースを良く歩いています。
そのトレイルの途中で、アミガサタケが1本生えているのを見つけました。
アミガサタケは、英語でモレル、フランス語でモリーユと言われ、欧米ではトリュフに次ぐ高級きのこの扱いだそうで、
長年研究されている人工栽培がなかなか確立せず、商用栽培があまり実現していないため、珍重されているようです。
近年は、春先のスーパーで見かけるようになりました。
普通のマッシュルームがだいたい1パウンド$5.99くらいなので、かなり高いです。
しかし私は幼い頃、近所の庭先一帯に雨後の筍のようにボコボコ生えたこのアミガサタケを、
気持ちわりー毒キノコだ!と騒ぐガキ大将たちと一緒に蹴倒すという悪さをしました(笑)
そこで私は蹴倒そうとして思い切り踏んでしまったのですが、
ボクッと変な音を立てて潰れた時の妙な感触は忘れられません。
うわっ?と脚を上げると、きのこの中はヒダも何もない大きな空洞で、そのきのこらしからぬ形がますます不気味でした。
鬼征伐のような盛り上がりになっている一団についていく気分ではなくなり、家に戻って図鑑を開くと、毒なんかではなく食菌とあり、
欧米では珍重されるなどと書かれた雑誌記事もあとになって見かけましたが、
私の中では、不気味な音を立てる空っぽきのこと高級食材というのが全く結びつかないまま、縁のないきのこになっていました。
でも、こちらに来て、アミガサタケ料理の写真をネットなどでよく見かけるようになり、
親戚や知人からも、あれはとても美味しいきのこなのだとよく聞かされました。
それなら一度食べて、昔刷り込んだ不気味なイメージを払拭したいと、
生える条件の合ってそうなところをウロウロしたこともあるのですが、
昔蹴倒した奴にくれてやるきのこはそうそうないということなのか、さっぱり見つかりませんでした。
アメリカ人ブログなどによると、アミガサタケには生えるエリア、生えやすい条件、というのはあっても、
去年生えていたそのポイントに毎年顔を出すというわけではないめんどくさいタイプのきのこで、
慣れてる人でも結構見つけにくいんだそうです。
ならば仮に生えてたとしても、これを目的に山に入るプロにさっさと採られているんだろうと、
その後はかなり諦めていました。
それが、車で何時間も掛けて出かけた山ではなく、徒歩15分のところで見つかるとは、まさに灯台下暗しでした。
さて、きのこの根元をたどると、去年のワラビの立ち枯れの真横に、取り憑いてる?というくらい
ぴったりくっついて生えていました。
アミガサタケの菌糸が入りこみたがる宿主というのは、数種の木以外に草本も何種類かあるそうで、
トクサやタンポポなども含まれるそうですが、ワラビもそのひとつなのかもしれません。
周りをよく見回しても1本しか見当たりませんでしたが、
きのこに手を伸ばしつつも腰が引けてる奴には試食は1本で十分です。
先ほどからアミガサタケと一括りしていますが、傘が丸い、尖る、筋目の色が茶、黒など、
僅かな特徴の違いでマルアミガサタケ、トガリアミガサタケ、サキボソアミガサタケなどなど、
分類学上ではかなり多くの品種に分かれるようです。
私が採ったものは、網目が明るめの色だったので、
日本で普通にアミガサタケMorchella esculentaと呼ばれるものかと思いますが、
これに酷似していて同定困難という毒きのこは、現時点では無いようです。
ちょっと似ているVerpa bohemica(オオズキンカブリタケの仲間)は人によって胃腸が悪くなる人がいるようなので要注意ですが、
もう少しきのこらしい傘の形に長い柄なので違いますし、
シャグマアミガサタケは茹で汁の湯気を吸っただけでも死ぬかもしれない猛毒菌
(それでもフィンランドの皆さんと各国の猛者は念入りに毒抜きして食べているきのこ)ですが、
こちらは私は見たことがあり、遠目から見ても傘の色形が普通のアミガサタケとは違うと分かるくらいのきのこです。
ちょうど家にある材料で作れるレシピ(Pan-Roasted Salmon with Morel Mushrooms, Fiddlehead Ferns, and English Peas)
も見つかったので、すぐに調理にかかりました。
レモンソースを作ったら後は鮭ときのこを焼くだけといった感じで案外簡単でしたので、さっそく試食です。
レシピではアミガサタケはオリーブオイルで炒めるように書かれていましたが、
私はきのこにはバターが好きなのでバターソテーに変えてみました。
ナイフを入れてみるとちょっとゴムっぽい弾力がありましたが、
大振りな貝の水管やヒモの辺りを食べたような食感で、容易に噛み切れます。
ヒラタケの味を濃厚にしたような味があり、噛むたびに強い旨味が出てきます。
洋食にとても良く合う味で、欧米の人たちに大人気なのも納得でした。
前述のシャグマアミガサタケと同じ毒を微量含んでいて、生食では中毒するきのこ(高熱調理で揮発する成分)だそうなので、
フライパンを傾けてバターを溜めたところで結構念入りに焼きましたが、
それで端がうっすらと焦がしバター味になってるところがまた美味しく、
この1本のおかげで、昔の印象はだいぶ塗り替わりました。
冬からの寒々しい曇天と雨を引きずっていてつまらない思いをすることも多いこちらの春ですが、
これからはこのきのこを探すという楽しみがひとつ増えそうです。
ちなみに、アミガサタケとアルコールの同時摂取は悪酔いする可能性があるともありました(体質にもよるらしいです)が、
白ワインを使うレシピだったので、ボトルを開けたのに一口も飲まないのはなあと思い、小さなグラスで飲みました。
きのこの量もワインの量も少なかったせいか、全く何事もありませんでしたし、
欧米の人たちは全く気にしていないようで、ワインとペアリングしてたりしますが、
もしももっと食べる日がやって来たら、念のため気をつけておこうと思います。
元のレシピにFiddlehead(若い芽がゼンマイ型に巻いた食用シダの総称)が使われていたので、
庭のLady fern(コゴミによく似たシダ)と、きのこの近くに生えていたワラビを下ごしらえしたものを使ってみましたが、
個人的には、レモンソースとシダ類はあんまり合わない感じがしました。
キューピーの深煎りごまドレッシング(最近コストコで発売されるようになりました)にさっさと変えて食べましたが、
やはり山菜には和の風味がついた方が合うと思いました。
そして、食べられるとは言え、長年食指が動かずにいた巨大土筆Giant Horsetail (Equisetum telmateia)も、
お浸しにして添えてみました。
胞子嚢だけで小指一本分以上のデカさなので、若い胞子が多量では苦くて食うに耐えないのではと思い、
育ち切って胞子もだいぶ飛んでそうなものを選びました。
すると胞子嚢のモサつきは気になりましたが苦味はなく、茎はシャキシャキと歯ざわりよく、美味しく食べられました。
若い茎を油炒めとかにすればかなり美味しいんでないかと思いました。
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