ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜 | 日々是好日

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徒然なるままに

生誕100周年に当たる節目がゆえ、太宰治作品の映像化作品です。太宰といえば、ただもうとにかく暗い。絶望的に暗く、破滅的に哀れ。代表作「人間失格」をはじめ、太宰は自身の作品中に自分自身の分身を投影したりもしています。地方の名家の出身でありながら、幾度となく挫折して人生に絶望した挙げ句に自殺未遂を起こし、果ては心中の果てに一緒だった女が死んで自分だけが生き残り、妻と子を残して愛人とともに玉川上水に身を投げた。。。放蕩三昧、遊蕩三昧、だらしなくていい加減、それでもなぜか女にモテる。太宰自身がそうであったように、本作の主人公である大谷もまた然り。

原作は太宰が自殺する2年前に書かれた短編だそうですが、僅か10ページにも満たない短編をよくぞここまで広げたものよと感心。多少の脚色はあれど、セリフの一言一句に至るまで原作に忠実に再現されています。浅野忠信、上手いですね。セリフまわしといい、昼間から飲んだくれる人非人といい、女に片っ端から手を出すふしだらさといい。対する松たか子はいい女優になりなさった。目がいい。光もあり、奥底に秘めた力といい。良妻賢母を地でいくってもんです。どんなにだらしのない亭主であっても、身を呈して受け入れ、そしてただ辛抱強く待つ。美貌がゆえに、何人もの男に言い寄られながらも貞操を守り抜く。今じゃそんな事やった日にゃ大事ですよ。女は黙って後ろに着いてこいという時代じゃありませんから。男女同権はただいたずらに女を強くしたのでしょうか。

終戦間もない混乱した世相や街並。それでもたくましくしたたかに生きる市井の人々。そういった描写はさすが根岸吉太郎。文学作品の映像化という、ハードルの高い作品もそつなくこなしました。暗い中にもユーモアがあり、どこか憎めない大谷に自身の姿をだぶらせてしまうのはオレだけではないでしょう。★★★☆