人気の無いシマ。
俺は蛍光灯の下でハンドルを握り、2発打っては止め、2発打っては止めを定期的に繰り返している。
根気がいる作業に飽きて、ふと座っている角台から外へ目を向けた。
店を囲むように植えられた植物は、ミラーガラス越しにもかかわらずその生命力を感じさせる。
その向こう側に見えるアスファルトは、天高く昇った太陽にじりじりと焦がされるのをじっと耐えていた。
目線を台に戻し、2発、2発と打ち出す。
バネに弾かれスロープから飛び出した玉が風車を回し、真横に飛んで狭い命釘の隙間を勢いよく抜けてクルーンを回る。
約8周。
台のクセによって変わるが、この角台の場合はほぼ8周から9周回った後に役物へ落ちていく。
狙った通りのタイミングで役物に落下した玉は、第一関門のピンクのゾウを通過し、トラを乗り越えたが、次のベロのタイミングが合わず、あえなくハズレ穴に落下した。
ふっと短い溜息を吐き、10円玉で固定したハンドルの金属部に手を当て、2発打ちだす。
そうしてまた次の2発を打ちだそうとしたところで、人の気配を感じた。
「あーいたいた!lycoくんこんにちは」
「あ、こんにちは」
この場に似つかわしくない、深いブルーのスーツを着こなした初老の男性だった。
いくつかの事業を営んでいる母の知り合いだ。
「これ面白いの?」
「面白いといえば面白いですね」
「そうか」
「はい」
「これ、ずっと続けるの?」
「どういう意味ですか?」
「仕事、紹介するからどう?」
「ありがとうございます。でも今はこれで良いですよ」
「これさ、例えば20年後も同じように、今以上に結果出せると思う?」
「それはわからないけど、大丈夫だと思いますよ」
「…そうか。また来るよ。頑張って。」
「わざわざありがとうございます。」
じゃあと手を振り、足早に自動ドアを抜け外に出た彼をミラーガラス越しに見送る。
20年後ね。
パチ屋は一見さんが打ちたくなるような広告塔になる打ち手が必要だから俺はそれを続ければ良いだけ。
店が全て無くなることはないだろうし、余計なお世話だよ。
クルーンに飛び込んだ玉で思考は中断され、くるくると回り、少しづつ勢いのなくなる玉を見守る。
8周して役物に落下した玉が今度はベロを抜け、ライオンをくぐりぬけてデジタル開始チャッカーへ到達した。
プラスチックの中で赤白く発光する7セグが騒がしい機械音とともにちかちかと変動を始める。
「DOKIDOKI 動物ランド」は平和の権利モノである。
天穴の左下に玉一つ抜けられるだけの入り口があり、その狭き門を抜けるとクルーンを通じてから中央役物に落下する。
中央役物へ落下した玉は、まず左右に揺れるピンク色のゾウにより左右に振り分けられることになる。
右側に傾いている場合はハズレ穴に直行し、左側に傾いている場合は次の関門となるトラに向かう。
トラも左右に揺れていて、左側に傾いている場合はハズレ穴に落ち、右側に傾いている場合はプラスティックのベロまたは、中央右に位置するワニへと向かう。
トラとワニの間ではベロが出たり引っ込んだりしていて、ベロが出ている状態の時に玉が通るとそのままライオンに落下する。こちらがメインルートとなる。
ベロが出ていない状態の時は奥のハズレに落ちるか、トラからワニへと渡る。トラとワニは反転して同期しているため、水平に近い状態の場合のみ最下段に誘導されるが、こちらのルートはかなりタイミング的に厳しい。
最下段に到達すると、またもや左右に揺れるライオンが待ち構えていて、ライオンが水平から左に傾いている場合に玉が抜けていくと、ようやくデジタル回転のチャッカーへ到達する。
デジタル大当たり確率は1/5。
2回ワンセットで2回目のデジタルはほぼ100%当たりとなる。
賞球7&15で最大4800発の出玉となるが、デジタルを回すのが困難なため、大抵2回目の権利獲得に出玉を削られることになる。
この機種のデジタルは少し変わっていて、ゾロ目の±1でも大当たりとなる。
左右デジタルは3~7であり、43や45は大当たりとなるが、37や73は大当たりにならないので、初見では少々分かりにくい。
デジタルが回転するまでのプロセスを単純化するとこうなる。
1.クルーンに入る
2.ゾウの左側に抜ける
3.トラの右側に抜ける
4.ベロに乗る→6. ベロに乗らない→5.
5.ワニの右側に抜ける
6.ライオンの左側に抜ける
役物は辛めでゾウの左右振り分けが約1/2、トラとワニは同期しているので1/2、ベロが1/2、ライオンは1/2弱程度で合わせて約1/12~1/16。
デジタルが1/5なのでトータル1/60~1/80程度。
千円で8個程度役物に入ればボーダー以上となる。
クルーンでの待機時間が台(釘やネカセやクセ)によって一定になりやすいので、左に行くタイミングを狙っての2発打ちだったが、それをしている最中にあることに気がついた。
最初のゾウと最下のライオンが同期しているのだが「ゾウの傾きが下から上に戻り水平になる直前に左に抜けた玉のみライオンを抜ける」のだ。
なので、いくらゾウが左に傾いていたとしても、上から下に下がる時はほぼノーチャンスとなる。
止め打ちである程度狙えても時間はかかるし玉の勢いによってはクルーンが予想以上に回ってしまったり、即落ちしたりして効率が今一つ悪い。
75で停止したハズレデジタルを見つめながら、仕事紹介するよと上から話す社長の顔を思い出す。
打ち出しがズレて絶対ダメそうなタイミングで玉がクルーンを回っている。
「このタイミングで落ちないとダメなんだよ」何かに焦ったのか軽く台を叩く。
手前を回っていた玉が穴に向かい、ぶるぶると震えた後にゾウに落ちて右のハズレ穴に向かった。
あれ?これ落とせる?
次の玉がクルーンに入り、くるくると回る。
さっきより少し前のタイミングで叩いてみたが、今度はさっきより穴でのぶるぶるが長くてまた同じようなタイミングで右のハズレ穴に落ちた。
そうか、玉がクルーンを回っているスピードによって残る慣性が違うのか。
クルーンで回る勢いが強い時は叩いても穴には向かわないこともわかった。
そして、玉の勢いと叩く強さで「ゾウの傾きが下から上に戻り水平になる直前」でゾウに落とせるタイミングをほぼ完ぺきに理解した。
トラのタイミングとベロが関門になるだけで、役物クリア確率は1/4程度になった。
この日から、混雑した時間を避けるために、平日10時~17時のみ打つ事を決める。
土日と定休日の木曜を除く週28時間だ。
出来るだけ釘の良い台を選んで「叩くのはここぞという時だけ」と決めていたが、それだけでも2週間で50万を手にした。
6月が始まろうとしていた。