BlackDragon Scene36 闇からの依頼
不思議だった。
何かが違っていた。
オタイトの眼が開けば完全に自分の意思を失い、なすがままにされるはずだ。
なのに、ロイの意識ははっきりと澄みわたっていた。
自分の手を見下ろし、動かしてみると普通にできる。
「不思議そうだね」
モントロの声にはっとして視線を向ける。
「その眼は君を操るほどの力はない。ごく弱いものだ。
だからこそ、あの神経質なウィザードもそれに気づかなかったんだけどね」
モントロはおかしそうにくっくっと声に笑いを含ませた。
「それと面白いことにね。
火薬の匂いはオタイトの香りを消すようだよ。
まあともかく、それはただ君を助けるだけだ」
「助けるだと…?」
「そう、その眼が君の肩にある限り、君はどんな幻術に惑わされることもない
奴が姿を消そうが君を眠らせようとしようが効かない」
モントロが側に立っている。
ほんの少し身じろぎするだけで、すぐ触れるくらい近く。
頭の中をぐるぐると警告が駆け巡る。
だが、ロイはモントロから身を遠ざけようとしなかった。
「第一、君は死んでもいない。
これまでと同じく、君の意思で好きに動ける。
なぜ、こんなやり方をするか教えようか?」
ロイは銃に手をかけることも忘れてモントロの言葉に聞き入っていた。
…幻術が効かなくなる?
「君を殺してオタイトを体に入れるとしよう。
だが、中途半端な量では君は泥人形のように動くだけだ。
そんな木偶の棒達を沢山見ているだろう?
君の素晴らしい銃の腕前まで殺したくないんだ…」
もう一度モントロと目が合う。
合ってしまう。
「正直言うと」
モントロの目は不思議な色合いを帯びていた。
何色とも判別のつかない光が揺れている。
「今、僕の手元にはまともな量のオタイトがない。
どこぞの野犬共のお陰でね」
今までのモントロとは違う、暗い炎が目に宿る。
「君は彼らがどこに巣を作ってるか知ってるね?」
ロイはまだロイ自身なのか?
「あんたの言うことを聞くのは一つだけだ」
モントロから目を離して、ロイが応える。
そう、確かに操られてなどいない。
しっかりと自分の意思で話している。
ただ…以前ほどモントロに嫌悪感を覚えなくなっただけだ。
子爵は再びいつも通りの微笑みを浮かべる。
「それじゃ、シアンを殺してくれ。
君にやってほしいのはそれだけだ。
そのかわりグレイスは必ず助けて、君のところに連れてくる」
「わかった」
ロイは答えた。
自分の意思で決めたことだった。
脳裏にシアンの家の居間が浮かぶ。
そして、あの兄弟の笑顔が。
親しみを覚えた人間を殺すのは何もはじめてではない。
だが、せめてドミニクの前でシアンを殺すのは避けようと思った。