Soulmate -50ページ目

Soulmate

汝、愛されたければこそ、愛せよ。

$ソウルメイト


ねずみ色の雲が、低く広がっている。

雨あがりのせいか、この季節にしては暖かい。

この交差点を渡れば、芽衣のマンションに着く。


雨で濡れたわけでもないのに、ブーツが重い。

あともう少し行けば、懐かしい彼女の笑顔が見られる。

気軽に逢いに行けばいいのに。


彼女は許してくれているわ。


そうだ、10台目の車がタクシーだったら

この交差点を渡ることにしよう。



芽衣と私は、幼馴染で長い間苦楽をともにしてきた。

泣き虫の芽衣を、強気な私が支えるという関係だった。


でも、私は私で素直で裏表のない彼女といると安らいだ気持ちになれる。


なぜ、離れ離れになってしまったんだろう・・


そう、あの日があったから。



芽衣から電話をもらって、いつもの喫茶店で待ち合わせ。

先に着いた私は、ホットとハムサンドで遅めの昼食をとっていた。


ガラン、ガラン。


喫茶店のドアが開くと

芽衣が目にいっぱいの涙を浮かべて

こちらに駆け寄ってきた。


「芽衣、どうしたの? また、男にだまされたの?」


バッグから、ハンカチをとりだして、芽衣に渡した。

目頭を押さえている芽衣。

テーブルに水が置かれた。


「カフェオーレ、砂糖を多めに」


おっとりしている芽衣のかわりに

注文を私がするのが、いつものパターン。


落ち着いたのか、芽衣がこちらにむいて

首を振りながらこう言った。


「ううん、大好きな人ができたの」

「ええっ? なんで泣いてるの?」

「うれし涙。清美に報告できるのがうれしくって」


あきれた子だ。

うれしくても、泣いちゃう泣き虫。


「まったく、芽衣ったら。うれしいなら笑ったらいいのに」

「だって・・」


そこからは、彼女の彼への想いがシャワーのように噴出した。

話の順番が前後したり、また泣き出したりして・・

でも、彼への想いはいやというほど伝わった。


支離滅裂な会話の中から

なんとか、経緯がわかった。


弁護士をしていて、彼女の通う英会話教室で知り合ったらしい。

彼女の理想とする男性像がそこにあった。


「清美、清美に会ってもらいたいの」

「んん。いいけど。デートのじゃまじゃない?」

「ううん。私っていろいろあったから、清美にお墨付きがもらいたいの」

「そうか、いいよ。いつにする?」


1週間後に、ふたりでよく行くイタリアン居酒屋で会うことになった。


当日、芽衣とふたりで店に入り、

軽くアルコールを入れながら彼を待った。

仕事を終えてから来るということだ。


チーズの盛り合わせとチキンのトマト煮を肴に

白ワインをあけていると

ほどなく彼がやってきた。


「いやぁ、お待たせしました」


浅黒く、上背もありイタリアブランドのスーツを難なく着こなしている。

口からもれる白い歯が、好青年を演出していた。

女性が十人いたら、九人は心惹かれるタイプかもしれない。


芽衣の横に座って、私の真正面になった。

芽衣は幸せそうに彼を見つめていた。


私は、アルコールが入っているせいか

胸がドキドキして

彼の顔もまともに見れないでいた。


「ボクは、学生の頃にヨーロッパを貧乏旅行したことがあるんです」

「へー、うらやましい」

「南フランスの田舎で見たうさぎが、芽衣そっくりなんです」

「ええっ、私って小動物?」


彼の腕を芽衣がこづく。

彼の会話は途切れることもなく、魅惑的な花の香りのようだった。

なぜか、彼は私の目を見つめて離さない。

気持ちが彼に傾くのが自分でもわかる。


「ダメよ」


と気持ちを切り替えるために、化粧を整えるため席を立った。


化粧室の鏡には、顔がほころびいつもと違う私が映っていた。

首を激しく振り、気持ちを整え化粧室を出た。


甘い香水が鼻についたと思ったとたん、

私は、壁に背中をぶつけていた。

目の前に、なぜか芽衣の彼がいて

私の唇に人差し指を押し当てていた。


「しーっ。清美さん。芽衣を送ったあと、どこかで飲みなおしませんか?」


あまりにも急なことで、呆気にとられてしまった。

何かをしゃべろうと、口を開こうとしたとたん

彼の口が、私の口をふさいできた。


蛇の鎌首のような彼の舌が、私の中で踊っている。

彼のふとももが、私の足の間に差し込まれ微妙な動きをとっていた。


「いい? 約束だよ」

「うん・・」


私は、すっかり、彼のとりこになってしまった。


芽衣に気づかれかれないように

時間差で席に戻った。

幸せそうな芽衣の顔を、まともに見れない私。


その日から、彼と秘密の付き合いが始まった。

彼に逢うたびに、とろけるような愛の言葉をもらい

幸せな気持ちを持ったけれど

芽衣の泣き顔が頭をよぎり、私を苦しめた。


そんなある日。

私のマンションから、彼と出ようとドアを開けたとき

芽衣が立っていた。


芽衣は、泣いていない。


「やっぱり、彼は清美にお似合い。私に気を使わず続けてね」


おっとりと笑う芽衣に、私は罪の重さで立っていられなかった・・。



そんなことがあったのに、芽衣からはいつものように、電話がかかってくる。

私は、出ることができなかった。


彼とも、その日から自然に疎遠となり関係は消滅した。




あれから、何年経っただろう。



私は、男性とのお付き合いもできず、

強気の私を支えてくれていた芽衣を失い

抜け殻のような生活をおくっていた。



そんな時、芽衣から結婚式の招待状が届いた。


どんな顔をして出席すればいいのか、

芽衣に対して幸せを願えるだろうか?

