「なんでわかったんですか?!」
ガチャンと受話器を置くや否や、男性は言った。

「え?なんでって言われても……。
別にフツーのことをしたまでで。」
「僕、机をトントンってしただけですよ!
何も言ってないのに!すごい!!」

興奮気味に机をトントン叩いているCさんは、
職場の隣の席の男性で、
電話は二人で一台を共有している。

その時私は、
パソコンで入力作業をしており、
Cさんが何をしているのかは知らなかった。

私の机を、Cさんがトントントンと叩いた。
テンポは速く、少し焦っているようだった。

私は、作業の手を止め、
左手側置いてあったメモ用紙を取り出して
Cさんに渡した。
「もしかして、これですか?」

Cさんは頷き、メモを受け取り
おもむろに何かを書き始めた。

しばらくその様子を眺め、
どうやら問題なさそうだったので
私はまた、元の作業に戻った。

この出来事のことだった。

私にとっては、
当たり前といっていいくらい
些細なこと。

判断した基準は、
①机をトントンと叩いた➡
Cさんは何かを伝えようとした、
あるいは何かを探しているらしい
②現在Cさんは電話に出ている
③メモをとっているそぶりがない
⇒メモを持っていない?


もう少し補足すると、
共有で使用している電話は、
双方の席の中央ではなく、
私の机の上に置いてある。

これは、作業スペースの確保のために
現在の席になった時に取り決めしたことで

メモ帳は、使いやすいように
何となく電話の前に置くことになっている。

ただ、Cさんが何度も電話を
とらないといけない時は
電話ごと手前に寄せて使用することもある。

そうすると、
今度は受話器のコードに手前のものが
引っ掛かりやすく邪魔になるので
必要なメモを渡したら
(もしくは、メモ帳を持っているのを
確認したら)
他のメモ帳等邪魔になりそうなものは
反対側に移す。

資料の入ったファイルを確認しながら
電話に出ていることが多いから
ファイルを開くスペース確保のためである。

これは、私が勝手にしていることで
特にCさんに頼まれた訳ではない。

その電話が終われば、
メモ帳等は基本的に元に戻すことにしている。

ただし、私の作業スペースが必要な時は
その限りではない。
(Cさんの机の足には、
マグネットではさんだメモ用紙を
留めてあるので、
本当に控えるものが無いわけではない。)

聞くとはなしに聞こえてくる
Cさんの電話応答の声や
仕草(主に作業音)を聞いて
必要なものが手元にあるかを判断している。

何かカチカチと
ノックしているような音が聞こえたら
メモを取る準備を始めたのかな?
と思うし、

ガッガッと強めに筆記具を
紙に擦りつける音がすれば
インクがかすれて出にくいのかな?
と思うし

バサバサと忙しなく
何かを持ち上げて下ろす音が
聞こえたら、メモ帳を探しているのかな?
と思うし、

バッバッと勢いよく
ページをめくる音がしたら
資料の中の該当するページが
見つからないのかな?
と思う。

電話の途中でEさんが、
キャビネットを開けたら、
探しているファイルは
大体このファイルかあのファイル。

そんな感じの判断である。

一人一人、行動にうつす時の癖があるので
何となく、そういう癖は
私の頭の中にインプットされていく。

電話を受ける時にはメモが
段ボールを留めるならガムテープが
ホチキス留めを外したらゴミ箱が
必要なのは、わかりきっていること。

その前の作業と
相手が何をしているかがわかれば
ある程度は出来る。
ただ、それだけのこと。

わざわざ、意図を口に出して
手伝わないから
「え!?なんでわかったんですか?」
「もしかして、これ準備してくれたんですか?」
とかたまに言われるのだけれど
気づいてしまった以上
しないというのは、
よっぽど自分がいっぱいいっぱいの時くらいかなぁ。
「こうなったらいいなぁ。」
「私は、こういう時困ったな。
そういうのが解消されるといいな。」
と思うと、可能ならちょこっと手を加えたくなる。

感謝してもらおうと思ってしてないけれど
気づいてもらえて、喜んだり
感心してもらえると
単純だから、
明日もがんばろうって思える。

何だか嬉しかった、今日の出来事。