夕、です。(ゆう)ね。(た)じゃないです。
この曲は先のブログでもちろっと書いたけど、随分前からあった曲です。多分2021年の春くらい。ぽろぽろぽろっとできた系の曲で。事務所に週に何回か行くんだけど、で、だいたい帰り道は山下君と帰るんだけど、途中で山下君ちに着いてしまう。そこで、でした~!って別れてそこからは一人で自転車を漕ぐ。山下君はいつも気をつけて~と言ってくれる。優しいよね。山下君の気をつけて~って言ってくれるの好きなんです。そして結構大きい商店街を通って帰る。だいたい夕方なのです。夕方の商店街というのはなんとも言えない気持ちになる。道ゆく人々、漂うお惣菜の匂い、傾いていく太陽、夜の気配、夕飯の準備、終わっていく今日と明日への色んな思いが入り混じる時間。そんな景色の中で自転車を漕ぐ俺。母と子、学生、おじいちゃん、ご婦人、誰しもがそれぞれにそれぞれの歴史があってそれぞれの暮らしがある。なんてことないありふれた光景、ただそれだけのことなのに、それだけのことがすごいことだなあとなんか思っちゃうのです。そんな夕暮れの商店街を通ってる中で、もう二度と会うこともないんだろうなあって人のことを思い出したりするのです。貸したまんま、の漫画や本もあるけど、借りたまんまの漫画とかCDとかゲームとかもあるなあ、とかとか、そんな人々も今も生きてて、俺のことなど思い出しもせずどこかの街でこんな夕暮れを眺めているのかもしれない。当たり前に日常を生きて、色んなことで喜んだり悲しんだりしている。料理が失敗したり、つまんないことでくよくよしちゃったり、誰かの何気ない一言で勇気付けられたり、スーパーで安くなってた葱を買ったり、日常を生きている。目の前の商店街の名前も知らない人々と同じように。それってなんかものすごく大それたことのようで。ドキドキしてしまうのです。そんな景色を眺めて、ぽろぽろっとできたのがこの曲でした(ちなみに甘い缶コーヒーは滅多に飲みませんが、たまに寒い日の夕方なんかにふと飲みたくなります。だけどダイドーブレンドコーヒーしか飲みません。なぜか。なぜだろう?寒い日の缶コーヒーはあっという間に冷めてしまう。それがいつも物悲しく感じる。)それが2021年の春なのです。で、割と気に入ってるんだけど、これどうしたもんかと。LUNKHEAD久々の新曲ディ~ス!!ヒャッハー!!とやるにはあまりにも湿っぽい。そこはさあ、もっとパカーンとした曲でいきたいではないですか。かと言って、じゃあ小高ソロで新曲ですってやるのもさ、LUNKHEADで新曲を待たせているのにそりゃちょっと、って気持ちもあって、なのでこの曲は俺の胸の中でそっと放置されることになりました。そして時は巡り2022年4月、アルバムの曲どうするよ?って話になった時に、一応、もう一曲あるにはある、って話をして、とりあえずなんでもあるならデモを作ってくれ!ってなって、とりあえずデモを作ってみることになったわけです。そこで改めて考えるLUNKHEADにおけるこの曲の在り方。こういう曲なので、あんまりドラムもバカスカテクって欲しくはないな、とか、ベースもあんまりトゥルペトゥルペして欲しくはないな、とか、思っちゃったり。なんだか俺ももう頭がおかしくなってきてて、リズム隊がパーリーパーリーしてないともうLUNKHEADじゃないんじゃないかと。なので俺としてはこの曲は絶対LUNKHEADじゃないぞ??と思いながら、でもせっかく気に入っている曲なので可能な限りスッカスカのデモを作ろうと試みて。だからドラムもド、、、、、、、タ、、、、、、、みたいな。ベースもブ~~~~~~~ンブ~~~~~~~ンみたいな。買ってきた大根を丸ごと皿に乗せて召し上がれ、ぐらいのアホみたいなデモを作って怒られるかな?と半ば思ったんだけどこれが意外にメンバーウケが良かった…!!合田さんも、この曲はもう俺なんもしないって言い出したし、マスター桜井も、この曲はシンプルになんもしないのがいいと思うな~と言い出して。そういうパターンもあるのか…!と俺がびっくり。なのでアレンジに関してはリノセントの中である意味一番凝っているかもしれない。みんなで一丸となって何もしない!