【ディスクレビュー♪13】
YNGWIE J. MALMSTEEN / Trilogy
(1) You Don't Remember, I'll Never Forget
(2) Liar
(3) Queen in Love
(4) Crying
(5) Fury
(6) Fire
(7) Magic Mirror
(8) Dark Ages
(9) Trilogy Suite Op:5
デビュー40周年を冠して今年来日を果たしたYNGWIE J.MALMSTEENのソロ(及びRising Force)名義3作目。1986年発表。
このアルバムもまた、リリース間もない頃、私の師匠から薦められて聴いた。「速い曲」が好きだった私に薦めてくれたわけだが、「速い曲」ではなくギターの「速弾き」だった。
(1)を聴いた私は少しがっかりした。全然速い曲ではないし、ギターソロもYNGWIEにしてはゆったりしたメロディで始まってたりする。そして肝心の「速弾き」だが、当時は全然速くないと感じた。いや、これは後に私がギターを弾き始めてようやくYNGWIEの速さを実感するわけなのだが…。
一転、(2)は私の好きだったパワーメタル寄りの速い曲で、(1)でCDプレイヤーの停止ボタンに延びかけた私の指先を止めてくれた良曲。
(3)は(1)と同じような系統のゆったりとした曲、(4)はアコーステックギターから徐々に盛り上がっていくインスト、(5)は速い曲。という風に、なんだかんだ緩急織り交ぜて最後まで飽きさせずに聴かせてくれるバランスの良い作品。
と、当時は掴みが悪いにもかかわらずよく聴いたアルバムに過ぎなかったが、今にして思えば前半は次作以降の歌もの路線の布石を打つキャッチーな曲が多く、後半は前作までの荘厳でクラシカルな曲が並び、YNGWIEがより多くのフォロワーを獲得するトリガーとなった名盤だろう。このアルバムからは(1)(9)のような、今でもライブの定番となっているYNGWIEの代名詞となった名曲も誕生した。
最近、Xのポストで「様式美」というキーワードをよく見かけるようになった。
このアルバムが発表された頃は、YNGIWIEは様式美の正統な継承者とみなされており、「速弾き」と「様式美」を融合させたそのスタイルは、「ネオクラシカル」という新たなカテゴリーを生み出した。
元々、様式美とはブルーズを起源とするHRに、クラシック的なコード進行や音階を融合させたり、中世ヨーロッパテイストのフォークソング的雰囲気をHRに取り入れたリッチーブラックモア固有のアプローチに対して表されるカテゴリーだった。それが、後になってDEEP PURPLEの一部の楽曲や、リッチーと音楽活動を共にしたロニーディオやグラハムボネットなどのリッチー関連人物に伝染病的に受け継がれていったとみなされていた特異なカテゴリーと言える。YNGWIEにしても、様式美の継承者として扱われていたのは、ソロキャリア以前にALCATRAZZでグラハムボネットと活動していたからであり、そのプレイスタイルがリッチーブラックモアに似ているわけではない。
HR/HM界隈で様式美というカテゴリーが存在していたのは1980年代までで、1990年代に入ると、めっきり見かけなくなった。つまるところ、死語になった。その理由は、様式美の後継者たるYNGWIEの音楽が「ネオクラシカル」という新たなカテゴリーを生み出したことに加え、当のリッチーがHRとは別のジャンルの音楽にシフトしていったことだろう。