出席しないことを送り返そうと筆をとった。


でも、出席はできないにしても

直接彼女に逢って、過去を詫びよう。


そう思い立ち、この交差点に立っている。



「1、2、3・・・」



10台目の車が通りすぎた。


・・・タクシーではなかった。



でも、足が自然に交差点を渡り始めた。

そして、芽衣の部屋のチャイムを鳴らす。


ドアが開いた。



「清美・・」



芽衣の目から、あふれ出す涙。

ちいさな彼女が、私の胸に顔をうずめた。



「芽衣、あいかわらず泣き虫ね」



ねずみ色の雲間から、少し日がもれてきたようだ。




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学校から帰ってくると

やっと勉強から開放される。

宿題なんかそっちのけで、テレビにかじりつく。


そうしてるうちに、

友達からの呼び出しの声が玄関から聞こえてくるのだ。

遊びのプランは、日によって違う。


友人の兄貴に召集をうけて、野球をするときもあれば

通称“犬の山”と言われていた

森田くん家の廃車が置かれている空き地で、

基地ごっこをするときもある。


その中でも、最大イベントとなるのが

駄菓子屋めぐり。


お小遣いをもらえた日は、子供達の頭の中はに欲しいものが駆け巡っている。

子供の頃、住んでいた所には駄菓子屋が5~6軒あって

それぞれ、置かれているものが違うので

目的によって使い分けていた。


その中でも“石田屋”がトップクラス。

お菓子の品数も多く、おもちゃやくじ引きが豊富に取り揃えていたからだ。

石田屋は、自転車で10分ほどだったが

子供の感覚では、かなり遠出する気持ちになる店。


遠くへ行くという冒険心が、尚いっそうイベント感を増していた。

行く道中も、坂道を手放し運転で自転車に乗るという

スリリングなこともしていたものだ。


駄菓子屋でお菓子を食べるのも楽しみだが

なんといっても、くじ引きやおもちゃを買うことが最大の贅沢だった。


当時、流行っていたのはプロ野球チームの金属のバッヂをくじで当てること。

箱の中に、色のついた丸いガムが入っていて

箱から突き出た棒を押すと、ガムが転げ落ちてくる。


オレンジのガムが当たりだ。


当たりバッヂは、壁に吊り下げていて当たれば好きなバッヂがもらえる。

人気なのがセ・リーグのチームバッヂ。


当たりが出るたびに、人気チームのバッヂはなくなっていく。


私は、くじ運が悪いのか当たった時は

パ・リーグのバッヂしか残っていなかった。


それでも、男子達は学校の黄色い帽子に

ジャラジャラと勲章のようにつけていた。



おもちゃの中でトップクラスが

おもちゃの鉄砲。


細い赤い巻かれた紙に、火薬がついているものを鉄砲に装着。

引き金を引くと、火薬が爆発する。


当時は、爆竹や火薬を使ったおもちゃが普通に売られていた。


私は、破裂音が苦手だったので

引き金を引くのがかなり勇気がいった。

それでも、パンという音のあとに火薬の匂いがする爽快感は

特別なものだった。




石田屋のあった場所は、今は普通の住宅となっている。

でも、仕事でよく組んでいたコピーライターさんの奥さんが

石田屋さんのお孫さんだったこと知り、

懐かしさがこみ上げ、当時のことを思い出した。


今の子供達の駄菓子屋は、コンビニかもしれない・・

ちょっと、情緒がないかな。



知らない人も多いという、ペチカ。

今の季節に聞くとしみじみします。





$ソウルメイト



女性を花と例えることがある。

情熱の赤い花、清楚な白い花。

見た印象と、心が一致するとはかぎらない。

白く清楚にみえて、実は毒をはく人もいれば

情熱的で華やかにみえて、実は淋しがりやで弱かったりする。

そんな花々に、男達は翻弄されていく。

赤い花、白い花。

どちらも美しい。







■作者コメント

今回は、美人画に挑戦してみました。

花を描くのはむずかしく、

結果的にいまいち瑞々しさが、描ききれませんでした。

これからも、挑戦していきます。

ご観覧ありがとうございました。

$ソウルメイト


1960年年代後半、

長引くベトナム戦争に対し、

反戦活動の一環として、

自然と平和を愛する若者が、

自由と縛られた社会制度のない世界を願い

ヒッピームーブメントとして活動を始めた。

俗にいう“ヒッピー”である。


岐阜県中津川で、フォークジャンボリーという

ロック・フォークの野外公演が行われ

音楽の聖地として全国から若者が集まってきた。

そんな時代のお話。




まっすぐな道。


