大切な人が乳がんと診断されたそうです。

本人はそのことを周りには隠していて、今もまだほとんど伝えていないようです。

私にだけは教えてくれました。


高齢のため、手術の全身麻酔に耐えられるかどうかの検査中とのこと。


まず、恐怖が湧いてきました。

もう、この世でこの人しか私を心配してくれる人はいないのに。

いなくなってしまうのかと。

電話口で涙が止まりませんでした。


「検査だけだから心配しないで」


同じセリフを残して入院したまま二度と会えなかった大切な人を思い出しました。




次に湧いてきたのは深い後悔でした。


医者になっておけばよかったと・・・


親戚中医者だらけなので、もちろんそれなりの医師を紹介してもらっています。


でも、自分が何の力にもなれないのがくやしい。


有力な医師になっていれば、もっと有力な医師を紹介できたかもしれないし、

自分が信頼できる人が薦めるのであれば治験という名の効率のいい賭けにも出やすい。


今の私は、素人レベル。


何の力にもなれない・・・


私が医学部で学んだ知識は、日進月歩のガン治療においてはもはや役に立ちません。


今回、あらためて乳がんについて、ネットで見てみたら、

ステージ分類とかは変わってないですけど、治療法や予後はずいぶん改善していました。


複数臓器に転移していても5年生存率が3割超えてるんですね。


生検はまだなので、どのタイプのガンかはわかりません。


でも、ずっと腰痛があったことを知っています。

それが骨転移だった場合は、数年スパンですから、末期の可能性が高い。


何よりも高齢です。


どんな治療方針になるのか・・・


全身麻酔の手術のリスクと温存化学療法の効果とのバランスなのでしょうが・・・


いつまで元気でいてくれるのだろうかと・・・


とても冷静ではいられません。


錯乱して、音信不通状態の彼に、嘘でもいいから結婚して!って連絡しそうになりましたもん。

こんな大変なときでさえ、私の将来を心配してくれている人を安心させたくて。

ひ孫を見せてあげたくて。


「あなたはまだ若い、人生これから」


そう言われても、私にはやりたいこともないし、何も期待されていないし、

誰からも必要とされていない、たぶん本当に無為に終わる人生。


いっそ、この人生を、差し出したい。

私が代わりにがんを引き受けたい。


それくらい、私はその人が大切で、その人がいない世界なんて、

つらくてさみしくてどうにもならないと思うくらい、かけがえのない人。


いつか失うことはわかっていたけど、もう少し、あと少しだけ・・・





ポリクリで出会った患者さんの中に、今でも忘れられない方がいらっしゃいます。

たぶん、私の大切な人の今の年齢と同じくらいの年齢の方でした。


全身に転移していて、来院されたときは既に手の施しようがない状態でした。

皮膚浸潤していて、私は毎朝ガーゼ交換していました。


痛みに強い方でした。


本当に立派な方でした。


死を待つだけの日々、どれだけの痛みと戦っていらしたかと思うと、私は今でも涙が止まらなくなります。

どうして死を選べないのかと、理不尽な思いに苦しめられました。


その方は最後まで、ご家族の希望で緩和治療に移行することなく、苦しみ抜いて亡くなられました。


その方と、私の大切な人の面影が重なります。


この夏の暑さで失われる体力を思うと、心配でたまりません。


仕事なんかどうでもいいから、そばにいてあげたい・・・


というわけで、ちょっと実家に帰るかもしれません。


こんなくだらない生活とおさらばできるきっかけになるなら、不幸中の幸いなのかな・・・

(こころにもないことを・・・