第三から4km弱ほどのアパートへ向かい、マフラーから白い煙を吐き続けるミラを走らせた。
経路の信号は3つ。
最初の2つの信号は運よく青のまま走り抜けられたが、最後の信号に引っかかってしまった。
一旦エンジンを停止させる。
再び走り出せるかの不安からか、額にベタっとした汗が染み出す。
ほどなくシグナルが赤から青に変わると、キーを回してエンジンに着火した。
ゴクリと生唾を飲み込み、ままよとニュートラルから3速にギアを入れ半クラッチでアクセルを踏み込む。
のそのそと動き始めたミラが段々と加速していくと、再びバックミラーが真っ白に塗りつぶされた。


やっとの思いでアパートにたどり着き、さてどうしたものかと思案する。
あの状態じゃいつ動かなくなるかわからないけど、とりあえずミラを買ったマツダに持って行ってみようか。
まずはマツダまでどうやって行くかだなあ…。

目の前にあったずっしりとした重みの黒い子機を充電器から持ち上げ、緑色に発光する外線ボタンを押す。
外線ボタンが赤色に発光したのを確認して住所録にある坂本さんの電話番号を打ち込む。
ピポパポと間の抜けた電子音を鳴らし終えると、プルルルという呼び出し音が鳴り始め、何度かコールして止んだ。

「もしもし~」
「あ、lycoですが坂本さんいますか?」
「あ~lyco君ね~。はいはい、ちょっと待って~」

電話に出たのは奥さんで、その柔和な声に少し心が和らいだ。

「おうlyco。どうした?」
「さっき第三から出た時にミラがマフラーから白い煙吹き出しちゃって」
「今どこにいるんだ?」
「あ、とりあえず家にはたどり着いたんだけど、怖くてもう動かせない」
「まあ遅かれ早かれ止まるだろうなあ」
「マツダに持って行ってみてもらおうと思うんだけど?」
「ルマンのところか。多分もうミラはダメだと思うから新車買ったら?」
「シトロエンとか買おうかなあと思ってたんだけど」
「んなもん維持費が半端ないからやめとけ!日本車が良いよ。」
「そっかあ。じゃあルマンにカタログでも貰ってこようかな」
「そうだな。途中で止まったら困るから明日の朝、迎えに行くよ」
「え!良いの?助かる!」
「途中で止まったら牽引してやるから」
「今度ランチでも奢るね!」
「んなもんいらんよ。じゃあ明日10時前に行くから準備しておけよ」
「ありがとう!よろしくたのんます!」
「おう」

電話を切ると急におなかが空いた。
そういえばお昼食べてないなと思い出し、外へ出て自転車を引っ張り出すと、張り巡らされた蜘蛛の巣を左右に引き裂き、久しぶりの自転車で風を切りながら弁当屋に向かった。
ルマンというあだ名は知り合った当時にマツダ787Bが1991年のル・マン24時間レースで日本車初の総合優勝を果たしたことに由来するのを思い出した。



翌朝、9時過ぎに坂本さんから「今から行くと」電話があり、その30分後にインターフォンが鳴った。
じゃあ後ろに着いてこいと、走り出したえんじ色のエスティマの後ろ姿だけを見ながらマツダに向かう。
後ろを見ても白い煙で何も見えないから意味がないのだ。
いつ停まるか、ひやひやするから出来るだけ白い煙からは目を逸らしたかった。

第三での共通の知り合いでマツダの整備工であるルマンが働く営業所は坂本さんの家から5分程度のところである。
つまり、坂本さんにしてみればただの道路の往復で、わざわざ来た道を戻ってもらっているのだ。

爆発するんじゃないかな?くらいの勢いで白煙を撒き散らかしていたが、牽引してもらう必要もなく無事にマツダへ到着。
ルマンへ事情を話すと「直すより買い換えた方が良いよ」と(やはり)提案され、それじゃあと買える範囲内のパンフレットを貰う。
坂本さんが横で「俺のフィガロ、査定180万だから同額で買う?」とか言っているが、せっかくだから新車買いたいと丁重にお断りをした。

