私は今旧姓で働いています。

どうしてってよく尋ねられますが、名前が変わるということにものすごい違和感を抱いていたのは確かです。
漠然と、名前が変わるのなんていやだ、と思っていました。

結婚した直後の病院の全体朝礼の場で、院長に「速やかに新しい名前に変えて働いて下さい」と言われ、憤りを感じたのを覚えています。
私はそれまで、それなりに自分の仕事に責任をもって働いてきていました。それが名前を変えることを強要され、ある日から突然別人として働くのです。

ありえない。。

そう思った私は、私と同じように旧姓で働きたいと思っている女医がいないか探しました。ネットの力ってすごいもので、何人か先輩を探し出すことができ、そうするための手続き上の裏ワザみたいなのを教えて頂きました。

そうして、なんとか旧姓のまま働いていますが、事務の方には毎年監査の際に、少し御迷惑をかけているようです。

そして、旧姓で働いている、ということを知らない先輩には、先日、
「訊きにくいことなんだけど、皆が知りたがっているから、代表して訊くんだけど。。離婚した?」
と言われてしまいました。
全く。。

そして、私の後輩にも一人、旧姓で働いている女医がいます。

彼女のお兄さんは、私の3学年上であったにも関わらず、温厚で優しいドクターでした。
私を含め、後輩から尊敬され、慕われておりました。その割にはアルコールが全く飲めない方でしたので、飲みに行く時はいつも送ってもらっていました。

ある時期になって、めっきり私達と一緒に遊びに行くことが減りました。病棟でも、口数が減っていました。
タメで話せる先輩でしたので、
「最近冷たいじゃないのー!!」
と私が言うと、
「うーん。そうだね」
と言われました。

それが彼との最後の会話になりました。

その次の日、彼は病院に来ませんでした。
心配になった上司が彼の家に行き、眠るようにして息を引き取っている彼をみつけました。

過労死という確定には至りませんでした。しかし、中堅の彼に仕事が一気にのしかかっていたのは確かです。

私にとって、つらい、つらい経験ですが、今でも診療をするときに、彼に教わったことを思い出します。彼のHOW TOが私のなかで生きています。

その彼の妹が、同じ専門を選択し、彼と同じ名前で働き続けることに強い意志を感じるのです。

旧姓でいることの理由は、人それぞれ。
でも、もっともっと、社会の中で女性が旧姓でいることが、普通のこととして受け入れられる日が来て欲しいものです。