文学の断層 セカイ・震災・キャラクター/斎藤 環

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精神科医斎藤環氏による文芸評論集。というかサブカル論?

たとえば笠井潔などの論を引いて「きみ・僕(近景)←→社会・家族(中景)←→セカイ(遠景)」のうち、いわゆる「セカイ系」の小説などは「中景」を欠いている、と指摘しています。でも多分このことはこれまで言い古されたことだと思う。この本以前にも、以降にも。


僕が面白いなと思ったのは、阪神大震災とこの国の「文学」の変容に関連したくだりで、文学とは直接関係ない部分ですが、「リアル病」について言及しているところでした。

地震という最も予測不可能で、「天災」のなかの天災の圧倒的な力に出会ったとき、「リアリティの位相変換」が起きる、と斎藤は指摘します。どんな言葉とか理論も全部空疎に聞こえてしまう「圧倒的な現実」の力。

以前の関東大震災のときにも、文芸は無力だと感じた、と菊池寛も言っています。実際はそのあとに新しいかたちの文芸が起こってくるわけですが、それも「私小説」的リアリズムの位相が変わって(いまいち信じられなくなって)、起きたことだという説明です。