おんぼろワーゲン・ビートルが、

おつむに、寝袋やら、形のわからない荷物をのっけて走ってくる。


周りはさえぎるものがない。

地平には山すらないのだ。


スピードを上げたとおもえば、

よろよろと猫でも追いつきそうなくらいにノロノロと走る。

なんとも危なげない。


親指を突きたてた女がいる。


おかまいなしにビートルは通りすぎていく。


黄色のビートルは、ギュンと元気になった



とうとう力つきた。


窓から肘が見え、もじゃもじゃの長髪で赤いバンダナの頭がひょうこり出た。


「またかよ~。ニャロメーッ」


紫のペイズリー柄のシャツに、赤チョッキ、

髭もじゃの青二歳が、ハンドルに頭を何度も打ち付けている。



「ドン、ドン」


ボンネットから音がした。


「あんた、どこ行くの?」


窓から、女が顔をつっこんで聞いてきた。


「なんだ、お前。ほっといてくれ・・・」


助手席の窓が暗くなったと思ったら

無理やり、ズタ袋のバッグが押し込まれ

女も一緒に車の中に落ちてきた。


「パンパン」


手を払うと女は言った。


「さぁ、出発進行」


きょとんとする男を尻目に

女は前を指差している。


「はぁ? 出発って今の状況おわかり?」

「って、お前を乗せると言った覚えはないけど?」


苦虫をかんだ顔が、ただでさえむさくるしいのに暑苦しい。


「あはは、いいじゃない。早く走らせてよ」


腰までありそうな長い髪、

ビキニのブラに、ベルボトムのボロジーンズ

口元のホクロが印象的な美女が、あっけらかんと言い放った。


改めて女を見た男は、生唾を飲む。


「いそがねーと、中津川にまにあわねー」


「あんたもジャンボリーに行くの?」


「おうよ! 若者の聖地」


「こいつの尻でも蹴っとばせば、動くわよ」


「しゃーねぇ、あんた蹴飛ばしてくれ」


「オーケー」


女は、また窓からくぐ出て、ビートルの後ろにまわった。


「せーのっ」


ドン、ドン

キュルキュルキュル



「おーっ、いけそうだぜ」

「こいつ、女には弱いんだな・・」

と独り言。



「さー乗りなっ、聖地へ行くぜっ」



先ほどとはうって変わり、順調にビートルは走る。

まだまだ、地平は真ッ平ら。



「あら、ギターね」


後部座席にある、ボロっちいギターケースを見つけて、女は言った。



「おう、これでもバンドマンだからな」

「いいわね、私、歌うのよ」

「ほー、そいつはいいや」



カウンター席でラーメンをすするふたり。



「ひとりもいいが、連れがいるのもいいもんだねぇ」

「あたいのようないい女と一緒で、あんたラッキーよ」

「今夜は野宿だ。それでもいいのか?」

「もち、慣れっ子よ 襲わないでね キャハハ」

「バ・バカいうない。これでも紳士だ」

「その顔で、ワハハハ」



町から町は、また地平線。

日が沈む。


焚き火がふたりを照らす。


「あたい、一旗あげたくてさぁ。家をおん出たの」

「何? 家出娘かっ」

「・・・うん。そんなとこ」


ボロロン

ギターを摘みあげる男。

ブルージーなメロディーが夜空に響く。


「あら、朝日のあたる家ね」

「んん」


オレンジ色に染まる、女の横顔が妙に美しい。


「わたしが~着いたのは、ニューオリンズの~朝日楼という名の女郎屋だった~」


切なく、そして力強く歌い上げていく。


夜空のセッション。



そして、終演。


不安なまま家を出て、歌うことだけを信じて闇雲の中

たまたま、出会った男が自分を理解してくれる。

女は、恋に落ちたのだ。



チュ


女が男の顔をふさぐ。

ビキニをたくしあげ、たわわな乳房が星に重なった。


「一度、こんな野原でしてみたかったの」

「・・いいのか?」

「あんたの事好き」



男が、乳房を吸う。

唇の動きに反応するように、女の背中がよじれだす。



本当はこんな大胆なことをしたこともないし

考えたこともなかった。


今夜はそんなことを忘れるくらいに

気持ちが高揚してしまった。

自然というのは罪深い。


絡みあいながら、おたがいの服をはぎとっていく。


土と草の青い匂いが、

原始の頃に逆戻りさせていうようだ。


ドサッ


ビートルのボンネットに男が寝そべる。

そそり立つアンテナがカブトムシの角のように

反り返ったシルエットをかたどる。


女はそれを、キャンディスティックを

味わっているかのように味わっている。



ボンネットに両手をつく女。


恥ずかしげもなく、あらわになっている部分を

男は尻に手をそえ、舌でトレースする。


「おぉっ、おぉっ」


自然の中で、人はこうも人を忘れるのか?

