今井遥さんと山本恭廉さんとバレエのオタクによるBEYONDの私的な感想 | カラフルトレース

カラフルトレース

明けない夜がないように、終わらぬ冬もないのです。春は、必ず来るのですから。

こんにちは。BEYOND千秋楽ですね。
今更、という感じなのですが、ものすごく私見に偏ったBEYONDの感想を書き残しておこうと思います。
筆者はなんやかんや、5回見に行きました。
(内訳:神奈川、東京11月、広島、東京3月、東京7月千秋楽)
これだけ行っておいて今まで書いていなかったのは「BEYONDがデカすぎてずっと消化しきれていなかったから」です。重オタクここに極まれり。

この記事のポイントは以下の三点です。
・筆者は今井遥さんが好き(好みの女性のタイプのイデア)
・筆者は山本恭廉さんが好き(一時期ガチ恋になりかけた)
・筆者は細かい厄介バレエオタク(習ったこともないのに)
あとは難しいことを何も考えずに読んでください。頼むから。


【前日談:キャスト発表】
今井遥さんがいる!←超うれしい ハッピー でもサンクスツアーにも呼ばれていたしそんなこともあるかもしれない とはいえ感謝

山本恭廉さんがいる!←そんな…いや…マジ?そうなの?まさか……超嬉しいけど嬉しすぎて……いや……

ほんまにおるやんけ
世の中ってすごい!!!!!

なお「嘘やん」度は田村岳斗inの方が高かったことは念のため申し添えておく。


【SING SING SING】
映像スクリーン、どういう演出に使うんだ?と最初は訝っていたが、キャスト登場時に一人ずつキメキメ宣材写真と名前が映し出される時点で、実は初回公演では気を失いそうになっていた。
アイスショーのスクリーンに今井遥さんと山本恭廉さんの大きな写真が名前入りで出てるの、夢?いや、夢じゃない…という感じで、喜ばしすぎて現実がかえって受け入れられなかった。
群舞でもハッキリ分かるのよ。遥ちゃんの可愛さも、恭廉さんの麗しさも。この時点で「ありがてぇ~」と拝む勢いだったが、今その状態だと終演までにはいくら拝んでも足りなくなってしまう。


【アイガットリズム】

初回、ほぼフルメンバー揃っていたので遥ちゃん不在?と思ったが、すぐさま恭廉さんに目を奪われてそれどころでなくなってしまった。

現役時代の恭廉さんをご存じない方もいるはずだから、重要な前提を共有しておく。

選手の頃の彼も、確かに表現力でファンを鷲掴みにはしていたが、どちらかといえば内省的、心の翳りを高い粘度と曲線性で表出する方に定評があった。人間の弱い部分をぬるりと撫でてくるような。未だに最後のショートである「ロクサーヌのタンゴ」の凄絶な色気が忘れられない。

そんな彼が!金髪にイメチェンし!?黄色いパンツのポップな衣装で!??楽しげな曲に合わせて小道具を持ちながら女の子を口説いている…!!!???

共感してくれる人いるか微妙だけど、スティーブン・マックレーが「マイヤーリンク」で闇落ちルドルフ演じてたのと同じくらい(ベクトルは真逆だけど)びっくりした。

まさか光属性丸出しで外向的な山本恭廉さんを見られる日が来るなんて、一切信じていなかったんです本当なんです。お前笑顔キラッキラやんけ。そんな表情できたの?イケメンじゃん。知ってたけど。


【ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジア】

前情報を掴んでいたので、スクリーン映像がラヴェンダー畑になった時点で「来るぞ…」と身構えていた、けど。実際出てくるとこちらの心構えなんてものの見事に砕かれてしまうものですね。

髪型が姫。衣装は上品。だけどなんか異様に速い。そう、我らが今井遥さんの登場です。

スポットライトついて今井遥を視認した瞬間、初回公演では感極まって涙を流しそうになり、感情の許容量を超えたせいで挙動がバグを起こし、立見席で自分の首を軽く絞めていました。

サンクスツアーの時も薄々思ってたけど、現役時代より絶対上手くなってる。パワーもついてさ。あなたは清楚可憐に見えてとんでもスピードスターというギャップがわたしの心を捉えて離さないのだけど。流麗さのなかに静と動の強弱がハッキリつくようになったね。

スクリーン映像、今井遥さんが滑った跡に花弁が散る仕様なんだけど、なんかわたしと解釈一致してるオタクがBEYOND側にいるよね?誰?もしかして浅田真央さん?

