『シェークスピア詩集』柴田稔彦訳より

 

『ソネット集』から

 

53,君の実体は何なのだろう、君は何で出来ているのだ、

   君以外の何百万という姿が君に寄り添っているが?

   どんな人にもそれぞれ一つの姿がある、

   だが君は、一人なのに、すべての人の姿をまとっている。

   アドーニスの姿を表現してみようか、するとその絵は、

   君を稚拙に模倣したものにすぎないことがわかるだろう。

   あらゆる美の秘術をつくしてヘレンの絵を描いてみようか、

   するとギリシア風の服をまとった君の新しい絵が現れる。

   万物が生まれる春と稔の秋を話題にしようか、

   すると春は君の美しい姿の影のようなもの、

   秋は君の豊かな気前よさを見せるだけだろう。

   君はぼくたちの知るすべてのよきものの姿になるのだ。

   外から見える魅力のすべてを君は他と分けもっているが

   一途な心にかけては、誰にもない、君一人のものだ。