あえぎ声も変わる。


腰に手をあてた男が、女に重なる。

機械仕掛けのブリキの人形のように

動き出す。



「おおぉ」

「ひぃぃ」



動きが止まる。


汗とは別のものが、女のふとももに一筋流れた。






雲ひとつない空。

一直線の道を地平にむかって、ワーゲン・ビートルが走る。



「いまさらだけど、お前、名前なんていうんだ?」

「言ってなかったっけ? じゃ、好きなようにつけてよ」

「なんじゃそりゃ。じゃマリアンヌでどうだ?」

「フランス娘かー。いいわね」



レッゴー、ヤング。

夢の中津川フォークジャンボリーが、君たちを待っている。



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朝。

エンジェルビルの屋上にあるペントハウス。

水中ゴーグルとヘッドフォン、皮ジャンの男が

ベッドから起きたとおもうと

冷蔵庫を物色。

トマトをがぶり、コーンビーフをかじり、

ナビスコリッツをバリバリ、魚肉ソーセージをむしる。

牛乳をがぶがぶ呷る。


ドラマ「傷だらけの天使」の有名なオープニング。


俳優転向から、ノリにのっていた時期のショーケンこと萩原健一と

弟分、片山右京こと水谷豊が繰り広げる探偵ドラマ。

先日亡くなった、脚本家の市川森一がメインライターで

あの深作欣二も監督として参加するなど

魅力的なドラマでした。


当時、小学生だった私の周りでは

このオープニングの朝食にあこがれる者が続出。

私も影響うけたくちで、

トマト、コーンビーフ、リッツ、魚肉ソーセージ、牛乳をとりそろえ

新聞紙をナプキンにしながら、このオープングの真似をしてみたことがある。

コーンビーフを初めて食べて、独特の風味を感じつつ

牛乳とトマトの取り合わせに、違和感を感じたものだ。


綾部探偵事務所の社長である岸田今日子と、

片腕である岸田森の姉弟で競演していて

独特の妖艶な世界が魅力的であった。


なんといっても、

水谷豊扮する乾亨が

風邪をこじらせて「兄貴、さむいよ~」といいながら

ドラム缶風呂の中で逝ってしまう最終回。

子供ながらに泣いた覚えがある。


BIGIのファッションも、今見てもかっこいいし

「悪女にトラック一杯の幸せを」

「祭りのあとにさすらいの日々」

とか長めのドラマタイトルが素敵。

70`sドラマはやっぱりいい。




$ソウルメイト



美しき竪琴の音色と歌声に聞き惚れて

船乗りは、舵を取り損ねて沈んでしまう。


AKB? K-POP? 萌え?

