立春を過ぎた8日昼過ぎ、猫の鳴き声がしました
とっさに俳句の早春季語に「恋猫」があったと、
そしてそれはウチのノラだと思いました
だってここは人界隔たる荒れ山
しかも、私が棲んでるボロロプレハブきゃないんだもの
この倒壊寸前プレハブ階下で育った3匹のどれか、
もしくは母猫に違いないってね
(床板・戸口・窓を外したガラクタ置場と化してる1階は、
自在に親子が潜伏できた)
けれど海月山は全匹の縄張り確保には至難な環境らしく、
1匹しかここ数年目にしてない
それが餌の確保に奔走してのことなら、
はたして恋の相手なんて現れてくれるか疑わしいかぎり
民家が続く海岸線の国道沿へ自ら下るならともかく──と、
発情にも哀れをおぼえさせられる次元
これまで私はにやけてました
夜更けて枕に伝わる階下からの物音が時たまするたびに
常はポツン山暮らしなんてちっとも淋しかないはずが、
心がぬくみだすもんだから
月や星明かりさえない闇夜はことに
ひとつ屋根の上階と下階とはいえ眠りなら共有できる存在にね
でも甘やかな呼びかけを聞いてからの一週間、
猫は気配すらなくなった
もしかして恋行脚に麓の人里をめざしてのことなら……、
さみしいけどうれしいな
そしてもう、帰って来るなと念じてはいる
いわゆる親心てやつ
そもそも 水仙が咲く上画像左で横倒しになってた空の大鉢が、
実は母子ノラの産屋だったのね
見つけたのは……空師さんでね
じき母猫が仔猫らをプレハブへ移したのもね、そうだった
思い出すなあ 雨が降りこむ鉢なんかで子育てできるだろうかと、
二人して気をもんだ日もあったこと──
(でもこれからは独りきりで海月山と対峙しなきゃだ)
そんなこともあったから、明日のバレンタインデーは自分事じゃないのね
「どうか記念日にあやかり、
ウチのノラの恋がめでたく成就しますように」って親心からだけ
人家の灯しに恋の炎を着火され、
雄か雌か知らねど…あのノラが、
ついに恋人と新天地に暮らすか孕み腹で帰り来るか、
──なあんて妄想全開してのバレンタイン前夜でありました