昨日、渋谷のヒューマントラストシネマで「BREAK BEATERS」という映画を観ました。

上映は昼・夜の1日2回のみ。

東京で上映されているのはこの映画館のみ。

かなりマニアックな映画だからかもしれません。

時代はまだ1980年代、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツのブレイクダンス事情を扱っている内容。

ブレイクダンスが題材の映画というだけでもマニアックと捉えられるかもしれません。

それに、今の若者が生まれる前の出来事ですし、今の若い子や若いb boyにとっても馴染みや興味関心の無い時代や国での出来事。

相当コアな人しか来ないだろうと踏んだのかもしれません。

ちなみに僕が観たのは夜間上映の部でした。

60人入る劇場に実際に来たのは20人程度でしょうか。

まあ、想定内です。

意外だったのは、来場した客層を見ると、特にHIP HOP関係者、ブレイクダンスやっていそうな人、やっていたっぽい人は見受けられず、普通のお客さんやカップルが多いといった印象。

よく見ると足元プーマの人とかいましたが、B BOYじゃなくても普通に履いてますからねぇ。。。

ちょっとそれっぽい格好したおじさんがいたけど、顔はよく見えませんでした。

そのひとつ前の時間に上映された「伽耶子VS貞子」は満員状態で、お客さんのほとんどは若いお姉さん方。

女子高生の集団の悲鳴が外まで響き渡っていました。

ところで、この「ブレイク・ビーターズ」というタイトル、一体どんな意味から来ているかご存知でしょうか?

このタイトルの由来は「ブレイクビーツ」。

「ブレイクビーツ」のブレイクとは「休み」の意味。

チョコレートのKit KatのCMで「Have a break. Have a Kit Kat!」と言っていますよね?

あれは「一休みして、キットカットでも食べようよ!」という意味なんです。

一般的に「break」という単語の意味は「壊す」という意味で浸透しておりますが、このように「休み」という意味もあるのです。

そして「break beats」とは、歌休みの部分のことなんです。

たとえば、ある曲の歌詞に1番と2番があるとします。

1番と2番の間には楽器だけのインストゥルメンタルの演奏部分がありますよね?

所謂、「間奏」という奴です。

その「間奏」部分で歌手は休む(break)ことが出来ますね。

当時ニューヨークのサウスブロンクスのパーティーなどでは、この間奏部分で一番盛り上がっていたんです。

でも間奏部分って短いじゃないですか。

だからこの間奏部分をどうにかして長くしたい。

そこで思いついたのが、今でもDJプレイで使われているテクニックなのですが、2台のターンテーブル(レコードプレーヤー)と2枚の同じレコードを用意して、この歌声なしの楽器オンリーの間奏部分だけを交互に流すことによって間奏部分を引き延ばしたのです。。

これを「ブレイクビーツ」と言います。

このテクニックを最初に考案して実行したのが伝説のDJクールハークです。

そして、ハイになった少年たちが、このブレイクビーツに合わせて踊っていたわけですが、この少年たちをB-BOYと呼んだのです。

B-BOYのBはBREAK のB。

BREAK BEATSに合わせて踊るからB BOY。

つまりBREAK BOYの略。

そして、BREAK BOYの踊るダンスをB BOYINGまたはBREAKINGと言います。

ブレイクダンスとは彼らのダンスがあまりにも有名となり、メディアが取り上げた際に、メディアが勝手に作った名前です。

前置きが長くなりましたが、この「ブレイク・ビーターズ」という映画はドイツが東西に分裂していた時代に、自由と自己主張を極端に制限された社会主義国家である東ドイツに住んでいたB-BOYの生き様を描いた映画です。

要するにタイトルの「BREAK BEATERS」は「B-BOYS」あるいは「BREAKDANCERS」という意味で名付けたのでしょう。

映画ですから単純に「ブレイクダンサーズ」と名付けるよりも「ブレイク・ビーターズ」と名付けた方が、聞いた人が「なんだそれ?」と気になるかもしれませんし、上手くいけば話題を呼ぶかもしれないからでしょう。



