西加奈子『きりこについて』(文春文庫)


ようやく西加奈子デビュー。や、名前を見かける機会は多かったし、作品も映画化されたり平積みになってたり、たびたび目にはしていたんですけれども、私はどうも「地の文まで方言」というのが苦手で。エッセイでも小説でも。西日本の言葉が母語じゃないせいかなあ。


ともあれ、きりこ。両親ともに美形の血筋なのに、それぞれの欠点(美貌の中にあればそれは「愛嬌」となりうるのだが)ばかりを貰い受けたせいでまさかの超ぶすに生まれてしまったという設定です。しかも、ぶすっていつも太字なのでインパクトが強烈。

物語は、きりこが「ぶす」を自覚し、一度は自分を見失うものの、最終的に「人間は容れ物(=容姿)と中身と歴史」だと理解し、羽ばたくまでを描いています。


おもしろいのは、着地点が決して「人間は顔じゃない!」ではないところ。たしかに私たちはきれいな人に目を留めやすいし、てことは外見しだいで物事の始まりが変わりうるし、となれば「顔」はやはり影響力をもつといえる。人間は顔じゃなく、ない。

ただ、それを嘆くでもなく開き直るでもなく、淡々と記す「語り手」がまた秀逸で、きりこの拾った黒猫のラムセス2世。この賢い黒猫が、きりこのそばで見渡した世界を解釈し、語っているという形(作者は猫が大好きにちがいない)。

ある意味「世界の語り直し」というか、何となく「顔に左右される」ことを後ろめたく思う倫理観ってあると思うのですが、「そりゃしょうがないことよ、顔も人間の一部ですもの」とあっさり肯定してしまう明るさ、汗水を感じさせない軽やかさ。これがとても魅力的でした。


あまりに楽しく魅了されてしまったため、きりこの好物として何度か出てくる「青梗菜とマッシュルームのクリームスパゲティ」作ってしまいましたよ。想像でいろいろ補ったので完全一致ではないだろうけど、これは、おいしかった。


次は何を読もうかなー。




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