お久しぶりです……
笑っちゃった出来事やその他いろいろ最近おもしろいのですが、とり急ぎこの感想だけ書きとめてしまいます。
東直子『さようなら窓』(講談社文庫)
きてれつなタイトル、たぶん著者が東さんでなかったら敬遠したはず。東さんだからと手にとって、読むことができて本当に運がよかった。
連作短篇、主人公の「きいちゃん」は身も蓋もない言い方をするならばメンタルの弱い子。捨て犬を拾うように彼女を家に住まわせ、大切に慈しむ「ゆうちゃん」は、眠れないきいちゃんのために毎晩たくさんのお話を語って聞かせます。お正月にも生きていたカブトムシ、幼いころ美味しいぶどうジャムをつくってくれたおばあさん、などなど。ゆうちゃんは限りなくやさしくて、あまりの心地よさにきいちゃんはとろとろと甘く煮られていく。
きいちゃんがびっくりするほど一昨年くらいの私と重なるのでなんだか他人事と思えなかったのですが(苦笑)、まいっちゃうような問題に直面して、しかもそれをうまく処理したり受け流したりする才覚がないために消耗し、ほかの人はもっとうまく立ち回れるのに私って、と劣等感まで背負い込んで身体に力が入らなくなる感じ。あれ、ね、なんででしょうね。「ひとまず違うテーマに頭を切り換える、これは後回しと決めていったん忘れる」ということが全くできなくて自分はもちろんなんだけど周りまで「ああまた」と不安にさせて、罪悪感ともどかしさと自己憐憫がどす黒く混じり合った……まるでとびきりの毒ジャムみたいなもので、身体の内側がいつもべたべたしていた。
毒ジャムの浄化。この物語はきいちゃんの抱えた毒ジャムが浄化されていく話。
最後の一話、あと2ページで物語も終わるというところでどうしても涙が出て、たぶんきいちゃんは泣いていないんだけど(私『ないたあかおに』に対する洞察にうなってしまった)でもだってこれ、正統派剛速球ビルドゥングスロマンではなかろうか。第一話とこのラストシーンと、きいちゃんはすっかり別人です。
一見とても可愛らしく、実際とても刺さり、けれどその傷口さえとてもきれいに洗い流されて読後感はさわやかな目覚めのよう。またきょうが始まり、悲しかったり嬉しかったりしながら人は生きていくわけね……しみじみとそんなふうに思う、新学期前にふさわしい一冊でした。
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