誰か教えては
最初にリフができて
なんつう物悲しいリフだ
物悲しいけどすげー良いリフができた…
と、夜中に一人興奮していた。
そしてそのリフからするするすると
芋づる式にメロディが浮かんでいった。
コード進行は一曲通して
ほとんど
Gsdd9→Aadd9→Bm7→D6
Gadd9→F#m7→Bm7→Aadd9
のループ。
リフもAメロもBメロもサビも間奏も。
うちにかえろうみたいに
曲の中で激しくコード進行が変わっていく曲も
作ってて楽しいけど
こういう同じコード進行の中で
展開を作っていくのも面白い。
ラブ・ソングとかもそうだなあ。

小さな反逆も悟がめちゃ気に入ってくれたけど
この曲も悟がめちゃくちゃ褒めてくれた。
あんな見た目であんなプレイだけど
意外とこういう曲が好きなんだよねあの人。
で、レコーディングの時に悟が
イメージしてる音がなかなか作れないと難儀していて
コンソールとブースを繋ぐトークバックで
どんなイメージなん?と聞いたら
「砂嵐みたいなイメージなんよね」
と返ってきて
コンソールにいた全員目が点になって
頭の上にハテナが浮いた。
砂嵐みたいなベースの音ってなんすか?
イメージがまったくわからず
もはや助言のしようもない。
けども悟は自分の中で答えを見つけたようで
無事レコーディングは進んでいった。
結局、砂嵐みたいなベースの音とは一体なんだったのか
それは俺にはわからなかった。
これがかの有名な「砂嵐事件」である。
でも悟のフレーズはめちゃくちゃかっこいい。
悟のフレージングってもはや作曲だなと思ってるんだけど
1を10にも100にもできるのに
その1は作れないっていう不思議。
合コンを盛り上げるのは得意だけどナンパは無理的な
(実際悟はそうだった。いや俺もナンパ無理ですけど)

全員がひたすら感情を押し殺すように淡々と演奏が進んでいく。
桜井さんのドラムもいろいろ細かいところは変わっていくけど
基本的には同じパターンでストイックに進んでいく。
その淡々としたアンサンブルが
逆に重く暗く激しい悲しみや憎しみやいろんな感情を
抑えきれない負の感情を表現してるようで
とてもいいアレンジだと思う。
間奏前と最後サビ前のドラムだけになるところは
桜井さんのアイデアで
普通に録ったドラムのパターンを
逆再生して重ねてあって
少しトリッキーな響きになってるんだけど
これが淡々と進む曲の中ですごいフックになってていい。

歌いたいことは決まってた。
その頃も子供が巻き込まれる悲しい事件や事故のニュースは
毎日のようにいろんなところから流れ込んできていた。
そういう事件や事故のニュースは昔から報道されていたのだろうけど
自分に子供が出来てから
圧倒的にそういう出来事に対しての受け止め方が変わった。
俺が、もし、誰かに自分の子供を殺されたら
俺は残りの人生のすべてを賭けて
必ずそいつを殺す。
何が何でも殺す。
そんなの誰も救われないとか
死んだ人も望んでないとか
悲しみが連鎖するだけだとか
善とか悪とか
どうでもいい
刺し違えても殺す。
それ以外に多分生きていく理由がない。
でも、曲がとても綺麗なので
あまり直接的な言葉で歌詞を書きたくなかった。
おどろおどろしい曲にしたくなかったから。
なのでそういう気持ちを
かなりオブラートに包んだ表現で書いた。
それでも十分伝わるな、と思った。
だけど悟に歌詞を見せると
「うーん、、よくわかんないけど綺麗な歌詞だね」
と言われてしまった。
うーん、、そうか。。でもまあ、わかる人にはわかるだろう
と、そのままでいこうと思ってた。
で、いざレコーディングで歌録りになった時
大体最初ボリューム調整のために
試しに一回歌うんだけど
その段になって、エンジニアのクワマンが
「んーなんか合田さんの言ってることもわかるんすよねー」
と言いだした。
「子供いる人にはわかるかもしれないけどちょっとわかりづらいというか
もっと言っちゃってもいい気がするんすよねー」
と。
な、なんだとぉぉお?今もう歌録ってるんですけど??
「まだ時間あるし書き直したらどうですかねー?」
クソがぁぁぁぁぁああ!!
だったら言ってやんよ!!
言っちゃうからね!俺言っちゃうんだからね!!
ということで
歌録りは中止
壮が他の曲のギターダビングをすることに
そして俺はTAGO STUDIOの向かいの公園のベンチで
氷結レモンを飲みながら携帯で歌詞を書いた。
言っていいなら言っちゃうぞ?いいんだな?
と思ったらどんどん言葉が湧いてきた。
それが、誰か教えての歌詞なのだった。
原型はほぼとどめてない。

あの時クワマンが提案してくれて本当に良かった。
おかげで誰か教えては良くも悪くもめちゃくちゃ強い曲になった。
そして歌詞を変えても曲の綺麗さは損なわれなかった。

柔らかな髪も 黒い瞳も
あの透き通るような肌も
笑い声も 困った顔も
今はもうただの灰になった

なんつう歌詞を書くんだ
と自分で思った。
いったんそう思いだすと入り込んじゃうので
書いてるうちにどんどん怒りや憎しみや悲しみが渦巻いていって
苦しかった。
苦しかったけど言えてよかったとも思った。

こんな曲だけど、なんか人気がある。
歌詞を変えて録り終わった後クワマンが
「いや…めちゃいいっす…この曲で救われる人いると思うなあ…」
と、誰に言うでもなくつぶやいてた。
‎LUNKHEADの"誰か教えて"
‎曲・4:45分・2015年
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