◤◢◤◢⚠︎注意⚠︎◤◢◤◢

こちらは
BL要素を含むお話になっております。

苦手な方
受け付けられない方は
華麗にスルーでお願いします。





年明けから数日が経ち
大ちゃんの個展の準備で
いつの間にかカズくんが
先頭に立って指示してるって聞いて

困惑と安堵が入り交じった
複雑な気持ちになる。

大ちゃんの望むものを
一番理解してるのは
間違いなくカズくんだろうし

それを言語化して人に伝えるのも
カズくんが適任なんだ。

だけど
協力していただいている
沢山の業者さんを始め

美術館のスタッフさんたちとも
衝突しちゃう時があって
お互い真剣に向き合ってるからこその
譲れないモノでギスギスしちゃうらしく…。

カズくんも普段なら上手く立ち回れるし
擦り合わせていい物を作る事が出来るけど
大ちゃんの事となったら
どうしても熱くなっちゃうんだろう。

『ま、そこがカズのいいとこでもあり、ちょっと頑固なとこも出ちゃってんだろ。』

「うん……カズくんのことだから、必要以上の心配はしてないけど、誤解されちゃうのも嫌かなって。」

翔さんが仕事に出る前の僅かな時間。

1秒でも長く声が聴きたくて
ギリギリまで電話を切れない僕に
翔さんは同じようにギリギリまで
付き合ってくれてる。

まだ一緒には居られないけど
声が聞けるだけでも幸せで
だけど幸せが増えると
もっともっとって…欲張りになって。

それでも
此処でやらなきゃいけないことが
まだ沢山あるし

それが終わったとしても
僕があの場所に戻るまでは
更に高いハードルを
飛び越えなきゃいけない。

『カズの事は智くんに任せとけば大丈夫だろ。いざって時は、カズを守るために前に出てくるだろうし。』

「そうだね、大ちゃんならきっと……。」

『やべっ、時間だ。悪い……じゃ、また明日な。』

切り際の5文字の切ない余韻を
僕はしばらくスマホを耳に当てたまま
翔さんがいるであろう方角に目を向け
同じ5文字を繰り返した。

如月さんが熱海に行ったあの日。

また会えなくなるのは
十分過ぎるくらい分かってたけど

それでも離れたくなくて
時間を忘れて無我夢中で
気持ちを確かめあった。
何度も甘く囁く言葉と
溶けて無くなりそうな境界線。

熱の籠る内側と
それを助長する肌の匂い。

揺れては落ちる度に
質量と律動に身を委ね
何の迷いもなく貴方だけだと
身体中が叫んでた。

僕に触れる指と声を思い出し
ふるりと震えた背中。

会いたくて
でも会えなくて
狂おしいくらい貴方が好きで 
もうそれしか考えられなくて

ギュッと目を瞑り
溢れてしまいそうな想いを
身体の奥底に閉じ込めた。

「社長、今、よろしいですか?」

スマホを内ポケットに仕舞い
滲む視界が元に戻ったその時
コンコン…とノックの音がして
咲坂さんが社長室に入ってきた。

「はい、何か…ありました?」

何やら分厚いファイルと
タブレットを小脇に抱え
大股で歩み寄る爪先。

「美術館の方で少し問題があったようで、社長に来て頂きたいと館長から連絡が……。」
 
あからさまな溜息をつき
眉間に皺を寄せて首を振る辺り
嫌な予感が的中しちゃったのかもって
反射的に椅子から立ち上がる。

「まさかとは思うけど、カズくん…何かしちゃったとかじゃないですよね?」

「カズ……いえ和也さんの事では無く、大野先生の事のようでして。」

「お、大ちゃ…じゃなくて、大野先生?!」

そっか……。

大ちゃんって今は
『先生』って呼ばれる立場なんだ。

きっと本人は嫌がってそうだけど……。

「はい、展示する作品が気に入らないとかで、描き直しが出来ないなら個展自体中止にして欲しいと……。」

珍しく困った表情をする咲坂さんを見て
我慢の限界に達した大ちゃんが
拗ねて動かなくなった姿を容易に想像でき

大変な状況に陥ったのは同情するけど
昔…一度だけそんな事があったのを思い出し
ふふっと小さな笑いが漏れだした。

「社長……真面目に聞いてくださいっ。」

「ご、ごめんなさいっ……想像したらつい……。」

いつもは穏やかで飄々としてるけど
いざって時の重みのある言葉だったり
誰よりも頑固なところを知ってるだけに

直接会って話をするべきだろうと思い
この後の予定が無い事を確認してから
閉館後に現地に行く事を伝えてもらった。

「事前に作品を見た会長はお気に召したようでしたが、大野先生がやはりイメージと違うと仰って……。」

「カズくんが言ってもダメなの?」

「そのように聞いてますが。」

風が強くなった日暮れの街を
東に向かって走る車内。

何が気に入らないって
僕の肖像画が大ちゃんの中の僕とは
あまりにもかけ離れてるって事みたいだけど
 
会長が気に入ったっていう時点で
きっと細かい注文とかがあったはずで

大ちゃんの個性を閉じ込めた
教科書通りで面白味の無い
平凡な作品だったんだろう。
「咲坂さんは見たんですか?」

「ええ……一応写真で。」

ポーカーフェイスを装うけど
会長とは違う意見を持ったらしく
ぴくりと眉尻が跳ねたのを
僕は見逃さなかった。

「彼のプライドもあるし、納得いかない作品を出したくないのは分かる気がします。」

「ですが、もう時間が……。」

「そうですね……とりあえず話をしてみて、大野先生が納得出来る方向に持っていくのがいいかなって。こちらが無理を言って承知してもらった個展ですし。」

それはそうですが……と
落胆の溜息をつき
手元のタブレットを操作する咲坂さん。

僕が決めたことじゃないけど 
個展まで後10日くらいしかないし
緑桜が主催している事業なら
ちゃんと責任は果たさなきゃいけない。

ホントは手放しで
再会を喜びたかったけど

実際会ってみたら
僕でも戸惑うくらいの別人格と化した
『Satoshi Ohno』がそこにいたんだ。