男性とデュエット踊る遥ちゃん(それも恋物語)だなんて、わたしの妄想でしか許されない予定だったので、悲恋を演じているのが、もう。分かる。

遥ちゃんという人はとんでもなく可愛いのですが、根っから華やかでキュート!というよりは、葉に落ちる朝露のような、夜風に香る枝垂桜のような儚さを帯びていて。だからこそ演技の上では、実らぬ恋の切なさみたいなのが似合っちゃうんですよ。いいよなあ。最後は視線の噛み合わない二人。悲恋だ。


【Pick Yourself Up】

キャバレーみたいな松田悠良さん出てきたとき「分かる~」と嬉しくなって手叩いちゃいました。彼女はちょっと大人びた世界観も似合うタイプの、溌溂としたエレガンスをお持ちですね。

広島公演からはそこにお揃いの衣装をつけたエルニくん加わったじゃないですか。あれも個人的にはすごく「分かる」なんですよ。ああいう非現実的な夜の蝶みたいな衣装が似合い過ぎるし、男女関係なく翻弄していく役柄ですよね。うちの父親が一番気に入ってましたからね、エルニくん。

そこに登場するジャケット男三人衆。やだもう素敵。忘れてる人なんて誰もいないと思いますが、田村岳斗ってすごくカッコいいんですよ。優くんと恭廉さんが白ジャケットで岳斗センセが黒ジャケットなの、天才の采配でしかないんですが、やっぱり浅田真央さんってわたしと解釈一致の同担ですか??感謝。

三人ともゆらちゃんエルニくんにフラれて「やれやれ」みたいな顔してるけど、実生活では口説いてフラれたこと無さそうで、その「やれやれ」の軽やかさがとてもいい。余裕のあるオトナたちだ~と惚れ惚れしてしまう。わたしならついていきます。

優くんが怪我していた時は恭廉さんのスピンの見せ場がたっぷり長くて、スピン上手いのは知ってたけどここまで!?と。本当に軸ぶれないしポジション綺麗だし手先の語り掛ける雄弁さがすごい。

クールな優くん、華麗なる恭廉さん、ダイナミックにムーディーな岳斗先生の役割分担が、明確にキャラ立ってて分かりやすい。二人に帽子をスマートに被せていくヤマト先生、悪い男だけど良い男だな。ところで優くんは元コーチに帽子を被せていただく際の心境などお聞かせいただければ。


【シェヘラザード】

ここに来てバレエ・リュスの再来はアツすぎます。いやあ。浅田真央さんのゾベイダと、筋骨逞しい嶺くんの奴隷役。仮に自分がこれを中学生で見ていたら嗜好が狂わされていたこと間違いなし(実際中2の自分はキムヨナさんの死の舞踏とシェヘラザードで方針が決定づけられていたので、どちらにせよ…感はある)

突然何の話を始めたかと言えば、20世紀初頭パリで一世を風靡した、セルゲイ・ディアギレフ率いる「バレエ・リュス(ロシアバレエ団)」の大人気レパートリーのひとつ、ミハイル・フォーキン振付の「シェヘラザード」の話です。

バレエ「シェヘラザード」は千夜一夜物語の前日譚で、シャハリヤール王が女性不信を拗らせるきっかけとなった、王の愛妾と奴隷との情事を取り上げているんですね。わたしはBEYOND通っている間は恍惚と二人の肉体美を眺めるばかりでしたが、千秋楽公演から帰った後に今更「あれそのまんまフォーキン版じゃん!?」という気付きを得てしまいました。そりゃ露出多いよ。

