生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)/本谷 有希子

¥340
Amazon.co.jp

表紙は葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖波裏」です。

 「虚空に爪を突き立てるような荒々しい波が富士山を背景にザッパーン!」ってあの画が現代科学でいろいろと検証され始めて、最終的に五千分の一秒のシャッタースピードで撮った写真が画の構図と寸分違わなくて奇跡! という結果が出たのだ。

という、「ほんたにちゃん」節全開の感じが楽しいです。


まあそれはそれとして、これはタイトルからして恋愛小説なのは間違いない、と思われるのですが、なんだろうか、読み終わってのこの違和感。

と思って解説を読んでみると、「自己完結した人間は、二者完結というメンドクサイ状態を他者と構築する必要がない。まあつまり恋愛とかしなくて良い」というような文面が目に入ってきました。

なるほど、つまりお互いがお互いを必要としていないのになぜか付き合ってる(あまつさえ一緒に住んでいる!)という意味分からない事態が違和感の原因だったのか、そうなのか?

いや、というよりも、この主人公寧子(やすこ)の電気使いすぎてブレーカー落ちて停電ドーン、みたいな暴走するイメージ、それを他人にも受け止めて欲しいと願うところだったのかもしれません。恋愛しなくてよいどころではない、なんかもっとすごい体力使う感じ。

「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。(略)いいなあ津奈木。あたしと別れられて、いいなあ」

この台詞が壮絶。自分はどうやっても自意識とは別れられない。自意識と別れるためには狂人にならなければいけないのです。