ブレイキンが来年のパリオリンピックから追加種目として新たに加わった。

 

ブレイクダンスは元々バトルで競い合うダンス

 

何を競い合うかというと、

 

動きの良さを競い合ったり、

 

技術を競い合ったり、

 

迫力、凄さを競い合ったり、

 

オリジナリティーを競い合ったり、

 

どっちがオーディエンスをわかせられるか競い合ったり、

 

先の相手のターンで相手が仕掛けてきた技やムーブと同じ事を自分のターンでさらりとやってのけ、更に凄いムーブを被せて相手に返したり、(これがキモチイイ!)

 

勝敗はその場のオーディエンスや空気が決めた。

 

あるいは、戦っている当事者たちが自分たちの主観で決めた。

 

「今日は俺らの勝ちだな」

 

「今日は俺らの負け。でも、次は負けねえよ?」

 

みたいなカンジで。

 

そして、それは、バトルであり、アートであり、文化だった。

 

僕らが若かったころ、

 

正確に言うならば、80年代のブレイクダンスブームが終わり、

 

ディスコブームも陰りが見え始め、

 

クラブシーンが台頭し始めた時代。

 

ブレイキンはヒップホップカルチャーの一つであり、

 

まだまだ不良の文化であった。

 

ブレイキンは都会のアンダーグランドに生きるオシャレな不良にしかできないダンスだった。

 

常に周囲からはそういう目で見られているのは自覚していたし、自分もそのことを否定しなかった。

 

学校で踊れば、生徒指導部の体育科の教員に

 

「おまえ、ああいう踊りが出来るってことは、クラブやディスコに通ってるんだろう。そこでタバコや酒を飲んでいるんだろう」

 

と目を付けられ、授業中に突然教室に入って来て、僕だけ所持品検査を受けたことも度々あった。

 

かつて、エレキギターを持っているだけで不良扱いされる時代があったが、それと同じ。

 

そういう時代だった。

 

90年代前半までは。

 

↑ヤンキー定番の短ランにボンタン、
ではなく、短ランにベルボトム

※自分はヤンキーではない、というアピールをしつつも、個性は出したかった。

 

 

 

やがて、情報が容易に手に入る時代となり、

 

わざわざ不良が集まるクラブに行って、ダンサーと知り合わなくても、

 

ダンススクールやダンスDVDなどの普及で、誰でも安全に効率よくストリートのダンスを習得できる時代となった。

 

そして、ダンサー人口は一気に増えた。

 

中でも最も多かったのがブレイカー人口だった。

 

「ナイナイの岡村さんがめちゃイケでブレイクダンスをやっているのを見て始めたんです」という若い子が多いし、

最近では「岡村隆史さんがブレイクダンスブームを引き起こした」とまで言われている。

 

ちょっと待った!

 

めちゃイケで岡村さんがブレイクを披露していた時は、インターネットが多くの国民に普及し始めた時期。国内外問わず、世界的に既にブレイカーが急増し、各メディアで数多くブレイカーが起用されるようになっていた時代だったのである。

(銀ブラ天国の時の岡村さんに影響されたのだったら、ギリ、まあ、わかるかな…)

 

あの数年前には、とんねるずでブレイクダンス企画があって(しんごさんも出演)

 

DA PUMPが大人気になって、ユキナリやケンがブレイクをあちこちで披露して、

 

スマスマでもブレイクダンス企画がシリーズ化された。

 

TRFのSAMさんの番組「RAVE2001」(テレビ東京)が人気番組となり、ブレイカーに限らず、幅広いジャンルのストリートダンサーが出演し、その影響で更にダンサー人口が増えた。

 

夜の街に繰り出せば、ビルの窓ガラスの前やターミナル駅の構内で、多くのブレイカーが頭で回っている…

 

そんな時代ですよ。

 

その後、DA PUMPの「少年ちゃんぷる」という番組をはじめ、その他のストリートダンス番組やストリートダンスの企画を入れた番組が一気に激増した。

 

当然、それに比例して、ブレイカー人口はますます増えた。


ブレイカーは既に多かったわけで、テレビで岡村さんがブレイクを披露しているのを見る以外にも、ブレイクダンスを観る機会は多く、容易にブレイクダンスの情報が手に入る時代であり、岡村さんを見てブレイクダンスを始めたまでは分かるが、岡村さんがブレイクダンスブームを起こしたというのは、ちょっと違うと思う。

 

一方、風見しんご(風見慎吾)さんの時は、ネットなど無く、ブレイクダンスの情報はテレビと映画に限られていた。

 

普通の一般人にとってブレイクダンスを見る機会があるとすれば、テレビで風見しんごさんが披露するブレイクダンスのみ。

 

風見しんごさんがブレイクダンスを披露したことで、老若男女問わず、一気にブレイクダンスを世に知らしめた。

 

それまで「日本人にはブレイクはできない」と言われてきたのだが、しんごさんが披露したことで、

 

「日本人でもブレイクができるんだ…」

 

「俺もやろっかな…」

 

こうしてブレイクダンスブームが起きたのである。

 

だからこそ、あきらかに「風見慎吾が日本でブレイクダンスブームを起こした」と言えるわけだが、

 

「岡村さんがブレイクダンスブームを起こした」とまで言われると、「ちょっと待てよ!」って気分になる。

 

だって、岡村キッカケの子たちにもブレイクを教えてきたから…

 

当時、リアルタイムで現場に身を置いていたから…

 

岡村さんに影響されて「ブレイクダンス教えてください」と中高生らに僕らが言われていたその時すでに、日本中、いや、世界中、僕も含めてブレイカーだらけの時代だったのである。

 

岡村さんがブームを起こすまでもなく…

 

