パパン、パンパン。
世の中には、
お金に執着しすぎて、
いつのまにか命よりも大事になってしもた、かわいそうな人がおりますな。
そういう人のことを“守銭奴”と申します。
そんな守銭奴たちにまつわる一席。
パンパン。
ある山奥に、そこにしか咲かへん花が咲いとりました。
その花ちゅうのは、大変美しく光りがあたるたんびに、
色が変わるめずらしいもんでした。
ところが、そこの土地を持ってた九作は、
花のことなんか、これっぽっちぃも気にすることなく、
ほったらかしにしておりました。
お天気のいい日に、その花を見つけた者がいます。
「なんと、美しき花や。これは雅じゃ」
都で、高名な茶人が新しい美を求めて散策をしていた所やった。
一輪、花を摘んでそのまま都へもちかえり、
茶会で活けたとたん、
「この花はホンマ雅や。どこに咲いているんや」
と噂がいっきに広まったそうや。
噂が広まって、都の連中はちまなこに探したんやが
いっこうに見つからへん。
そらそうやな、九作の土地にしか生えんのやから。
そうこうしてるうちに、九作にも噂は届いきよった。
都ではその花の名を、桃源花と名づけられとった。
「ひょっとして、ワシの土地にはえとるあの花とちゃうか?」
九作は、試しに桃源花を都に売りに行きよった。
都の連中が沸き立った。
「桃源花や。まぼろしの花や」
その日から、桃源花は売れに売れ、
たちまち九作は大金持ちになりよった。
自分とこの土地にしか生えん花、
労せずとも銭は懐に入ってくる。
もともと怠けもんで、維持の悪い男やったから
財にかまけてますます拍車がかかりよった。
そんな九作に、ひとりの女が家を行き来するようになったんや。
この女、大金持ちの一人娘で何不自由なく育ったわがまま娘。
名は摩珠。
噂の男、そして金があふれるくらい持ってることを知り、
九作への想いはこれっぽっちも持つはずもなく
なかば押しかけ女房の形で、とうとう嫁の座を射止めよった。
九作と嫁は、毎日のように入ってくる銭を
奪い合うようになっていったんや。
銭の魔性にとり憑かれ、
「銭がすべてや。銭さえあれば何でもできる」
夫婦の銭の奪い合いは、前にも増して激しくなっていきよった。
御殿のような家の割には、
人の行き来を拒み、
桃源屋敷と都の連中からは陰口をたたかれるようになったんや。
対立は続いたんやが、欲が強いもんが勝つ。
九作は、息子たちと財産を残してポックリ逝ってもうた。
九作の財を得た摩珠は、ますます銭の魔性に染まっていった。
パパン、パンパン。
月日は流れ、何もせずとも生えてきた桃源花も年を追うたび
花を咲かすことがなくなり、
数えるほどにしか咲かんようになってしもた。
パパン。
長男が嫁を迎えた。
この嫁がまた、若い頃の摩珠を思わせる性格をしとった。
老いてきた摩珠を養うという理由で
ことある度に、銭をせしめてきよる。
老いには勝てんはな、あれだけしがみついとった銭が
嫁に吸い取られていきよる。
パパン、パンパン。
ある日、摩珠の手から木の根のようなもんが生えてきよった。
最初は、気にもとめんかったが
だんだんいろんな所から根が出できよる。
息子や嫁に銭を渡しては、高名な医者を呼んでほしいと頼むのやが
連れてくるのはヤブ医者ばかりやった。
哀れやな。
やがて、根が地に根付いて摩珠の姿ではなくなり
不思議な色をなす、花になってしもた。
息子にも嫁にも、姿を見せなくなったことに気にもされんうちに
「また、新しい銭を生む花をみつけたわ」
と言われるしまつ。
九作の土地に生えとった桃源花も、ひょっとしてそうしてできたんかもしれまへん。
当然、息子にも嫁にも根がはえてきたのは言うまでもありませんな。
銭は無ければ困りますが、ありすぎると人の心を無くしてもうて
銭の魔性にとり憑かれてしまいますわな。
くわばら、くわばら。
パン。
<あとがき>
世の中、お金があれば欲しいものも環境も買うことができる。
普通に生活をおくるのもお金次第。
無ければ地獄。
でもお金では買えないものも、大切です。
世に中が、銭の魔性に操られているのかもしれませんね。
幸せってなんだろうと考える今日このごろです。
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