「まあだだよ」


法政大学 のドイツ語教師・百閒先生は

随筆家 としての活動に専念するため

学校を去ることになり、学生たちは

仰げば尊し 』を歌って先生を送る。

職を辞したのちも、

先生の家には彼を慕う門下生たちが集まり、

鍋を囲み酒を酌み交わす。

先生には穏やかな文士生活が

訪れるはずであった。

しかし時代は戦争の只中、

先生も空襲 で家を失ってしまう。

妻と二人、先生は貧しい小屋で

年月を過ごすことを余儀なくされるが、

戦後門下生たちの取り計らいで

新居を構えることを得る。

昭和21年、彼らは先生の健康長寿の

祝いのために「摩阿陀会」なる催しを開く。

なかなか死にそうにない先生に「まあだかい?」

と訊ね、先生が「まあだだよ!」と応える会である。

月日は経ち、17回目の「摩阿陀会」は

先生の喜寿のお祝いも兼ねて盛大に開かれる。

門下生たちの頭にも白いものが交り、

彼らの孫も参加したこの会で、

先生は突然体調を崩してしまう。

大事をとって帰ることになるが、

かつての教え子たちは昔と同じように

『仰げば尊し』を歌って会場を後にする先生を

送るのだった。

その夜、付き添った門下生たちが控える

部屋の奥で、先生はおだやかに眠る。

夢の中、かくれんぼをしている少年は、

友達に何度も「まあだだよ!」と叫ぶ。

少年が見上げた夕焼けの空が、

やがて深く彩られ、夜になっていくところで

映画は終わる。


この作品は、ご存知の通り、

黒澤明監督の遺作である。

黒澤作品にしては、終始穏やかなものだが、

主人公の「先生」の台詞の一つ一つが、

考えさせられるものであった。

私は、遺作としては、

最高の作品であると思いました。

黒澤作品らしい、

幻想的な最後のシーンも、素敵でしたアップアップ