新規オープンした店は出玉を印象付けたいためにしばらく甘く動かすのが定説だが、初動に失敗すればとたんに閑古鳥が鳴くのももちろん定説である。

 

住んでいるアパートから一番近いパチ屋は「アラジン」で、ここは物心つく前から存在していた。

入り口のガラス戸は大きく重く、ところどころメッキの剥がれた金色の大きい取っ手を引くか押すかして開けると、お世辞にも綺麗とは言えない正方形に近い板張りの床がごつごつと張り巡らされ、等間隔に背丈より少し大きい棚が5列ほど並び、奥に見える薄暗いカウンターには遠近法で少しだけ小さく見える人の良さそうな小太りのおばさんが暇そうに立っていた。

いつ行っても客はまばらで、どうやって営業を続けていられるのか高校生の頃から謎だったが、不思議と釘が甘い台もあり、めちゃくちゃ面白かったニューギンのダブルエースが打てなくなった後も、遊びでたまにハネモノを打ちに行っていた。

こういった今にも潰れそうな店は伊藤の大好物で、車を持っていない彼のリクエストに応える形で行く事が多かったのである。

アラジンは閉店10分前から店内の電気を落とすので、閉店直前に大当たりすると真っ暗に近い中で電飾がいつもより綺麗にピカピカするのが楽しかった。

時間になると正面入口は閉鎖されるので、カウンター右側の狭いドアから外に出て隣接された掘っ立て小屋の換金所へ向かう。

店は峠の入り口に位置していたため周囲は森に囲まれていた。

そのせいか蛾がたくさん換金所の裸電球の回りを飛び回り、テーブルの上ではいつでもカナブンが闊歩していた。

 

アラジンの次に近いのがメインにしている第三である。

そこから少し車を走らせればいくらでも店はあったが、10分以内に通えるアクセスの良さは無かった。

パチ屋に行くのは日々の生活の一部なので、家の近くに立地していることが一番望ましいのは言うまでない。

 

そんな中、第三より距離の無いバイパス沿いに新しいパチ屋がオープンした。

名前は「SQUARE」。

グランドオープン直後は出していたとしても結局入場のクジ運に左右されてしまうのが嫌で基本的に行くことはない。

時短営業に並んでいる時間も勿体ないし、別の店で良い台を探して打つ方が確実に勝てるからだ。

その例に漏れずSQUAREに行き出したのは客付きが落ち着いてから、というか客が飛んだ後だった。

 

換金率2.5円が標準の地域で2.3円ということもあってか、ただ初動に失敗したためか、2週間ほどの超スピードで過疎化したSQUAREは盛り返しに必死なのか回る台も多く、流行り始めたスタンプサービスも実施していて「綺麗で空いていて勝てる店」として定着した。

ハマり男くんも勝てる臭いを嗅ぎつけたのか見かける事が多かった。

 

このSQUARE、市内に何店舗か持っている怪しい噂のあるグループの店だったのだが、ありえないくらい回る台に座って勝ち確だと安心していると、ありえないくらいハマって負けるのが日常になる事が多く、第三で年1でも喰らわないようなハマりを高頻度で起こすので、次第に「回っても油断ならない店」として認知するようになった。

ハマり男くんも同様の認識で「まあ何かやってるよね」と笑い話半分本気半分で話していた。

理不尽を加味してもなんだかんだで勝てていたため重宝したが「当たらない台は回っても捨て」という完全確率方式を無視した新しい立ち回りが生まれる事になる。

ハマり男くんは怪しいと言いつつも回れば打ち続けるデジタルスタイルを崩さなかったので、名前に由来する彼の才能か、店の悪事か、はたまた風水かは死ぬまで不明だが、やはりクソハマりして負けたと文句を言う日が多かった。

 

SQUAREの店長は無類のパチンコ好きらしく、導入台がマニアックな事が多く、しかも大量導入するので目論見が外れると(というか大抵毎回外すため)どんどん客は減って行くのである。

