壊れてくれないは
最初に言ってしまうけど
めちゃくちゃかっこいい曲だと思う。
壮も悟も桜井さんも、そして俺も
はっきり言って
全員頭から最後まで見せ場しかない。
だがこの曲ができるまでには
だいぶ紆余曲折があった(と言っても大したことではないけど)

壊れてくれないは
メメントモリの中で最後にできた曲で
あと一曲必要だな~って時に
悟が、なんかloopみたいな曲があるといいよね
って言って
それで、loop…loopね…
と念頭に置きながら曲を考えてデモを作ってみんなに送った。
とりあえず作ったデモだったので
相当ざっくりで
自分の中でも曲のイメージがまだ全然なかった。
とりあえずみんなに投げとけ~ぐらいの完成度で。
で、いざスタジオで合わせてみたら
山下君がめちゃくちゃファンキーなリフを考えてきた。
それがあまりにかっちょいいので
それで俺も山下君のリフに合わせて
すぐにバッキングのパターンを思いついた。
俺にしては珍しく、ちょっとめんどくさいフレーズを弾いてる。
山下君と俺が合わさってひとつのフレーズになるような。
最初はリフやサビは
A→B→C#m→G#m
A→G#m→C#m→E
っていう、ありふれたコード進行だったんだけど
山下君のリフに呼ばれて
コード進行がめちゃくちゃ変わって
フレーズありきになっちゃったので
正確なコードはもうわかんない。
近い感じだと
AM7→Cdim→C#m7→G#m7
AM7→G#7→C#m7→E
って感じかなあ?
細かく変わるので
正しくは説明できない…
で、ギター二人が最初にアレンジ固まっちゃって
困ったのはリズム隊で
こんなこと今まであんまりなくて
家のガワだけできちゃって土台と基礎どうするよ…
みたいな。
だいたいいつも悟がさっさとフレーズ固めてきて
ギターどうする?
あんだけフレーズ弾かれたらとっ散らかるから俺らコードでよくね?
みたいなパターンが多いので
先に俺と壮ができちゃって
悟と桜井さんは大層悩んでいた。
どうしよう…って悩んでた桜井さんに
そこはいつも通りオラオラのイケイケじゃないっすか?
って言ったら
なぜか桜井さんにオネエ口調で
アナタそうやっていつもいつもオラオラかイケイケしか言わないじゃない!!
って言われたり。

でも結果的に良かったのは
ギターのアレンジが決定的に曲の世界観をしっかり確立していて
そこにリズム隊のアレンジがガチッと噛み合えたことで。
そうしてバチンとめちゃくちゃかっこいい曲に仕上がった。
ギターソロからのベースソロからのドラムソロは
今ではライブにおいてメンバー紹介の定番になっている。
ライブでやるのとても楽しい曲。

音源だと桜井さんのスネアのピッチもかなり高くて
ラテンのノリっていうか
そこらへんもとても気持ちいい。
ちゃんとベースだけ聴くと
ベースがカオスすぎて本当に訳がわからないね。
悩んだ末にこれって…
それでも曲として聴くと
ちゃんと曲として成立して聞こえる不思議…

歌詞は一聴、とてもアンニュイな歌詞だけど
これは知ってる人も多いかもだけど

メメントモリの曲の中で
いよいよあとは壊れてくれないの歌詞が書ければ…!!
というところまで来ていて
その中で出来上がった曲のレコーディングが進んでいて
レコーディングはだいたい深夜まで続いていて
帰るのはいつも明け方だった。
で、ある日のレコーディング
明け方に家に帰った俺は
朦朧とした頭で自転車を漕いでコンビニに行った。
そこでお酒を買って
そして家に帰った。
そしたら財布がない。
な、なぬー!!
ペラペラの寝間着のポケットに入れてたから落としたか!
急いで地面に気を配りながらコンビニまで戻った。
コンビニの店員さんにも聞いた。
でもどうしてもない!
見つからない!!
チキショー!!
明け方の街を
家からコンビニまで何往復しただろうか。
東京オリンピックの選考の演説で
滝川クリステルがおもてなしした時
東京は財布を落としても見つかりますって言ってて
嘘つけー!!!と叫んだ(後日談)
しかもここ都心じゃないぞ!!
東京と言ってもそこらじゅうに畑があって
コンビニに駐車場があるような街やぞ!!

その日はAXワンマンのゲリラチケット売りの日だった。
レコーディングから帰ってきて
財布をなくして
朝っぱらから銀行やらクレジットカード会社やらに電話して
午前中仮眠するつもりが
全く寝ないで財布もない状態で代々木公園に向かった。
財布の中には現金が14,000円ほど入っていたけど
それよりも免許の再発行や銀行のカードの再発行の方が高くついたし
めんどかった。。

そして数日経って
いつも財布を置いていた場所を
家を出る時にふとつい確認してしまう。
そこにはもう財布はないのに。
そこに座るべき主はもういないのに…
そこで、ハッと
主を無くした椅子みたい
という表現が浮かんだ。
俺は天才か、と思った。
そこからズバババッと歌詞が書けた。
本当に、煙のように消えてしまった。
俺の財布…

ドアを無くした鍵みたい

というところ
前に
鍵を無くしたドアみたい
の方がしっくりくる、みたいなツイートを見かけたことがある。
チッチッチ!ノンノンノン!!
そりゃ俺も最初はそう考えたのさ。
でも考えてもみてくださいよ
鍵を無くしたドアは
鍵を変えればいいじゃない?
でもそんなのありふれた表現じゃない?
ところがさ
ドアを無くした鍵の虚しさったらさ
もう何の役にも立たない虚しさったら
鍵はあるのに、その鍵には存在価値はもう何もないんだよ。
そっちの方が表現としてすごいなって
またもや、俺は天才か!と思ってたら
エンジニアのクワマンが
これ、わかりますよ!
ち◯ことアレってことですよね!?
って言ってきて
バ…バカヤロ~!!!

そんなわけで
壊れてくれないは
あんな歌詞だけど
実は全然悲しい曲じゃないっていう
いや、俺は悲しかったけど!!
立会いミックスで壊れてくれないを聴き終わった時
悟がいけしゃあしゃあと
財布落としてよかったね!と言った。
よくはねえわ!!と言ったけど
いやでも、今になっては財布落としただけの価値はあったか?

1番2番のサビを、壊れそう、で終わってて
曲の最後を、もう壊れたい、で締めくくってる。
けどもタイトルは「壊れてくれない」
この言葉で歌詞を完成させる
料理の最後に加える隠し味みたいなこのタイトルも
俺は天才か!と思った。

財布落としてこんな歌詞が書けるって
俺は天才か!というより
どんだけネタに飢えとるんじゃ…とも思うけど
ソロアルバムの眠る前のいたいよは
一晩かけて出汁とった手作りの麺つゆぶちまけた歌詞だし
燦燦は家の前に生えてたタンポポの歌だし。
なんなら追い詰められれば
コンビニのビニール袋でも歌詞が書けるのかもしれない。
目の前にある鉛筆でも書けるのかもしれない。