そう考えると、王とシェヘラザードとの絡みにしては、やたら命がけだったんですよ。情愛をぶつけ、斬り合うようなデュエット。いや、シェヘラザードだって自分の話が面白くなければ明日を生きて迎えられないから、当然命がけだろうとは思うんですけど、シェヘラザードだったらもっと、計算高さみたいなものがあってもいいはずなんですよ。やってることは知将ですからね、あの人。

でもBEYONDの二人は知略を巡らせてなんかいないじゃないですか。生の衝突であり、性の衝動であり、でも「見つかったら処される」という死とも背中合わせで。どこまでも本能が研ぎ澄まされた緊迫感に没入する。

バレエ「シェヘラザード」が大流行した背景は大きく2点あり、ひとつは性的表現も許容する土壌となった濃厚なオリエンタリズム、もうひとつはバレエの「総合芸術」化です。

ちょっとこの辺りは修士で専門にしていたので、詳細を喋り始めると止まらなくなってしまうのですが、19世紀のパリ・オペラ座バレエ団は現在の威容から想像できないほど凋落しており、バレエはオペラより下位の芸術、女性バレエダンサーは愛人予備軍、男性はそんな女性の引き立て役でしかなく、要するに全然覇気がなかったんです。

そこにロシアから(当時のフランスはロシアを「未開の地」のように舐めてた節がある)バレエはバレエ単体でクオリティが高く、身体能力が優れていて、男性の見せ場もしっかりあり、舞台装置にも衣装にも手を抜かない集団がやってくる。そりゃあ衝撃がすごいわけよ。なんせ当時のバレエ・リュスは、かの天才・ニジンスキーを擁していましたし、美術や衣装の担当もガチの画家を連れてきている。

それまでパリで「総合芸術」といえばオペラの専売特許だったのですが、ここに来てオペラより下だったはずのバレエも「総合芸術」になれるんだ、という発見を与えたわけです。

BEYONDのシェヘラザードも、真央さんの登場シーンがかなり凝ってて、ただ「客席から出てくる」とかじゃなくて、お香を焚く、完全に身を隠していた黄金の布を脱ぎ去る、など、氷上だけで完結しない表現を志向しているな、と思いまして。ディアギレフの精神はここに生きているのか、と今更の納得をしました。

よく分からない人は、バレエ・リュスの「シェヘラザード」をバルビエが描いたイラストを見て、再現度高いな~と思っててほしい。




【カルメン】

BEYONDのカルメンのこと「解釈完全一致オタク大感謝祭」と呼んでいるのですが、あながち嘘ではないですよね?皆さん。
女性陣の曲の配役が完璧すぎるし、闘牛士の場面での衣装の配色も大正解なんですよ。オタクってさあ…イメソンとかメンバーカラーとか大好きだからさ…興奮、しちゃうよね。
あまりにも嬉しすぎたから全部メモっておこう。

序曲:小林レオニー百音さん(黒衣装)
アラゴネーズ:今原実丘さん(ゴールド衣装)
ハバネラ:小山渚紗さん(赤衣装)
闘牛士:中村優くん(黒衣装)エルニくん(白衣装)山本恭廉さん(赤衣装)
ジプシーソング:今井遥さん(ピンク衣装)(タンバリン持ち)

レオニーちゃんの序曲。湿度高めのシェヘラザードからセビリアの乾いた熱へ、パッと空気を切り替えるのに最適ですね。有無を言わさぬ迫力が曲のそれに負けていない。分かるんだよなあ…カルメンの序曲は黒だよなあ…情熱的な舞台に潜む不吉さと死の気配を象徴する曲だからよお…

今原さんアラゴネーズも大正解じゃない?今原さんと言えばサロメが代名詞と勝手に思ってるけど(ジギハイ派もいるだろうな)あのコレオシークエンスのスクワットイーグルの連続が、とんでもなくグラマラスな推進力があって忘れられなかったので。エキゾチックな表現が似合うし、そういう点ではゴールドの衣装、彼女本来の絢爛さが映えている。

