SM官能小説の館

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SM官能小説を掲載しています。
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ある冬の夜、杏奈は自分の心の中と葛藤していた。
もう何処を歩いているのか分からなかった...
ふと足を止め、横を向くとBARを見つけた。
薄汚れた扉に「営業中」とだけ書かれた看板があり、
見た目がくたびれたBARだ。
何となく、私は薄汚れた扉を開けた。

BARには、カウンターに座っている男と、
ここのマスターと思われるバーテンダーだけだ。
男は、杏奈の方に目を向けた。
杏奈も男の目を見た。
しばらく見つめ合った後、男は杏奈から目を離し、
マスターに何か呟いた。

杏奈はゆっくりと男と1つ席を空けて座った。
マスターはカクテルを作っているので、
作り終わるのを待っていた。
マスターは私の前にすっと一杯のカクテルを置いた。

「こちら、エンジェルフェイスです。」

マスターはそれだけ言って、グラスを拭き始めた。
おそらく男からの奢りの一杯だったのだろう。

私はマスターと男の中間に

「ありがとうございます」

と二人に言い、一口飲んだ。

アップルの味がして優しい飲み心地だ。

男もバーテンダーも、そして私も何も言葉を発しない時間が過ぎていった。

カクテルの味と時間が私の心の葛藤をゆっくりと和やかにしていた。

「マスター、もう一杯同じものを頂けますか。」

私はマスターに伝えた。

マスターは何も言わずにカクテルを作り始めた。

マスターがカクテルを作ってる間、私は男に声をかけた。

「こちらには良く来られるのですか?」

私は男の方を向かずに聞いた。

男も私を見ずに

「そうですね。たまに来ますね。」

「どういう時に来られるんでしょうか。」

「マスターのカクテルを飲みたいと思った時ですね。」

男はそう答えた。

私はあまりBARに来ることがないけれど、

このお店には、何故かゆっくりとした時間が流れているように感じている。

少しして、すっと私の前に

「こちら、エンジェルフェイスです。」

と先ほどと同じカクテルが出された。

今度はマスターに「ありがとう」と伝えた。

男が口を開いた。

「マスター、プレリュードフィズを。」

男もカクテルを頼み、マスターが静かに作り始めた。

男は私に聞いてきた。

「何故、貴女はこのお店に入ったんですか?」

私は男の問いには答えなかった。

しばし沈黙が続いた後、

マスターが男の前にカクテルを置いた。

「どうぞ。」

「ありがとう。」

男がゆっくりと一口飲み、私に視線を移してきた。

私は視線を感じながら、ゆっくりとカクテルを飲む。

やがて男の視線はなくなった。

「迷っているんです」

私は下を向いたまま言葉を発した。

「何に迷ってるんでしょうか」

男の問いに、今度は即答した。

「二人の男性を愛してしまったの。」

私はSMのこと隠して、淡々と話していった。

「最初に愛した男性とは2年付き合っています。」

「もう一人の男性とはここ半年ほど。」

男が聞いた。

「それは心変わりでしょうか。」

「心変わりはしていないです。二人とも愛してしまったから。」

「なるほど。」

男は頷いた。

「二人を同時に愛していいのか迷っています。」

男は何も言わずにカクテルを飲んでいる。

静かな時間が過ぎ、カクテルを飲み終わった男は、

「マスター、また来るよ。」

そう言い、席を立った。

男は私の後ろで立ち止まった。

「一つだけ言わせてもらいます。」

「”心変わり”とは”心が正常の状態ではなくなる”ことの意味もあります。」

そう言い、男は出て行った。

私は男が出ていくまで目で追いかけていた。

しばらくして私も最後の一口を飲み、マスターに声をかけた。

「マスター、おいくら?」

マスターはグラスを拭く手を止め、

「先ほどの方から頂いております。」

と言った。

「そう...」

私は何だか不思議な気分になった。

「それじゃ。」とマスターに伝え、扉に向かおうとした際、
マスターは後ろから言葉をかけた。

「エンジェルフェイスというカクテルの意味を知っていますか?」

「え?」

「移り気な心」という意味を持ちます。

私は目を見開き、マスターを見た。

「なぜ?」

私から出た言葉にマスターはこう付け加えた。

「何故かは分かりかねます。あの方が貴女に注いだお酒ですから。」

私は男が出ていた扉を見ながら、男の顔を思い出そうとしていた。