をする、という。かといって、全編同じ調子じゃ聴いてる人も寝ちまうな、と思って、構成はだいぶ悩みました。やっぱり曲をひとつの物語にする中でドラマチックな展開は欲しい。頭にあったのはほんとイントロとAメロとサビだけだったので、ちゃんと作品として成立するには~みたいなことをデモにする時は考えまくるのです。そんでどうしたらいいかな~と色々試していて最終的に行き着いたのがギターソロからダハー化するという展開でした。これもやっぱり歌詞が書けていたのが大きい。歌詞の世界観に合わせて曲も展開できるので。この最後サビの歌詞もものすごくミニマムなことを歌っているんだけど、そんなありふれたことがある瞬間とてつもなく大それたことに感じてしまうような、そんな音像にしたかった。ちなみにこの曲の俺からエンジニアの井上さんへのミックスオーダーがこちらです。

2サビまでは広い感じというよりは夕方の商店街で独りポツンと立ちすくんでいるような狭い感じで、間奏からが真っ赤な夕焼けが広がるだだっ広い空のイメージ、そしてアウトロでまたシュッと現実に戻ってくるイメージです(原文ママ)

ミックスのオーダーだというのになんなのこの抽象的な。だけども井上さんはもう俺らと20年の勝手知ったる仲。見事に俺の見えてる景色を音に変えてくれました。
だけどそもそもアレンジの段階でみんなが同じ景色を見られていたことがまず大きい。ダハー化のところも
何も言わずともみんな自然とダハーってなったし、ギターソロもとっても良い。最後の一音がまた7度で終わるところも絶妙にアンニュイでニクい。7度っていうのは間奏の最後のコードがC(ドミソ)なんだけど、このドから数えて7つ目の音、ドレミファソラシ、のシのことを7度と言うんだけど、長7度だと普通にシ、短7度だと短調になるので半音下がってラ#になるわけなんだけど、とにかくここで山下君は絶妙にシを弾いてるわけです。キーがGだから実際はファ#なんだけど。この7度は胸がギューっとなるようなノスタルジックな響きで最高の一音なんです。本当はあんまりセオリーではない。あんまりフレーズの着地点としては着地感がない不穏な音だからです。Cだったらドー!!って終わりたい。そこを敢えての7度で不安な感じを出しているのがニクいのです。すごく好きなソロです。
あとまあ、ほんとにリフのベースのフレーズが秀逸で。俺なんもしないって言ったのにめちゃくちゃ凝ってるじゃねえか!と。山下君と二人でそれこそ事務所帰りにベースのフレーズやばいよねって話してたんですけども、本人にそのフレーズめちゃくちゃええやん!!と褒めたら、これまた「めっちゃテキトーやけど」って無表情でバッサリ。なんなんおまえ!!褒めがいがないんじゃ!!そんなベースのフレーズは結構なハイポジションなのでなるたけベース感を出すためにトーンをカットしてくぐもった音にしてるようです。でもあまりにフレーズが良いので、もっと聴こえた~い!(俺が)とミックスの段階でカットしたハイの音を突いてもらうということに。ちなみにコードの土台っていうのはだいたいベースが弾くものなんですが、この曲のリフの部分、山下君はもちろんフレーズを弾いてるし、俺もルート音を弾いてない。合田さんしかコードのルート音を弾いてないのですが、それがハイポジ、高い音。つまりなんだ?というと、ドシッとしてないってことなんです。だけどもそれが良かった。全員がふわふわとした音像で(ふわふわしたベースって…あったわ…)それで逆にうら寂しさを醸し出すことができた。ここのギターフレーズも、元々デモに入れてたやつを山下君が弾いてたんだけど、ベースのフレーズができてからなんとなくギターもっといけるな~と思って、山下君にギターリフの後半いい感じに変えてくれってお願いしました。そしたらいい感じに変えてくれました。
リノセントは今までで一番ライブを意識して作ったアルバムなんだけど、その中で夕の立ち位置は特殊で、でも結果この曲が加わったことでコントラストがついてアルバム全体の流れがとても良くなったと思う。意外?にも夕が好きと言ってくれる人が多いのも嬉しい。ちゃんとLUNKHEADになってよかっタ。