手に入らぬお人形さんの、尻尾を捕まえようとするうちに

魂まで抜かれぬように。


このままでは、日本丸は沈んでしまいます。
$ソウルメイト


軒下の隙間が、風の音をよりいっそう大きく演出している。


「むっ、むっ」


白髪が昨年よりもいっそう増え、雪山のようになってしまった。

その割には、肩からの形がしなやかに獣を形づくっている。

時よりキラリと閃光するのは、朝日が少し高くなってきたからだ。


元馬廻り役筆頭 片山主人は

毎朝、剣の型をとっている。

今朝は今年一番の寒さだというのに、縮こまる気配はない。

肩から湯気がうっすらと立ち上がる頃

刃を鞘にそっと収め

井戸へ向かったと思うと


カラ カラ カラ


と釣瓶を手繰り寄せると

ざぶりと水をかぶった。


「お義父上、お着替えと手ぬぐいはここへ」


「うむ、かたじけない」


声をかけぬとも、いつも同じ場所に置かれているのだが

律儀に声をかけるのも、長男の嫁である土岐絵の性格かもしれない。

嫁といっても、長男は他界している。

流行り病にかかり、あっけなく逝ったのが二年前。

通常なら里に帰されるのだが、土岐絵は家に残っている。

主人もつれあいを無くして、女手がない。


「お義父上を、ひとり残して帰るわけにはまいりませぬ

私はすでに片山家の嫁ですから」


まだ、二十七と若い。

やり直しがきく年齢ゆえ、良い縁談があればそうしなさいと

言ってもかたくなに言うことをきかない。

頑固なところも土岐絵にはあった。


土岐絵が離れないのは、理由がある。

家に愛着があるのも事実だが

主人の朝稽古に見せる完成された立ち振る舞いが

心を離れさせないからだ。

たったそれだけのこと。



ドンドン


「片山殿、片山殿」


めったにない来客のようだ。

何かしら緊急の事態ということが、無作法に戸を叩く様子でわかる。

主人は、ずいと玄関先に向かうと

客人とぼそぼそ言葉をかわしたあと

急ぎ足で戻った。


「土岐絵。裃の用意をしてくれ

城に呼ばれた。今夜は帰らぬゆえ。先に床につくように」


仕度を整えると、客人とともに出かけていった。


翌日、昼時になって主人は帰ってきた。

表情こそ変わらないものの

目だけは、ギラリと暗い光を射している。


「土岐絵。今から荷物をまとめなさい。国へ帰るのだ」

「帰らないと申して・・」

「だまれ。今すぐにだ」


いつも、温厚な主人がいつになく強引に事を進めようとしている。

荷物をまとめては、手を止め、また始める。

その繰り返し。

天井をしばらく見つめたあと

意を決したかのように立ち上がり、

主人の元へ進みでた。


「お義父上。私はこのままでは帰れませぬ」

「もう、お前は用済みじゃ。国へ帰るのだ

新しい家族のもと、幸せになりなさい」


土岐絵は首を振る。


「わけを聞かせてくだされ」


いますぐ首をはねられてもかまわないというくらいの

決意にみちた顔をしている。


「だから、用積み・・」

「いいえ、そのわけではございません」


主人は、まっすぐ土岐絵をみすえた。


「ワシは、人を切らねばならぬ」

「!」

「刈谷重光という剣士を知っておろう」

「はい。狼藉が祟って牢にいるはずですが」

「刈谷は脱獄した。厄介なのは老中の離れに立て篭もり

たまたま遊びに参られていた、殿のお孫さまを人質にとっている」

「なんと」


深いため息を主人はとった。


「明朝、ワシはそこへ行く」

「なぜ、お義父さまがそのような大役を?」

「重光の剣は、藩内随一。おぬしも知っているだろう」

「はい。近年の御前試合では、他の追随を許さなかったとか」

「うむ、唯一互角に闘えるのはワシしかいないと言われてのう」

「でも、もうご隠居されているではありませんか」

「ワシもそう申し上げた。

じゃが、これからの藩をお守りする若い剣士を傷をつけるわけにはいかぬ。

