戦後短篇小説再発見〈7〉故郷と異郷の幻影 (講談社文芸文庫)/著者不明

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第7集は「故郷」がテーマの短編集です。「異郷」から見た「故郷」という意味でも。

この中にあるもので有名なのはやはり小田実の「『アボジ』を踏む」ですかね。済州島出身の舅の話で、「政治的不合理」によって勝手に切り分けられてしまった「異郷」日本で暮す在日韓国・朝鮮人たちの「故郷」への郷愁を描いた作品です。

「オダ君、ぼくは金さんや朴はんが生まれる前から朝鮮人だったョ」

というアボジの言葉が非常に印象的。ちなみに金、朴はそれぞれ金日成と朴正煕のことです。

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日本は戦後の復興期からどんどん近代化して、豊かになりました。そしてよく言われるように、現代は東京を中心に各地にミニ・トーキョーが林立する時代です。

「都会か、どうか」という基準は「より東京か、そうでないか」という時代、地方から出てきたにわか東京人たちには、かつてのように帰るべき故郷がなくなっています。当然僕もその一人です。どこにいってもなんだかんだ同じような風景。

実際には帰るところとしての実家、故郷はありますが、「ふるさと」という唱歌に象徴的な「うさぎ追いし、小鮒釣りし、」という田園、文字通りの「田舎」としての故郷は日本にはほとんどなくなってしまいました。「郷愁」という言葉がいまいちピンと来ない感じ。

だから、みんな「田舎」とか「故郷」ってことさら言うんじゃないでしょうか。僕を含めて、地方出身者がお互いの地元の話で盛り上がって、「こういう田舎っぽさがうちには残っている」と自慢しあうというのは、無意識に均一化の危機を感じているからじゃないかと思います。

なんか当たり前のことをわざわざ書いてしまった気もしますが。