面白い台が人気台とは限らないのだ。

 

 

京楽のボンバーキャットはかなりのマイナー台だと思うが、SQUAREにはなんと2シマも導入され、見渡す限り同じハネモノが並んでいる光景は壮観だった。

 

導入日。

開店時間より少し遅れて店に入ると先客は2人。

残り30台の釘を端から順に見ていると、ハマり男くんが逆側から釘を見始めているのが目に留まる。

途中で交差して入れ替わり、先に全台を見終えると、奥側の真ん中あたりの何か光るものを感じてキープしていた台へ素直に座った。全台開け調整だが、その中でも別格の台が何台かあり、さらにその中でも一番良い台を選んだつもりだ。

ハマり男くんも釘を見終え「全体的に良さそうだね」と俺に話してからゆっくりと逆側の端の方に座った。

 

 

 

ボンバーキャットはラウンド変動型のハネモノである。

ハネから拾われた玉がVゾーンに入賞すると、役物上部のドット液晶に絵柄が表示され、その結果で継続するRが決定する。

ミサイルは1R、魚は2R、ネコは5R、Vが15R。

比率は表示上通り、8:6:1:1。

賞球は6&12で15R時の出玉は約1500個、パンクはほぼ無いためR数x100発程度が出玉の目安となる。

 

1チャッカーと2チャッカーがあるが、2チャッカーが小デジタル抽選による電チューとなっていて通常時はほとんど開かない。

仮に小デジタルが当たっても開放時間が一瞬過ぎてほぼ拾わないのである。

ハネに拾われた玉がハネ奥のステージを素早く通過し、貯留システムの穴にある突起物が跳ね上がる前に穴に留まるか、通過すればほぼ大当たりとなる。

イリーガルな入賞はほとんどなく、99%このパターンの入賞であるため、ハネからステージを通るスピードが最重要で、内側へと寄せるバラ釘の調整が重要となる。

京楽のハネモノはスーパーファイター等、似た機構が多くゲージも変わらなかったので、慣れれば釘読みはそれほど難しくはない。

タヌ吉くんも後発の玉ちゃんファイトもハネ根元に寄せる寄り釘が最重要である。

 

ボンバーキャットが一線を画していたのは、一度Vが出ると「次回Vが出るまで」電チューの開放確率と開放時間が大幅にアップするのである。

電チューに拾われると(2開放の)1回目開放時は邪魔をする突起物が下がったままとなるため、拾えばかなりの確率でVに入賞する。

電チューは頻繁に開くようになるので、次にVが出るまではほぼ玉を減らさずに(拾いによっては増やしながら)V入賞し続けられるのである。

継続率は15/16=93.75%。

平均出玉は初回Vを含めて5500個となる。

 

この日はあまりにも状況が良かったので、小学校からの親友であった渡辺をホール設置の緑電話のプッシュボタンを10回押して召喚し、吟味してあった台を教えたが、散々もみもみしてやっと出たVの次当たりがVと言う究極無駄ヒキを発揮、その後もVが出ず「やっぱり自分にパチンコは向いてない」と赤い顔してプンプンしながら±0で帰って行った。

 

自分の台はと言うと、鳴きも寄りも超性能だったのはともかく、ネカセなのか役物が神がかっていて、タイミングが遅くても突起物を乗り越えVに入るもんだから、Vが出なくても2Rが引ければ増えて行き、あげくV~V間で110連もしたもんだから5万発近くの出玉に埋もれる事となった。

当然、全台ぶっちぎりのトップ台で閉店まで打っていたので結構な客寄せにはなったのではないだろうか。

 

翌日に同じ台を打ったら役物が(ネカセか)別物になっていて、素早く拾ってもまっすぐ役物に落ちないからVに入らない、貯留穴の突起物の上昇バネが強すぎて貯留した玉がVを外すという180度反転超絶悪調整になっていて、この店の客が減り続けている理由がなんとなく垣間見えた気がした。