リュートが演奏されていた時代はまだ楽器がしっかりと規格化されておらず、地域、時代、あるいは製作者によって実に様々な形のリュートが作られまた、ボディにも様々な材料が使われました。

表面板はほぼ例外無くスプルースと呼ばれるマツの一種ですが、「ボウル」と呼ばれるボディを形作る材料はいろいろです。
たまたま私がメインで使っている4台のリュートは、形も材料もみな異なりますので、これを素材に解説していきましょう。

一番右は7コースルネサンス・リュート。
モデルになっている楽器はイタリアのヴェンデリオ・ヴェネーレ(ウェンデリン・ティーフェンブルッカー)です。
16世紀の典型的なリュートの1つと言って良いでしょう。
ボウルはイチイの33枚リブ。
イチイは加工しやすく適度な粘りと硬さがあるので、リュートのボディにはよく使われています。

右から2番目は10コースのルネサンス・リュート。
先程の7コースと比べると細長いボディですね。
モデルになっているのはラウクス・マーラーという、やはりイタリアの製作者です。
ヴェネーレのような丸っこいタイプのリュートはヴェニスを中心に作られたのでヴェネチア・タイプ、それに対しマーラーのような細長いボディのリュートはボローニャを中心に作られたのでボローニャ・タイプと呼ぶことがあります。
なお、ラウクス・マーラーは16世紀前半の製作者で、非常に多くのリュートを作りました。その死後には作りかけのリュートやリュートの表面板等が大量に残されていたそうです。
また、18世紀になっても非常に高い評価を得ていました。
しかしそのために、16世紀当時のオリジナルのままで残っているものは無いようです。
ボウルはチェリーの11枚リブ。
チェリーは少し珍しいですが、果樹材でボディを作る例は少なからず存在しています。

右から3番目は13コースのバロック・リュートです。
モデルはマルティン・ホフマンという17世紀終り頃から18世紀初めにかけてライプチヒで楽器を制作していた人のリュート。
ボウルはメイプルの9枚リブ。
メイプルは楓の一種ですが、日本の楓とは異なります。
ホワイト・シカモアと呼ばれることもありますね。(アメリカのシカモアは全く別種)
メイプルはイチイと並んで良く使われた木材です。ヴァイオリン属のボディは殆どがメイプルですね。
先程のヴェネチア・タイプとボローニャ・タイプを混ぜたようなボディ・スタイルですが楽器の幅に比べて深いボディを持っています。
なおマルティンの息子のヨハン・クリスチャンは大バッハの為に、リュートを初めとして様々な弦楽器を作っています。

一番左は、ピエトロ・レイリッヒ(ラーリッヒ)という17世紀半ばから終わり頃にパドヴァでリュートを制作していた人のリュートを1720年にスワン・ネックのリュートに改造した楽器がモデルになっています。
元々は10ないし11コースのリュートと思われます。
ボウルはキング・ウッドというローズ・ウッドの一種で、21枚リブ。
マーラー同様細身のボディですが、レイリッヒのリュートには丸っこいボディのものも存在しています。
ローズ・ウッドは現代のギターの一般的なボディ材ですがリュートでは珍しいですね。

上記以外には黒檀や象牙のボディのリュートも存在しますが、一般的とは言い難いですね。