小山さんというスケーター、本来はかなりお上品路線じゃないかと拝察しているのですが、そういう方があえてハバネラで誘惑する、この意外性が色香に彩りを添えるんですわね。普段のキャラとは違うからこそ、しっかり「演じる」ことが出来ているんだろうな、とも。薔薇をそのまま形にしたような赤い衣装も魅力的だし、まさか巻きスカート仕様になっていてそれを山本恭廉さんが脱がせるなんてなあ!ハッハッハ

あの…闘牛士…言いたいこといっぱいあるんですけど…配色決めたの誰?分かりすぎてしんどいまである。黒の闘牛士、高難度ジャンプがカッコいい。まぎれもなくクール。白の闘牛士、清潔さすら手を伸ばしたくなる魅力。所作がなめらかで。赤の闘牛士…いや、赤の闘牛士さあ…ダメだってそんな……あなたはパッションの人だということは重々知っていたつもりではあるけど。決めポーズが逐一美しいし、困っちゃうのよ。しかも金髪が映える衣装でさあ。ほんと。

噂には聞いていたけどこの目で見るまで信じていなかった存在と言えば「ジプシーソングでタンバリンを振って踊る今井遥さん」なんですが、実在、していました。いや、あの。かわいい。かわいすぎるのよ。カラフルなリボンのポニーテールに?同じようなカラーリングのリボンがついたタンバリンで?伝説のマラゲーニャ衣装を彷彿とさせるショッキングピンクのスカートで?衣装の作りは村娘っぽくなってて?

まず最初に、わたしの直感が「今井遥にこの色を着せたいという強い意志があるのは絶対伊藤聡美さんだ」と叫んでいましたが、蓋を開けてみれば大正解でした。そりゃそうなんよ。ジプシーソングの遥ちゃんの何が良いって、彼女の持ち味である疾走感が余すことなく生きています。あの曲、速いでしょ?あのテンポ感に取り残されず「可愛さに全振りしました」と言わんばかりにタンバリンを打ち鳴らす。遥ちゃんにしかできない所業ですよ。

遥ちゃんにタンバリンを持たせたのは「ハルちゃんに似合いそう」という真央さんのアイディアだそうで、やっぱり浅田真央さん、同担?

最後に全員集合する絵面、伊藤さんの衣装が完成度高すぎて生まれたって聞いた。最高の集合絵ですよ。


【バラード第1番】

わたしは信仰上の理由(※ジョン・ノイマイヤーに忠誠を誓っている)によりバラ1のことをスケートの曲ではなくバレエの曲だと言い張りたいのですが、真央さんのバラ1は現役時代、タラソワ先生が「バレリーナの練習風景をイメージして振り付けた」という趣旨の話をされていたのが印象的で(すぐ出典引っ張ってこれない、申し訳ない)。

確かにこれ、超絶技巧の詰め合わせでもあるんですけど、バレエダンサーのバーレッスンを模していると言われたら納得するんですよね。最初の方にコンパルソリー練習しているような振付がとくにそう思う。情念というよりは、楚々とした自分に厳しい職人肌のようなバラ1(わたしのバラ1観が偏ってるのは認めます)

あんなに狙ったようなタイミングで2Aの離氷と着氷を繰り返せたら人生めっちゃ楽しいだろうな、わたし音ハメ2A跳んでみたい曲いっぱいあるもん。

浅田真央さん、ショパンのバラード全曲やってくれないかな…絶対最高のバラ4滑れるよこの人は……


【幻想即興曲】

出、出~~~フィギュアスケートにおける現代のバレエ・ブラン~~~ッ!

「バレエ・ブラン」って何?と思われた方。その反応で正解です。フランス語から翻訳すると「白いバレエ」。古典バレエ作品で導入されることが多いのですが、白い衣装を着たバレリーナによる群舞で、幻想的な場面を表現するものです。具体例を挙げる方が早いかな、「ジゼル」の第2幕、「ラ・バヤデール」の影の王国、「白鳥の湖」の白鳥の湖の場面(版によって何幕か変わるからこの呼び方しかできない)などですね。

BEYONDの幻想即興曲、実は「バレエ・ブラン」の要素を大いに含んでおり、現代的な形に再解釈したものなんじゃないですか?

