東直子『水銀灯が消えるまで』(集英社文庫)


先日……といってもずいぶん前の投稿だけど、穂村弘との共著っていうか相聞歌っていうか、『回転ドアは、順番に』(→感想 )からの続きで。このかたの歌集を未読という順番むちゃくちゃ具合ではあるものの、小説の中になんていうんでしょうこの、光を反射するアルミ片がまぎれている感じ。


舞台はさびれたレジャー施設、コキリコ・ピクニックランド。全く繁盛してないのに、さまよう人々がふいっと吸い寄せられていく。名前さえ明らかにならない人もいる。顔もあんまり具体的には想像つかない。もはや記号としての「誰か、私かもしれない私たちのうちの誰か」の物語。


引っかかっているアルミ片のひとつ。道ばたさんと呼ばれる女性がつぶやく言葉。「夜明けのうつくしさに負けちゃいけないと思うのです」……夜明けって、苦しみもいつか抜ける日が来るというような文脈でいつも肯定的なニュアンスで見ていたので、負けちゃいけないといわれると意表を突かれて、今も解釈を考えています。なんとなくイメージはできる気もするけど、指のあいだからするんと逃げてしまう。


夜が明けて世界が明るんでも、また日が暮れて夜がやってくるし、ラスボスやっつけたぞーこれで安泰だーなんてことはなくて、クリアは一瞬のやすらぎ、日が傾けば過ぎた夢やまやかしみたいなもの、と言語化するととっても冷淡になってしまうけど。ああ、気になる。道ばたさん、何を考えていたのよう。


まんまと絡め取られたような! 好きになってしまいそうな!


水銀灯が消えるまで (集英社文庫)/東 直子
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↑表紙が酒井駒子さん(大好き)の絵っていうのがまたいいですね!