おもひではらら その五 心の旅 | Soulmate

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汝、愛されたければこそ、愛せよ。

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夜10時頃、

帰宅するサラリーマンがまばらになった駅のホーム。

丸いライトが2つ、暗闇からこちらへやってくる。

紺色のボディの列車が到着。

「B寝台」と記された車両に乗り込む。


客席は、すでにベッドになっている。

仕切りはカーテン。

喜び勇んで、上のベッドを占領した。


ゴトン、ゴトンと低い音がリズムを刻みだす。

やがて窓の景色が、流れていく。

これから始まる最高の旅のはじまり。


寝台列車で、田舎へ行く夏休みの1ページ。


マジソンバッグには、

おもちゃのライダーベルトやとっておきのマンガ本、

そして、写真入りの昆虫図鑑が入っている。

向かいの上の段を占領している妹と

天井のちかいところで、

ベッドから足を放り出しながら、

これからのお楽しみの話に花が咲く。


カーテンを閉めると、

そこはたった一人の空間。


自分だけの基地のようだ。

漫画を読みながら、電車の音が子守唄のように聞こえ、

いつのまにか眠りについた。


朝、目覚めると朝もやの木々の間を列車が潜り抜けている。

少し窓を開けてみると、

ひんやりとした青い風が吹き込んでくる。


各ベッドから、ごそごそと物音がする。

カーテンを開ける音。

備え付けの浴衣を着たおじさんたちが、

顔を洗うために、洗面所やトイレに向かいだす。


トンネル。

赤い光が、窓から差し込んできた。


海。


朝日が、水平線から顔を出していた。


列車は、終着駅へと向かう。

だけど、夏休みの始まりでもあるのだ。



夜行列車が、少なくなってきている。

私の子供の頃は、旅行の足はもっぱら、

夜行列車だった。


当時の流行歌も、夜行列車や電車の旅をあつかったものが多かった。

子供の私には、歌詞の内容はいまひとつ理解できなかったが、

大好きだったのが、

チューリップの「心の旅」。

この曲を聴くと、田舎への帰省を思い出す。

それと同時に、

子供にはわからなった、大人になったあとの

いろいろな出会いが想い出され、

胸を熱くさせる。



         「心の旅」 チューリップ