ロードスター、MX-6、ファミリアネオのパンフレットを貰い、ミラとはその場でさようなら。
ラゲッジスペースのフィーバーキングともお別れをし、二度と中古台は拾わないぞと心に誓った。


エスティマの助手席に乗り込むと、マツダから一番近いニュー南部に連れていかれた。
南部は田舎の超小規模店で朝からの客はまばらだ。
とりあえず釘見に一回りしたものの、良さそうな台は無かったので坂本さん打っている隣の台に座って車のパンフレットを見ていた。

そういえば前に連れて来られた時だったか。
綱取物語のモーニング狙いで着席後に500円玉をサンドに投入、開店の音楽が鳴るまでの手持ち無沙汰にハンドルを10円玉で固定しようとしたら、発射されてしまった一発の玉があろうことかスルリとヘソに流れデジタルが回転してしまった。
しんとした店内にてんてろてんてろと電子音が響き渡ると店員がすっ飛んできて「それで当たったら無効だよ!」と注意された瞬間にリーチとなり、てんとんてんとんと音が変わった。
するすると右の軍配がスクロールしていく液晶を「当たるな当たるな」と、いつもとは異なる思いで見つめる。
1周半ほど軍配がスクロールしたところで、テュティとハズレで止まり、安堵した瞬間、絵柄が再度始動。
軍配が左回りにめくれていく「のこったのこったスーパーリーチ」に発展してしまったのだ!
近くの台に座っている人たちも完全に野次馬化し、身を乗り出して小さな液晶を見守る。
てんといてんといてんといてんと響く音とノコッタノコッタのテロップ。
大当たり絵柄の少し手前からスロー回転が始まり…







綱取物語は平和のパチンコ台で表向きは1/247、2400発のノーマル機である。
内部はノーマルとはほど遠い作りになっていて、天国モード、通常モード、地獄モードと3つのモードを行き来する。
各モード滞在時の大当たり確率は
天国:1/37
通常:1/247
地獄:1/988
となっているため、一旦地獄モードに入ると一日当たらないこともざらとなる。

大当たり時のモード移行率は
天国:50%(1/2)
通常:33%(1/3)
地獄:17%(1/6)
である。
リセット時(電源ONOFF時)は通常モードから必ずスタートするが、地獄モードへの移行率が結構高いため、お昼過ぎには島全体が地獄モードとなる激辛台なのだ。
そのせいかリリース当初はかなり回る台が多かったが、リセットが強い事が知られるようになると途端に釘が閉まった。
リセット狙いの客は「リセットが甘い」の情報だけ信じて集まってくるのだが、1/247をまず当てる必要があるし、50%でしかループしない天国でも1/37の抽選があるため、大当たり後100回転近く見ないと安心してヤメられない仕様がそこまで甘いわけはない。
ましてや換金率は大抵2.5円。LN制または一回交換、持ち球移動禁止が基本のルールである。
稀に天国ループと通常での早い当たりが混ざって爆発する時もあるにはあったが、そんな淡い夢を見るなら確変CR機でも打った方がマシなのだ。
それでも夕方リセットする店などは大して回らなくてもリセットするだけで集客力があり、店としては良い台だったのではないだろうか。


スーパーリーチは1種類のみで(通常モード時の)信頼度は約50%程度となる。




数コマ前からスロー回転に入ったのこったリーチは、運良く手前の絵柄で止まり、それと同時に野次馬の熱も一瞬で冷めた。
ホールは再び開店前の静寂を取り戻し、しばらくすると開店の軍艦マーチが流れ始め、一斉にてんてろてんてろと電子音が重なり始めた。




南部では翌年に発売された三洋の初代ギンギラパラダイス(3回権利)も打った記憶があるが、あまり良い思いをした記憶はない。
坂本さんは家が近くだったせいか良く来ていたらしいのだが、田舎のパチ屋というのは常連風が強くてなかなか敷居の高いところである。