村上春樹さんが大好きです。
(この僕らの住んでいる世界には、いつもとなり合わせに別の世界がある。)
(君はある程度までそこに足を踏み入れることができる。そこから無事に戻ってくることもできる。注意さえすればね。でもある地点を超えてしまうと、そこから二度と出てこられなくなる。帰り道がわからなくなってしまう。迷宮だ。(・・・)迷宮というものの原理は君自身の内側にある)『海辺のカフカ』
(僕の本は読者に、自由の感覚を、ーー現実世界から自由になった感覚をーーもたらすのかもしれません。)『A Wild Haruki Chase』
(この世界における一人ひとりの人間存在は厳しく孤独であるけれど、その記憶の元型においては、私たちはひとつにつながっているのだ。)『海辺のカフカ』
『螢』より抜粋
(僕は手すりにもたれかかったまま、そんな螢の姿を眺めていた。長いあいだ、我々
は動かなかった。風だけが、我々のあいだを、川のように流れていった。けやきの木が闇の中で無数の葉をこすりあわせた。僕はいつまでも待ちつづけた。
螢がとびたったのはずっとあとのことだった。螢は何かを思いついたようにふと羽を拡げ、その次の瞬間には手すりを超えて淡い闇の中に浮かんでいた。そしてまるで失われた時間を取り戻そうとするかのように、給水塔のわきで素早く弧を描いた。そしてその光の線が風ににじむのを見届けるべく少しのあいだそこに留まってから、やがて東に向けて飛び去って行った。
螢が消えてしまったあとでも、その光の軌跡は僕の中に長く留まっていた。目を閉じた厚い闇の中を、そのささやかな光は、まるで行き場を失った魂のように、いつまでもさまよいつづけていた。
僕は何度もそんな闇の中にそっと手を伸ばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光は、いつも僕の指のほんの少し先にあった。)
村上春樹さんの作品は外れがありません。時間があったらぜひ読んでみてください。きっとあなたの知性と心を磨いてくれる糧になるでしょう。
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