お伽話 十四 | Soulmate

Soulmate

汝、愛されたければこそ、愛せよ。

ソウルメイト


レジのパートを始めて2年になる。


息子が行く塾の費用を捻出するため

しかたなく始めた。



旦那の昇給はもはや、期待できそうもない。

会社に雇ってもらっているだけでもラッキーな世の中。


ひさしぶりの社会復帰となると

少し戸惑いと不安があった。


新聞の求人欄を目をとおして

条件のいいパートを探した。


でも、資格が必要だったり、通うのに遠距離だったりして

なかなか思うようなものが見つからなかった。


「レジ係募集 ※初心者歓迎」


という募集内容に目がとまった。

スーパーのレジ係の募集だ。


「レジなんかできるかしら? 算数苦手だったしなー」


他にも、これといって良い条件がなかったので

おもいきって、レジをすること決めた。


レジといっても、商品のバーコードを読み込んで

おつりも自動的に出てくるので。

手際よくお客さんの勘定を処理することに集中すればいい。


弁当目当てのサラリーマンで混雑する昼間も過ぎたので



夕方の主婦軍団の時間まで

少し暇になる。


となりのレジの子としゃべっていると

お客がレジの前に立った。


「いらっしゃいませ」


慣れた手つきで、カゴから商品をとりだして


「ピッ」


とバーコードを読み取る。


気が緩んだせいか、手をすべらせて

卵ケースを落としてしまった。


「グシャ」


落ちた角度が悪かったのか、いくつか卵が割れてしまった。


「もうしわけありません。新しいものととりかえます」


急いで、同じ卵ケースを持ってきて

平謝りした。


お客は20代ぐらいの男で

無精ひげで髪はボサボサ、よれよれのジャージを着ていた。


誤っている間、怒るでもなく

私をじっと見ている。


少し薄ら笑いを浮かべているようにも感じた。

なんとなく違和感。


レジ袋をつかむと、そのまま店から出て行った。


そういうことがなければ、印象にも残らない客。

ここのスーパーの常連らしく

ときどき姿を見かけた。


パートが終わって、停めていた自転車に乗ろうとすると

男が歩いているのが見えた。


気にせず、横を通りすぎると

「若葉荘」というボロアパートに入っていった。


「パートのすぐ近くなのね」


なにげなく思った。



雨の日。


スーパーにずぶぬれになった男が入ってきた。

どうやら、近所に住んでいるので

傘をささずに来たらしい。


男が私のレジの前に立ち、カゴを置いた。

バーコードを読もうとした時、


「あっ、財布落としたかも・・」


「あら、家に忘れてきたんじゃないの?」


「・・どうしよう。全財産だったのに」


あきらかに、パニックになっておろおろしている。


「じゃ、カゴはここに置いておきますから探してらしたら?」


ペコリと頭を下げて、雨の中を飛び出していった。


「あっ、置き傘貸してあげようと思ったのに・・」


パート時間が終わっても、男は戻らなかった。

カゴの中は、カップヌードルと食パン。


「あの人、財布なくしたら文無しって言ってたわね・・」

「私ん家でも買おうとおもってたし、私の分と一緒に買うか」


ひょっとしたら、まだ財布を捜してうろうろしていたら

渡してあげたらいいし、いなかったら自分の家で使おうと

軽い気持ちでいた。


レインコートを着て、自転車で家路に帰ろうと走らせていると

まだ、男は雨の中財布を捜しているのを見つけた。


「あら、財布見つからないの?」


声をかける。


「・・・・」


濡れネズミになった男が、途方にくれた表情で頭をさげた。


「とりあえず、家に戻ったら? 風邪ひくよ」

「・・でも」

「あなたの買い物、私が買っておいたから、ほら」


動こうとしないので

自転車を停め、折りたたみ傘と買い物袋を渡した。


「雨がやんでから、もう一度探したら?」

「あのお金がなかったら・・」

「しかたがないわね。あなた若葉荘の人でしょ?」

「一旦、部屋に戻って着替えてきたら? 私も探してあげるから」

「なんで知ってるの?」

「あぁ、たまたま見かけたのよ」


しかたがないので、若葉荘に引っ張っていった。


「あなた、何号室?」

「201です」


荘の玄関には、ふたのとれた靴箱。

30年か40年かはたっているだろう、年代ものだ。

男はずぶぬれの癖に、財布が落ちていないか

キョロキョロ、落ち着かない。


「あとで探せばいいでしょ? さぁ部屋はどこ?」