老い先短いワシの、最後のご奉公ということでお引き受けしたのだ」

「・・・わかりました。お義父上を見届けさせていただいたあと

国へ帰らせていただきます」


しばらく、沈黙が続く。


「・・長い間、片山家の嫁として尽くしてくれて礼をいう」

「いいえ、私は嫁いできて幸せでした」


そっと立ち上がり、部屋を出た。


土岐絵は眠れない。



義父は、不安であるより、初めてみる男気に満ちていた。

夫を亡くしてから、毎日のように義父を見ていて

逝き場所を求めているかのようだった。

義父は逝き場所と、この度の一件を感じているのがよくわかる。

身体を起こすと、櫛で黒髪をとかした。



「お義父上」


主人の枕元にいる。


「土岐絵・・いかん」


首を振る。


「お義父上、よけいな力を私で収めてくださいませ」


襖からもれる月明かりが白いものを照らす。

白いものは、布団へすべりこむ。


「土岐絵・・すまぬ」


静かだった布団が、波を打つ。

やがて、硬い影と白いものが交じり合う。


「あぁっ」


ちぎれるほどに、乳房が形を変える。

たけのこのような生命の塊が

そそり立つ。

黒髪が、引き締まった肉に絡み

塊が影に見え隠れしながら、糸をひく。


獣が動く。


躍動がやがて、静まりかえった。


「お義父上、これをお守りに・・」


白い布を開くと恥毛が収まっていた。


「土岐絵とともに、いざ行かん」




一番鳥が鳴いた。



片山家であった場所は、今は隙間風の中にある。

主人の闘いは、かろうじて相打ちで幕を閉じた。

人質は、今は藩主として政を行っている。


土岐絵は、送り出したあと自害し果てた。


主人は、安堵の顔であったという。




この話は、尊敬する故・藤沢周平氏の小説のオマージュ作品です。

魅せる時代小説が、いつか書けたらと思っています。



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70年代に戦慄なムーブをおこした作品がある。

永井 豪原作「デビルマン」。

それは、雑誌連載とテレビアニメの同時にはじまった。

ふたつの作品は、設定は同じものだが内容はまるで違う。

子ども向けの観世懲悪のわかりやすいテレビアニメに対し

善とは? 悪とは?という不条理を描く漫画。

当時、ベトナム戦争の長期化による反戦ムードの濃い時代に

敵、味方それぞれに背景があり、

戦うことへの虚しさをテーマとしている。

なんといっても、漫画の最終面にあたるシーンが

今も心に残る。

人の心と悪魔の力を持つデビルマンとなった不動明。

人類を守るために闘い続ける明が

唯一、人として残された美樹への愛。

その美樹が、守るべき人類に無残に惨殺される。

不条理というか、痛烈なメッセージであった。

名作漫画だと思う。


一方、テレビアニメだが

これはこれで、ヒーローものとして

子ども心に憧れをもった名作。

特にテーマ曲がすばらしい。

エンディングの曲「今日もどこかでデビルマン」は名作。

あの、阿久悠と都倉俊一の名コンビが作詞・作曲をしている。





私の影響をうけた作品を

自分の解釈で自作の絵や曲で紹介するシリーズ「おもひではらら」。

今年は3つのシリーズと「縛らず師 自立編」で進めてまいります。

ご愛読よろしくお願いします。
$ソウルメイト


葛飾北斎が描いた「蛸と海女」という浮世絵がある。

蛸と女がもつれ合う、ありえない設定だが

大変エロティスズムのある絵だ。

今回は、私なりに解釈をして描いてみた。

浮世絵の春画は、そのものの行為を描いてはいるが

ユーモアやアイデェアがあり

物語を想像させてくれる。

私の目指す絵も、そういった部分を見習いたい。

現在の春画を目指す。


私自身、この絵を気にいっている。


$ソウルメイト


13日 21;16 帰宅。

同日 23:03 長風呂を終え、寝室へ。