まず全員白い衣装。女性スケーターのスカート丈は長く(ロマンティック・チュチュ系の長さですね)、男性スケーターも下に黒パンツは履いているけど、白く丈の長い巻きスカートのようになっていて、見た目としては「全員お揃いの白衣装」となるように統一が図られている。

そして光の当て方からしても、夢幻的な場面を表現していると断定して支障がないのではなかろうか。プログラム冊子読んでも「幻想的な表現」の志向に言及していたし(なおこれについて「幻想即興曲」という曲名からアプローチするつもりはない、なぜならショパン本人はそのタイトルをつけていないはずだから。ベートーヴェンの「月光」と一緒です)。

で、これだけだったら単なる古典の踏襲に終わるんだけど、BEYONDの幻想即興曲が面白いのは「全員が同じ動きにならないようにしている」ところですね。途中、ショートサイドに向かって真央さんを中心にV字に並ぶ部分あるじゃないですか、あれ全員違う動きしているし、真央さん自身もそれが効果的に見えるように狙ったとドキュメンタリーで話していたんですよ。しかも大人数アイドルのMVの振付している方に助言を乞うた、と。

なので、古典バレエの典型的な形式を借りつつ、中身はモダンダンスを詰めたという、新規性の高い試みになっているんですよね…すっごいなあ…。

この演目が殊に非人間的というか超越的に見えるのは、性別の境界を排している点で特徴的だからかもしれない。BEYOND、他の演目は結構ハッキリ男女の役柄が分かれているんですが、幻想即興曲においてはその役割分担がなくて、ただ全員が「美」に資することに徹している。そう考えると特異性が際立ってるな。

人生で最後に見る映像はこれが良い、って言ってたフォロワーさんいるけど、かなり同意できる。あまりに浮世離れした美しさだから。

かなり私的な記憶に触れると、3月東京公演の席は手すりが目の前で、視界の悪さについて注釈がつけられるような席だった。確かに目の前には金属製の手すりが鎮座していたのだが、ちょうど幻想即興曲のとき、その手すりが縁取った長方形の視界に今井遥さんと山本恭廉さんの二人がピッタリ納まった瞬間があり「もうこれでいいよ」と本気でありがたがっていた。


【シュニトケのタンゴ】

シュニトケのタンゴ、これも非常に美味しいプログラムで…その…

これはもう仕方ないと思うので言うんですが、スケスケ素材の衣装を着た山本恭廉さんがあまりにセクシーで放送禁止じゃないですか???なんで大丈夫なの???シェヘラザードが大丈夫だから放送コードOKってことなの???

男性だけが演じるシュニトケ、真央さんの現役時代とは全く別の、苦悩より色気に全振りしたプログラムになっており、わたしのような細胞が煩悩で構成されてるオタクは大喜びです。

BEYONDのいいところは男性のキャラが全員明確に分かれてるところなんですが、シュニトケは最初から最後まで男性しかいないので、余計にそれを思いますね。

山本恭廉ファンとしては前述のロクサーヌ(悩殺)がどうしても脳裏を過ぎるので、全くもって冷静に見られないのですが、恭廉さんのイナバウアーってなんであんなに美しいんですか?ああいうのを「魅惑の曲線美」って言うんですよね?わたし知ってるんだからッ…!

BEYONDはハッピー陽キャの山本恭廉さんを提供してくれるという点で非常に希少価値が高いのですが、やはりこういうダークな曲で内側から情念が迸る、どうしようもなく渦巻く煩悶が色気として漏れ出てしまうタイプの山本恭廉を見ると「待ってました!!!」と机バァン!してしまうわけです。

どのくらい嬉しいかと言うと、ステーキが売りのレストランに行って、前菜もスープも全部美味しくて満足してたけど、いざメインのステーキが出てきたときくらい嬉しい。

そしてまあ、田村岳斗の「場を引き締める力」みたいな圧の強さをひしひしと感じる演目でもある。すごいよヤマト先生。登場しただけで空気がガラッと変わるんだもん。わたしは先生の現役時代を存じ上げないけど、リンクインしただけで会場中を自分色に染め上げることができる才覚の持ち主だったんじゃないだろうか。

