沼地のある森を抜けて | 諸々の昼休み

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小説家・梨木香歩。

彼女の代表作というと、
映画化された児童文学作品、
「西の魔女が死んだ」の名が
挙がる事が多いでしょうが、
他にも面白い作品が沢山あります。

というよりも、
素晴らしい作品が山ほどある、
才能溢れる作家さんです。

私は日本を代表する小説家だと
思っていますよ。

数ある著作群の中から、今回は
「沼地のある森を抜けて」という
作品について書き連ねて行きます。

(※ネタバレ含みますのでご注意を)

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「沼地のある森を抜けて」

沼地にある森を抜けて

設定は現代。
ごく普通の日常的な舞台より、
物語は始まる。

化学メーカーの研究員である
主人公・久美は、
親戚である叔母・時子の死により、
彼女が後生大事に抱え
手入れを続けていた、
先祖伝来の「ぬか床」を
譲り受けることとなる。

早くに両親を亡くし、その後も
長く独り身だった彼女は、
叔母が遺したマンションに
居を移す。そこで先祖伝来の
「ぬか床」の手入れを
し始めるのだが、ほどなく
「怪異」な現象が起こり始める。

ぬか床の中に
「卵」が出現したのだ。

その卵はぬか床から取り出すと、
ガマガエルの泣き声のような
不快な音を発する。
慌ててぬか床に戻すと、
それは治まる。

この現象に最初は戸惑うも、
何だかんだと馴染んでしまう久美。

しかし、最初1つだった卵も、
日が経つと2個、3個と増えて行く。

そしてある日、
とうとう卵が割れた。

そこから現れたものは
何だったのか?

「人」

完全なる実体をともなわない
「人」だったのです。

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ここまでのストーリーは、
本当に物語の序盤でしかなく、
この後、更に怪異な現象が
続いて行きます。

ぬか床から次々と現れる「人」達は、
久美を和ませもしますが、
時として苛み、苦しめます。
とても不気味に。

そして、忍び寄る「死」の影。

この不可思議な現象の謎を解く為、
久美は同僚で、亡くなった叔母とも
旧知の間柄だった風変わりな男性、
「風野」と共に探求へと
乗り出すのです。
科学/化学的なアプローチで。

そして久美は、風野とともに
自身のルーツを辿って行く―――。

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この通常のストーリーの他に、

「かつて風に靡(なび)く
 白銀の草原があったシマの話」

という、異世界を舞台にした寓話が
連作の短編として挿入されています。

こちらは
とても象徴的なストーリーで、
本編にも少なからず
関係して行きます。

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この本の主題は「生命探求」です。
出自、ルーツといったものの
先の先。

「ぬか床」から始まる生命の謎。
「奇想」のSFです。

内容的には
「優生学」や「進化論」にも
引っかかる所があり、
少々危険さもありますが、
しなやかで冷静な視点が
貫かれており、
独創的なストーリーは
心をとらえて離しません。

久美と風野の行き着く先は
一体どこなのか?

近付く死の影から逃れられるのか?

全ての謎は最後に解かれる。

これは連綿と続く、
「命」の物語なのです。