「空軍の総帥 ヘルマン・ゲーリング」を読んでいて気になる戦闘シーンの記述があった。

 

どう気になるのかというと、第一次大戦の独逸の撃墜王エルンスト・ウーデットとフランスの撃墜王ギンヌメルのかの有名な一騎打ちと非常によく似ている場面があるのである。

 

この本では、デンマークのパウリ・クラウゼがゲーリングと空中戦をしたときの事を追懐して語っているのだが、その内容は以下の通り。

 

「大戦当時、私はフランス側の義勇軍として戦った。

或る日、広い草原の上を飛んでいると、フランスの方から単機で帰投している独逸機と出会った。

互いに出方をうかがった後、大きく旋回して空中戦を開始した。

独逸機は巧みな宙返りを繰り返しながら鋭く攻撃してくる。

これは敵の中でも大物に相違ないと思った。

そのうち私の機銃が故障して発火しなくなった。

私は槌や拳で幾度も発熱している機銃を叩いたが、無駄だった。

敵機が迫ってくる。

もう駄目だと思った。

ところが、私の様子を見ていた敵は射撃を止めてしまった。

そして気の毒そうに、しかし、警戒しながら、私の周囲を旋回し始めた。

ああ、なんという偉大な瞬間だったろう…

敵機はぐっと機首を寄せるや、手を帽子の所まであげて敬礼をし、そのまま飛び去ってしまったのである。

そのとき以来、私はドイツ人を尊敬するようになったが、ある機会から、私はその飛行士がゲーリング中尉であったことを知った。」

 

ウーデット著「戦乱の翼」の中で語られているギンヌメルとの一騎打ちシーンをそのままパクってゲーリングの偉人伝にしてしまったようだ。

どんなに控えめに言っても、これは決してオマージュではない。パクリである。

ギンヌメルはあの戦闘の後、しばらくして戦死したが、第一次大戦が終わり、第二次大戦となった今(このゲーリングの逸話が書かれたのは第二次大戦中)は、かつて、敵国の飛行士にも敬意を表していた騎士道精神も、もはや存在せず、敵国の英雄の逸話を自分たちの逸話として書き換えてしまうという…

何というか、そこまで落ちぶれたか…

といった印象を受けた。

↑エルンスト・ウーデット著 戦乱の翼

フランスを救いし空の勇者 ギンヌメル

↑撃墜王 ギイヌメル