映画の内容は、まだ上映が始まったばかりという事もあり、詳しく書きません。

ですから簡単に感想を述べさせていただきます。

結論から先に言うと、この映画、絶対おすすめです。

ダンスに興味がある人だけでなく、普通の若い人、特に冷戦時代を知らないような世代には是非見ていただきたい映画ですね。

この映画を通じて歴史も勉強できます。

冷戦と書きましたが、ベルリンの壁によりドイツが分断されたことも今のロシア含む当時のソ連が大いに関係しています。

中国や北朝鮮が現代のようになったのもソ連が関係しています。

各地で起こるテロや紛争も時代をさかのぼればソ連が関係しています。

ちなみにソ連ではブレイクダンスはもちろん、アメリカの文化から来ている娯楽は徹底的に取り締まりの対象でした。

ロックンロールを聞くことも演奏する事も禁止だったのです。

(まあ、日本も戦時中は似たようなもんでした。
たとえば、禁止とまではいかないまでも「野球などけしからん」といった具合。
仮に野球をやったとしても敵性語(英語)の禁止で「ストライク」とか「アウト」といったような言葉を使う事も禁止されたり、欧米の映画を見ることや音楽を聴くことも禁止され、欧米風のファッションをすることも禁止でした。)

そのソ連と同胞の国だったのです。

東ドイツは。

ですから自由とか個人の意思とか全く尊重されない国だったのです。

そんな国にブレイクダンサーがいたということ自体が驚きですね。

最初はこの国でもブレイクダンスは取り締まりの対象だったのです。

特に路上でのブレイクダンスは。路上で踊ると逮捕されるのです。

当時、上映されていた「BEAT STREET]という映画が東ドイツの若者の間でも反響を呼び、一気にブレイクダンスの人気に火がつきました。

アメリカの文化を嫌う東ドイツで「BEAT STREET」を上映できたのは、「BEAT STREET]のプロデューサーかの有名なミュージシャン「ハリー・ベラフォンテ」だったからでしょう。

彼は東ドイツと同じ考えを持つ社会主義活動家として認められていたからです。

映画「BEAT STREET]の公開により、ブレイクダンスが多くの東ドイツの若者に認知され、東ドイツにもブレイクダンスブームが到来しました。

すると街中には路上でブレイクダンスの練習をしたりブレイクダンスバトルをする者が出てきたのです。

世界共通ですね。

当然の流れです。

ブレイクダンスはもともとショーダンスではなく、ストリートでやるものですから、路上でダンスをする若者が増えたのです。

普段、抑圧されている分、みなぎる若いパワーを路上で力いっぱい発散する若者たち。

このアツイ情熱を持ったブレイクダンス集団が激増したことに東ドイツ政府は危機感を覚えたのです。

路上で派手にブレイクダンスをする若者が今後も増え続けると、いつか国政に牙を向くような反動分子となり、大規模なデモや暴動に繋がりかねないと。

そこで、東ドイツはブレイクダンスを踊る若者たちも統制しようと考えたのです。

そこで始めたのがブレイクダンスを認可制にすること。

政府関係者がブレイクダンスを踊ろうとする者を審査し、合格した者だけを政府公認のダンサーにすることにしたのです。

ただし、ブレイクダンスを踊るには条件がありました。

常に政府の指導員の監視下で踊ること。

公認されたとはいえ、路上でのストリートパフォーマンスやダンスバトルは禁止。

練習も屋内のみで踊ること。公認のダンサー?舞踏団?には体育館も用意されました。

直属の政府の指導員の指示に従うこと。

認定後は「ブレイクダンス」ではなく「アクロバティック ショー ダンス」と名乗ること。

ソロがメインのブレイクダンスであるが、個人主義ではなく全体主義を尊重する「アクロバティック ショー ダンス」では全員が一緒に同じ動き、踊りをすること。

欧米で使われているようなブレイクダンスの曲などの使用を禁止。使う音楽は政府公認のダサくて変な音楽のみ。

衣装もジャージなどではなく、政府が用意した服装のみ。ギラギラのスーツとか。

大まかにはこういったことが条件として求められました。

こんな感じで本来のブレイクダンスの「自由な要素」は微塵もなくなり、まるで体操競技のような型にハマった堅苦しい形態に変えられてしまったのです。

こういった息苦しい制限のもと、最初は取り締まりの対象だった彼らが、逆に国のプロパガンダに利用されるようになるのです。

以上は政府公認の「アクロバティック ショー ダンサー」になる条件であり、デメリットの部分ですね。

メリットとしては、政府のために働いているために、他の一般人よりも優遇された生活が出来るという事です。

練習場所に体育館を借りることが出来たり、住む場所を提供されたり、専用のロケバスが用意されたり、政府に対してわがままが言えるのです。

政府の指示通りに働く限りは。

さらに大きなメリットとしてもうひとつ欠かせないのが徴兵免除です。

当時、東ドイツには徴兵制があり、男子は一定の年齢になると兵役に就かなければなりません。

軍隊以外にもいくつか選択肢はあったそうですが、多くは3年間の軍隊生活を強制されます。

しかし、「アクロバティック ショー ダンサー」は、政府のプロパガンダのために働いている政府公認の舞踏団ということで、誰もが嫌がる兵役を免除されるというメリットもありました。

