空海を知る3 父の氏族「佐伯」のルーツ | 絵本作家 ふじもとのりこの「絵本がもっと楽しめる!絵本製作裏話」

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空海を知る3 

父の氏族「佐伯」のルーツ

 空海が生まれた善通寺は、背後に5つの山が連なった屏風ヶ浦にあります。
その一つ、大麻山山麓には無数の前期古墳が集まっていて、ほとんどが佐伯一族の墓だといわれています。

この地域は、遠い昔に同化政策として、蝦夷から移住してきた人たちも多く住み、農業に従事しています。

この辺りは、瀬戸内海の温暖な気候で、縄文の頃から水田耕作が発達していました。
「万濃」は、「万能」で自然のすべてを実らせる湯tかな土地を意味します。(後に空海が堤防を築いた「満濃池」は、父氏族佐伯の土地だったのですね)

 水田のために水を貯めておく溜池や、用水を供給するための水路の発達した土地でしたが、同時に、治水の難しい土地でもあります。

 讃岐平野は東西に長く南北に短いので、山に降った雨は短時間で海に流れ込み、大雨は洪水を引き起こし、日照りが続くとすぐに干ばつになる土地なのです。

佐伯家は、この土地を治める中心の家でしたから、治水は非常に重要で、その能力にたけていた一族でした。

空海の母は、別名を「玉依姫」と言いました。
玉依姫は竜宮の姫で、水の神、豊穣の神でもあります。(水を祀る神社のご祭神であることも多い)
また、神霊が依りつく巫女で、神との婚姻して神の子を身ごもる母神というイメージもあります。

この治水が重要な土地で、水の霊威を持つ女性と敬意を持たれ、さらにその子、空海も言語の異能の他に、神霊を感じる霊能力の高さを幼いころから感じさせる子どもであったのは、母とセットでより納得され、強化されたと思われます。

「空海が杖をつくと、そこから水が湧き出した。」
という弘法水伝説が各地に残っていますが、空海も水脈を読む治水の直観があり、森羅万象の摂理を観じる力があったのでしょう。


空海の一族
「佐伯値(さえきあたい)」のルーツ

 

「さえき」は「塞城(さいき)」「防き(さへぎ)」からきています。
ヤマトタケルの時代、蝦夷が征伐され、瀬戸内海エリアに送られて同化政策が取られました。
その人たちはまとめて「佐伯部(さえきべ)」と言われていました。

この「佐伯部」から勇者を募って都の守護にあたったのが、古代から天皇家の武力を守ってきた大伴氏の一族で、佐伯部を率いているところから、「佐伯連(さえきむらじ)」という名で呼ばれました。

この佐伯連の下で「佐伯部」の住む土地で彼らを管理する役職に当たっていた一族がいました。
これが「佐伯直(さえきのあたい)」と呼ばれる人達で、これこそが弘法大師の家系です。

 佐伯部の住む地方に在住して、中央の主君の代わりに、そこを治めていた土地の有力者でした。

 

彼らは大伴氏の家来筋で、大伴氏直系ではあり得ません。

のちに、「使えるものは何でも使う」空海は、自分を大伴の子孫であると、ほのめかす書簡も出していますが、これは限りなくグレーです。
古代の有力氏族、大伴の子孫であることが有利な社会情勢があったのでしょう。