【白鳥の湖】

BEYONDの演目で一番好みなのはカルメンだけど、一番完成度が高いのは白鳥の湖じゃないでしょうか。だってこれ、バレエとして再現度が高すぎる。

かつて今井遥さんがご自身の著作で、引退までに演じてみたかった曲に「白鳥の湖」を挙げていたので、もしその夢が叶うことがあったら彼女は白鳥と黒鳥のどっちになるんだろう、と想像の世界で遊んでいたのですが、答えは白鳥でしたね。

これ群舞の白鳥をやってる女性陣、相当腕の使い方を練習しただろうな、と。実際バレエの「白鳥の湖」でも腕の表情によって、いまバレリーナが人間の姿に戻れているか白鳥に変えられている状態かを演じ分けているのですが、それが氷上でも淀みなく再現されている。

嶺くん王子とヤマト先生ロットバルトもいいですよねえ、嶺くんの王子はものすごく光属性というか「あなたたちをなんとか助けたいです!」という真摯さが滲み出ているのに黒鳥にまんまと騙されそうだし、なんといってもロットバルトの顔が良い。いや、すまない。でもなあ。あんなファンタジーの悪役みたいな頭飾りと衣装に違和感がない成人男性、世の中に何人もいるもんじゃないよ。

実は選手時代の浅田真央さんの白鳥の湖に対して「衣装が白鳥すぎるのに選曲と振付が黒鳥すぎる」と異議を唱えたかったオタクなので、今回ちゃんと衣装も変えて、白鳥と黒鳥を演じ分けていたのがハッピー満点要素でした。しかもまあ、毒々しい黒鳥衣装の似合うこと!あれさあ、タイツが半分黒くないのがまたミソで、多少のオデットらしい善性もチラつかせるずる賢さ。

もともと「白鳥の湖」のオデット/オディール役の解釈には「どのくらい悪に振り切ってしまうか」というポイントがあり、そこが人によって違うのが面白いのですが、なるほどその「完全に悪ではないですよ」と油断させる演出を衣装でやってくるのか。興味深い。

これはオタクが嬉しいだけなんだけど、バレエのガラ公演だと黒鳥と王子のパドドゥはその二人でしかやらないから、ちゃんと原作通りのロットバルトが邪魔に入る演出、嬉しくない?嬉しいよなあ?恋愛って邪魔が入ると燃えますからね、そりゃ王子も拍車がかかりますって。

そして浅田真央さんのグランフェッテ!これ、BEYOND全体で最も盛り上がる部分じゃないですか?バレエ「白鳥の湖」でも興奮のクライマックスになるのが、オディール役の32回連続グランフェッテ。細かい説明を端折ると、要は片足立ちで32回転しますよという話で、現代のバレリーナはみんな当たり前のようにやっているけど、そもそも異常な超絶技巧だし、作品が披露された当時は観客の度肝を抜いたこと間違いなし。

選手時代のプログラムでも「真央ちゃんこれ原作リスペクトで32回やってない?」と思ってたけど、競技ルールから解放された今、とんでもなく元気に自由に回転しまくっている。あのねえ。異常です、この人。体幹とか。体力とか。下手したら32回より多く回ってるだろこれ。どうしちゃったの?

そして、盛り上がる黒鳥のパドドゥで終わらせず、最後の幕切れまで演じ切るあたりに矜持を感じる。ちゃんと原作エンドだし(浅田真央の世界観ってハピエン寄りだと思うし、年齢の低い層も少なからず見に来ている中で、ハピエン改変をせず原作通りに悲劇を提示する浅田真央さん、とってもエンタメ観に信頼がおける)。


【チャルダッシュ】

ンン~~衣装が可愛いですわぞ~~!と思ったら、バレエ衣装作成が本業の衣装屋が手掛けていたらしい。そりゃそうよな。スカートの下にパニエ入れるの、フィギュア衣装が専門の人だったらやらないもん。重いから。実際パンフレットでも「重くて大変」とコメントされていた。逆に安心した。

みんな田舎風の衣装で、群舞らしい群舞やってて可愛いねえ…なんですが、今井遥さんが年明けくらいからチャルダッシュのとき三つ編みになってて可愛さ倍増ヘアスタイルに変身していました。これ以上可愛くなってどうするつもりなん?