 

 

話が脱線してしまったので、元に戻す。

 

ブレイカー人口が増え、各メディアや

 

HIPHOPのPV(ミュージックビデオ)にブレイカーが起用されるようになった。

 

ブレイクができるタレントも増えた。

 

国内ではストリートダンスの雑誌が発売(それ以前にも90年代には既に無料の薄い情報誌が原田さんのADHIPから刊行されていた。ADHIPのADとはANGEL DUSTの頭文字。つまり、かつて岡村隆史さんが所属していたANGEL DUST BREAKERSの原田さんの会社)

 

国内外で大きな大会やイベントが開催されるようになった。

 

米国であれば、ラジオトロン、フリースタイルセッション、B BOY SUMMIT

 

イギリスのUK B-BOY CHAMPIONSHIP

 

国内ではダンスディライトやメインストリート

 

アキラさん(風見慎吾さんのバックダンサー)主催のB BOY NIGHT(六本木R hall)や後のB BOY PARK(原宿ホコ天)

 

BATTLE OF THE YEARやIBEといった大きな世界大会

 

RED BULL BC ONE

 

大きな会場を使ったダンスバトル?ダンス大会?のイベントでは、審査員が勝敗を審査する形式のバトルが始まった。

 

(今のブレイキンの各種大会のバトル方式は、その流れの延長線上にある。)

 

インターネットは完全に普及され、田舎から都会にあるダンススクールに通わなくても、

 

あるいは、教則DVDに大金を払わなくても、

 

ネット環境さえあれば、YouTubeでタダでストリートダンスをマスターできる時代となった。

 

そして、ブレイキンは様々なメディアで更に使われるようになる。

 

 

特撮番組化、

 

コミック化、

 

アニメ化、

 

ゲーム化までされた。

 

やがて、パリ五輪でブレイクが採用されることが決まり、日本が男女共に金メダル有力候補である事にいち早く目を付けたNHKは、他のどの局よりもブレイキンに注目し、その宣伝に力を入れ始めた。

 

オリンピックの商業的宣伝効果は凄まじいものがある。

 

先の東京オリンピックのスケボーで日本人が金メダルを獲った直後にスケーター人口は一気に増えた。

 

スケートパークが次々と各地に開園。

 

そのことで、更にシーンは盛り上がり、

 

その手の業界は今ではバブル状態。

 

ブレイキンに関しては、まだオリンピック前、金メダル獲得前だというのにこの盛り上がり。

 

ますますブレイカー人口は増えた。

 

ブレイカーの年齢構成も物凄く幅が広がった。

 

下は幼児から上は老人まで。

 

もともとアンダーグランドのシーンがこれだけ盛り上がれば、もはや、アンダーグランドではなくなる。

 

ダンス部のある学校も増え、体育の授業にヒップホップやブレイキンを取り入れる学校も出てきて、

 

学校でもお墨付きをもらい、どうどうとブレイキンができる時代となった。

 

ブレイキンをやっても不良扱いされなくなった。

 

それどころか、親御さんが自ら進んで自分たちの子供に早くからブレイキンを覚えさせようという現象も起き始めた。

 

ネット環境さえあれば、3歳ぐらいの幼児でもブレイキンをタダで安全に習得できる環境となったわけだから、「やろう」、「させよう」と思えば、いつでも出来る時代になったのである。

 

いま、日本はオリンピックのブレイキンでメダル有力候補のブレイキン大国であるが、そのシーンを牽引しているのは、そういう世代の子たちである。

 

今やブレイキンは、ピアノやお習字といった習い事の一つに入ってしまった感じだ。

 

 

 

今、オリンピックを見据えて盛り上がっているブレイキングの各種大会は、

 

これまでの大会より、うんと細かく設定された各採点項目

 

音と踊りの融合性であったり、技の完成度であったり、踊りの独創性であったり、その他いろいろ…

 

減点項目はこれまでのブレイキンバトルとほぼ同じ

クラッシュ(技が失敗し崩れる・地面にぶつかる、バランスを失う・滑るなど)

リピート(1度披露した技やムーブを再び使うと減点)

バイト(他のbboyの技や踊りを真似すると減点)

 

その合計得点で、より多く点数を取った方が勝者となる。

 

ちなみにパリ五輪のブレイキンバトルの内訳は

3ラウンド制の1 on 1形式

採点項目は

テクニック:技術。技の難易度の完成度、スピードや迫力

エクセキューション:一連のダンスの構成が失敗することなくスムーズに繋げてコンパクトにまとめられているかなど総合的なダンスのクオリティー。

ボキャブラリー:踊りのスタイルの多様性(持ちネタ・技等引き出しの多さ)

オリジナリティー:独創性。雰囲気や個性、表現力、オリジナルスタイル

ミュージカリティー:音楽とシンクロ性融合性

 

 

 

 

これは、90年代初頭まであったブレイキンバトルとは全く様相が異なる。

 

ブレイクダンスのことをよく知らない人たちから見たら、やっていることは同じに見えるかもしれない。

 

でも、常にシーンに身を置いてきた当事者からしてみると、全然違うのである。

 

僕ら古い時代のブレイカーから見れば、今のブレイキンバトルは、

 

フィギュアスケートと同じく「競技」なのである。

 

ダンススポーツとでも言うべきか?

 

はたまたダンス競技と言うべきか?

 

 

 

文化としてのブレイキン

 

競技としてのブレイキン

 

どっちが良いとか正しいというわけではない。

 

ただ、両者は似て非なる物なのかなぁと思う。

 

どちらも共通しているものと言えば、形こそ違えど、「ダンスバトル」であり、「ダンスアート」なのかな?