ギシギシいいながら、階段を上がる。

薄暗い廊下に、戸が幾つか並んでいた。

意外に静まり返って、雨音だけが聞こえている。


「201号」


男の部屋に立った。


「ここで待ってるから、着替えてらっしゃい」

「うん・・」

「部屋の中も探すのよ」


鍵をあけ、戸が開くとかび臭い匂いが鼻についた。

男が中に入って、私は落ち着きなく辺りを見渡している。

他の部屋の入り口には、店屋物のどんぶりが置かれているのもある。


「ギシ、ギシ」


住人のひとりが帰ってきたらしい。

無精ひげと薄汚れたジャンパーを着た男が

私を嘗め回すように見ながら、奥の部屋に入っていった。


「私、なんでこんな所にいるんだろう?・・」


奥の部屋から、低い音楽のリズムがもれてきた。


「ドン、ドン。うるさいボケっ」


となりの住人が、奥の男に壁ごしに怒鳴りつけているようだ。



「・・帰ろうかな」


心細さとなんとなく怖くなってきた。


なかなか出てこないので、帰ることを告げるため

201号室のドアを開ける。


「財布見つかった? 申し訳ないけど私・・」


目の前に広がるのは、万年床とゴミ溜めのような荒れた独身男の部屋。


「あっ」


男は、必死に財布を探しているようで、

掻き分けながら、物を放りなげてしまっている。

タダでさえ、ゴミ溜めなのにひどくなる。


「はぁー」


私はなんだかあきれ返ってしまった。


「しかたがないわね、私が片付けるからあなたは何もしないで、そこに座ってて」


自分でも、驚くような言葉を発してしまった。

これも、女の性というものか、いや私の性格によるものだとわかる。

言ったからには、即行動。

頭の中は、夕飯に間に合うように手早くやらなくてはという気持ちだけだった。

レインコートを脱ぎ、腕まくりをした。


食べ残しの弁当や丸めたティッシュを手早くゴミ袋に入れる。

埋もれた布団が、姿を現した。

女の裸の雑誌が、次から次へと出てくる。

なんだか、縄で縛り付けたような写真の雑誌がたくさん。


「男の子の部屋ね・・」


掛け布団を引っ張り出すと

ゴロリと足元に落ちた。


「財布?」

「あった! 財布。助かったー」

「あら、よかったわね」

「・・・・」


急に天井が見えた。


「何?」


気がついた時には、私の身体の上を男がうごめいていた。


「押し倒されの?」


身体をよじりながら、逃げ出そうとするけれど

男の力にはかなわない。

声が出ない。

こんな時って案外、声って出ないものなのねと

他人事のように感じている。

男が私の身体を、必死に舐め回している。

ボザボサの髪が、見える。

抵抗しようとしたけれど

必死さに、力が抜けてしまった。

されるがまま。

男は、女の扱いになれていない様子。


「そんなに荒くしても、女は感じないわよ。やさしくして」


信じられないことを言ってまう私。

男は、抵抗しないことがわかったのか

余裕が出てきたようで、丁寧な動きに変わってきた。


私も、不思議と感じはじめている。

無精ひげのざらついた感覚が、刺激的に感じた。

何日も風呂に入っていないだろう男の身体。

異世界に溺れてしまっている。

となりの部屋に聞こえないように

声を押し殺しているのが、身体に火をつけている。


「そこに寝て・・」


耳打ちをすると、男のトランクスを脱がす。

と同時に分身が跳ね起き、脈を打っている。

刺激臭。

私は、それが媚薬の香りに感じてしまった。

それを含み、丁寧にしはじめる。


「んふ」


男の鼻息のリズムが、荒く小刻みに聞こえる。

こんな刺激は、久しぶり。


やがて、男が入ってきた。

まるで、オスのよう。

私の身体も、あわせるように波打つ。

今までまったく気がつかなかった

もうひとりの私が目を覚ましたのかもしれない。


ふたりは、低い音とともに果てた。

私の身体のあちこちが、痙攣した。



「いらっしゃいませ」

「ピッ、ピッ」

「158円、253円・・」


レジの前に男が立っている。

卵ケース。

今日も異世界を楽しめるのね。


そう、ふたりだけの暗黙の合図。







お伽話も十三話を迎えました。

いつもご愛読ありがとうございます。

年の瀬も近づいてきたので、読者様の好きなベスト5を教えてください。

メールかメッセージでこっそりと^^

今後の作品の参考にさせていただきます。

よろしくお願いします。


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