群舞ならではの隊形変化、かなり凝ってますよね。これだけ人数が多いと、円運動になった時に外周と内周じゃ相当スピードも違うはずだし、そもそもチャルダッシュの妙は加速にあるので、観客を煽りつつ、曲のスピードに取り残されず、可愛く踊りきる必要があるのだから。

最後、全員が円になってスピンして終わる部分、あまりに山本恭廉さんの手先がふんわりとした曲線を描いており、そうそう、こういうのだよ、わたしはこういう恭廉さんが好きなんだよ、と客席で深々と頷きがち。

チャルダッシュもそうだけど「座長がいない演目」って幾つもあって、それでもそのような演目が決して「座長が出てくるまでの繋ぎ」にならず、各々が見どころを有した演目として独立しているのは、かなり立派なことじゃないかしら(BEYONDのチームメンバーの一人一人が実力者なのは理解しているが、それはそれとして、浅田真央さんのスタミナや瞬発的なパワーがあまりに常人より抜きん出ているため、改めて全メンバーの存在感の偉大さを実感している)


【カプリース】

現役時代のカプリースもかなり激しかったけど、あれよりパワーアップすることってあるんだ。浅田真央さん、最近のインタビューで「自分は人より体力があるかもしれないと気付いた」という旨の発言をされていたが、気付くのが遅すぎないか?

カプリースといえば扇子使い。これがもうめちゃくちゃ上手い。フラメンコ畑の人間なのでアバニコ(扇子)の捌き方にはずっと苦労させられているんですが、ほんとさあ、その巧みな回し方どうなってんの?教えてくれない?

扇子を綺麗に回せる人って、正しい手・腕の使い方をやってるんですよ。手を回しましょう、となった時に、手先に力が入っているようでは綺麗に回らない。体の中心、要は背中を軸に回すことを意識し、あくまでも腕や手、指先には背中からの力が伝わっているだけ、という状態。だから手先の力は抜けているように見えねばならない。そのあたりの重点の制御がうまくいくと、リラックスした、でも野放しではない軌道を描いて扇子が円を描くんですわね。頭じゃ分かってんのよ。それが体に染みついてる浅田真央さんって強いわ。

本当に自由な身体の持ち主ですよね。最後の最後にこれを滑っているということがとんでもなくヤバい。衣装もカッコいいしねえ。


【愛の夢】

愛の夢は演目というより「感謝」として見ているような部分があって…あながち間違いではないと思うんだけど……とても丁寧な山本恭廉さんと、さりげなく親密な今井遥さん……二人とも本当に良かったねえの気持ちになります。

わたしがどれほど、アイスショーで活躍する二人の姿を現役時代に切望していたかは、ちょっと重くなってしまうのでここでは書かないのですが、BEYONDを未だに「わたしにとって幸せ過ぎる夢かもしれない」と思ってしまうくらいには、そうでした。

本当に「ただアンサンブルの一員として採用された」のではなく、各人のキャラクターや魅せ方を完全に熟知した上で、それぞれの長所が生きる役割を振り分けている浅田真央さん。ありがとう。嬉しい。こんなにもわたしの好きなスケーターたちに真摯な関心を向けてくれて。彼ら彼女らにとって最も快い形で、花開く場を与えてくれて。

こんなことを言うと怒られると思うんですが、BEYONDメンバーのオタクたち、全員浅田真央さんと各メンバーの解釈について語り合う会を開きたがってる気がするんですよね。少なくともわたしはそう。

あんなにも潤いに満ちた今井遥さんを、あんなにも陰陽の華をふりまく山本恭廉さんを、堂々たる表舞台で見せてくださってありがとうございます、って。


【補足】

千秋楽のみ特別に追加された演目、詳しくは言わないけど「あ~山本恭廉さんって翼生えてるんや、だったらこの世の者と思えぬ美しい所作でも致し方ないな~」と納得しました。道理で天上的なふるまいをするわけだ。