同日 23;05 ベッドの異変に気がつく。

       さきほどまで誰かいたような布団に温もりがのこっている。

       誰もいないはずなのに・・

同日 23;43 就寝。


私がこうした記録を書き始めて1ヶ月近くになる。

この部屋に、誰かがいたような気配を感じたのは

些細なことからだった。

朝、出勤前に飲んだコーヒーカップが

玄関の靴箱の上に置かれていた。

出勤前にあわてて、置き忘れたんだろうと

気にもとめてはいなかった。


その日から、テーブルの配置が違っていたり、

水道の水が出っぱなしになっていたり

小さい異変が続いた。


一番気になったのは、

携帯を使うのでほとんど見ることがなくなった電話帳の

「あ行」のページが開かれていること。

見つけるたびに、閉じるけれど、いつのまにか開いている。


私いない間に、誰か来ているのに違いない。

ストーカー?

警察に連絡を入れて、見に来てもらったのが1週間前。

ここの所、そういうストーカー被害が多いらしく

念入りに調査をしてもらい、

マンションの隠しカメラで

不審者が映ってないかまで確認してもらった。


やっと今日の朝、警察から携帯に電話があって


「不審者や侵入形跡は見当たらない。

パトロールの強化をする」


ということだった。

警察に守られていると思い、

少しは安心していたのに

帰宅したとたん、このありさま。


布団で寝るのは、気味が悪いので

リビングのソファーで寝ることにした。



22日 20;32 帰宅。

同日 21;01 いつものように電話帳が開いている。

       今日は、これだけのようだ。
      
       この家は、ゆっくり眠れない。

       明日、友人の家へしばらく居候しようと思う。

       新しい住まいを探そう。



いつもの記録を書いていると、


睡魔に襲われ、うとうとしてきた。


毛布にくるまり、ソファーに横たわる。


薄い蛍光灯の光が、ぼやっと見えている。



「リーン、リーン」



鈴の音が、聞こえてきた。

身体が、何かやさしいものに包まれているような感覚。

首筋に気配を感じる。



「何? 魔物?」



不思議と恐怖はない。逆にリラックスしている。

耳に吐息。



「ゾクゾク」



恐怖ではなく、抱かれている時のあの感覚。

目に見えないものに愛撫されているかのよう。

胸の敏感な所に、何かが触れた。



「あっ・・」



思わず、声を漏らしてしまった。

と同時に、懐かしい感覚を思い出した。

逃げようとおもえば、逃げれるはずなのにそうしない自分が不思議。



見えないものが、リズミカルに愛撫を続ける。

いつのまにか身体をあずけ、快楽に溺れていた。


両足が、素直に開く。

女の芯が滑らかにのたうちまわる。


「ああっ」


何者かが、私の中へと入ってくる。

しびれるような刺激が、脳を刺激した。


「んふ」


導かれるように、身体が波打ち

突き上げられる感覚が、私を狂わせる。

高みへ、高みへと昇天へと近づく。



「あああっ」



全身が弓のように、跳ね上がった。

エクスタシーが全身を包む。



「ありがとう。いつか逢おう」



そんな声が聞こえた気がした。



ハッとした時には、朝だった。

昨夜のあれは、何だったんだろう?

私って欲求不満?

髪をくしゃくしゃしながら、キッチンへ向かう時

開いた電話帳が目にとまった。

相変わらず、あ行で開いていた。



「赤井 正人 ○○-○○○○-○○○○」



その部分だけ、ほとばしった水滴のような跡がつき、にじんでいた。



「あっ、正人・・ 正人だったのか・・」




いつもより、街の雑踏の音が大きく聞こえた。



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