お隣韓国も似たようなシステムがあるようですね。

オリンピック選手とかは国を代表して(国を背負って)働くので兵役を免除されるみたいですね。

これは大きいと思います。

物語の背景はこんな感じですね。

こうした抑圧された環境の中でも、万国共通ですが、やっぱり恋愛ドラマがあったり、友情関係があったり、親子の対立があったり、進路の悩みがあったりするわけです。

その辺、詳しいことを知りたい方は是非、映画館まで足を運んで、この映画をご覧になってください。





最後にこの映画に対する突っ込みどころを述べますね。

まず最初に、この映画に出てくる若者たちは、映画「ビートストリート」に影響されてブレイクダンスを始めたという設定となっております。

しかし、彼らが映画館で観ているブレイクダンス映画、

その映像のほとんどは、映画「ビートストリート」ではなく、映画「ワイルドスタイル」の映像なんです。

これは何かの間違いでこうなってしまったのでしょうか?

それともドキュメントタッチで描かれた「ワイルドスタイル」の方がアメリカンカルチャーをリアルに映し出していて使えると踏んだのでしょうか?

それならば映画「ワイルドスタイル」に影響された東ドイツの若者たち、という設定にすればよいのですが。。。

現実は東ドイツでは当時「ビートストリート」しか上映されなかったのでしょう。

忠実性を取るなら「ビートストリート」の映像を使うのでしょうけど、見栄えや面白さを取って「ワイルドスタイル」の映像を使ったのかもしれません。



次に、彼らが踊っているブレイクダンスについて。

映画の最初の方は、彼らはまだブレイクダンス初心者という設定だけあって、踊りがとにかく下手なんです。

もちろん本当は上手いんですよ?

彼らの中にはブレイクダンス世界大会で優勝したFLYING STEPSのメンバーもいます。

ただ、その下手に踊る演技がうまいんですよ。彼ら。

ある程度キャリアを積んでいたり、上達してくると逆に「下手に踊るのってどんなカンジだっけ?」ってなるんです。

下手に踊ろうとしても、「わざとらしい下手さ」なったり。

それが彼らの場合、本当に下手に見えるぐらい下手に踊る演技をするのです。

つまり、彼らは踊りだけでなく、演技も上手いんですよね。

それと踊りに関してもうひとつ。

映画の前半までは80年代の定番の振り付けや技を披露しているのですが、中盤あたりから、なぜか90年代末期から現代までに使われているような新しい技や動きをしているのです。

たとえば2000をやったり、エアーフレアー(エアートラックス)をやったり、21世紀以降のムーブやフリーズをやりまくっているのです。

映画の振り付け師、STORM曰く、「80年代の踊りだけじゃ飽きてしまうから現代の踊りも取り入れたよ」とのこと。

現代の技やムーブの方が難易度が高く、ハイレベルなスキルを要します。

ようするに物語中盤以降で、難易度の高い現代のブレイクダンスの技やムーブを取り入れることにより、主人公たちは格段にスキルアップしたというイメージを観ている人に持ってもらいたい意図があったのかもしれません。
ここまでスキルアップしたからこそ政府から公認されたという風に捉えてもらうために。

歴史的な忠実性はともかく、現代の踊りを取り入れたせいか、踊りの構成も見栄えも凄く良かったです。

ちなみに映画の振り付け師のSTORMはドイツ人で、80年代からブレイクダンスで名をあげていて、ヨーロッパではレジェンドのブレイクダンサーです。

ダンサーとして、エンターテイナーとして、如何にして見せれば観ている人を魅了できるかを熟知していると思います。

やはり、歴史的忠実性よりも、見栄え、面白さをとった映画と言えると思います。

そのほかも突っ込みどころは満載ですが、気になる方は、是非この映画をご覧になってください。

数あるストリートダンス映画を観てきましたが、個人的にはこの映画、凄く面白かったと思います。

「ストリートダンス1,2」や「ステップアップ」シリーズよりも遥かに面白いと思いました。

近年のダンス映画では、「You got served」が1番だったのですが、今は「ブレイク・ビーターズ」が首位ですね。

僕の中では。