ここでは、津村先生が著書に挙げていない、たいせつな他の説をとりあげます

10、宇宙が膨張している・・・・赤方偏移とその効果

オルバースのパラドックスを解く正解の一つが赤方偏移です。

チコちゃんの実験でご覧になった方はイメージしやすいと思いますが、宇宙は膨張しているため、遠くの恒星ほど速く遠ざかります。

その際に、その恒星が発する光は、ドップラー効果ですべての帯域で波長が長くなります。

救急車が遠ざかっていくときに音が低くなるのと同様に、遠ざかる光が低く(波長が長く)なります。

波長が長くなると、光は赤い色の方向に移るので、この現象を赤方偏移といいます。

 

 

上記の図で色のついている部分が可視光の周波数です。(図では波長で表示しています)

 

人間は、太陽光のもっともエネルギーが多い周波数帯で、ものが見えるように進化したと考えられています。

その結果?、可視光領域とそれ以外のエネルギー量には大きな違いがあります。

仮に赤方偏移で左側の紫外線が可視光領域に来ても、目に見える周波数領域のエネルギー量は著しく少なくなります。

赤方偏移は、ドップラー現象によって光の波長が伸びるものですが、厳密にいうと遠くの恒星の場合は波長の伸びのほかに時間の伸びも影響するそうです。

 

人間の目は、網膜に光が当たらなければ反応しないので、ある程度の量の光が必要です。

オルバースのパラドックスでは、遠くの星は暗くても数が多いので、光の量が同じだと考えられていましたが、赤方偏移を考えると遠くの「速く遠ざかっている星」ほど光の量が少なくなります。

この赤方偏移によって、星は光速に達するまえに肉眼では見えなくなります。

(詳しくは、放送大学名誉教授の吉岡一男先生が以前書いた論文をご覧ください)

この赤方偏移について、現実の宇宙においては「暗くする効果」が少ないと考えられています。

非常に遠い宇宙の、宇宙背景放射の測定では、赤方偏移によって可視光の放射量が3分の1程度に減っていることが確認されています。

Olbers's Paradox and the Spectral Intensity of the Extragalactic Background Light

宇宙の進化を考慮にいれて、赤方偏移の効果を最大限に見積もっても4分の1程度に暗くする効果しかないそうです。

 

11、今回は「星の寿命が足りない」という説を採用しません(ミントの私見です)

いま、大まかに3つの説を挙げました。

これを私たちのわかりやすい言葉に直すと、次の3つになります。(ごめんなさい、佐治先生の言葉が好きなのでちょっとインチキしています)

●星の寿命が足りない

●おそらに涯てがある

●宇宙は膨張している

今回、私はこの3説のうち、「星の寿命が足りない」という考えは採らないことにしました。理由は次のとおりです。

 

(1) 津村先生の著書にある説明

『宇宙はなぜ「暗い」のか?』P.160では、次のように述べられています。

「無限に広い宇宙に星が無限に分布しているのなら、夜空は太陽面と同程度に明るくなるはずです。ただしこの結論が導かれるためには、全ての星がずっと光っているという前提がありました。」

津村先生は、この説明とともに、1000垓光年の宇宙に星が光っている確率は10兆分の1であり、私たちに届く光も太陽の面輝度の10兆分の1であると解説してくださっています。

 

(2) この説明の問題点

星は生成・消滅を繰り返します。

とくに、銀河の体積の1%を占める分子雲では多数の星が1000万年程度の時間をかけて誕生して、だいたい100億年輝きます。http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/~submm/sf/sf.html

(ほかにも星の誕生の仕方にはいろいろありますが、ここでは省略します)

宇宙の膨張や宇宙の年齢を考えない場合、一つの星がたった100億年の寿命しかなくても、1000垓光年の宇宙で「いま観測できる星々の数密度」で輝いていると考えることができます。

 

(3) 言葉ではイメージしにくいので図で説明します

津村先生の資料では、次のように図解されています。

こうやって、「まるでドミノ倒しのように順序良く星が誕生していかないと」、今の地球に同時に星の光が届かないと考えたのですね。

でも、いつでも星は生成・消滅を繰り返していると考えたら、次のようになります。

左(表示によっては上)から順に1垓年前、1兆年前、いまの夜空のイメージ図です。

それぞれの夜空に輝いている星は、すべて全く別の星です

ドミノ倒しのように順序よく光がこなくても、どこかが光っていれば全部を星が覆います。

遠くの星は、私たちが見た「いま」は死んでいるかもしれないけど、それはいつの星空でも同じことです。

宇宙の膨張や年齢を考えない場合は、時代による星の個数密度の増減がなければ、いつでも同じ数密度の星が輝いていると考えることができます。

※ 実は、宇宙の恒星にもベビーブームが数千万年ごとに起きるという研究成果があります。

  https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2011/25.html

  また、宇宙の膨張を考えると昔は星の数密度が高く、これからの数密度は低くなっていきます。

  夜空はなぜ暗いのか?の思考実験でいろいろ考えると「涯て」がなくなりそうですね。。。

 

(4) 念のため、星の寿命と背景限界距離について

一般的に、いま観測可能な星の数密度と断面積、星が占める体積を考えるなかに、星の寿命は盛り込まれています。

背景限界距離は、いま観測可能な宇宙の状況(いまの星の輝き)をもとに計算しているので、星の寿命説はそのままでは採用できません。

 

12、ミントの考察・・・・2つの説でだいたい説明できました

それでは、2つの説で「オルバース」と「ヒルバース」、それとついでに今の夜空について検証してみましょう。

レッツ ヒルバース!!!

 

(1) その前に前提を見直します

背景限界距離について、見直しをします。

津村先生が参考になさった「夜空はなぜ暗い?」が書かれたのは1987年、この頃は宇宙に存在する銀河の数が1000億個程度だと考えられていました。また、この本の中では宇宙の年齢を150億年(ということは宇宙の広さは150億光年?)、10光年以内の恒星の数を10個として計算する記述があります。

それらをもとに背景限界距離を計算すると、たしかに約1000垓光年が背景限界距離となります。

 

しかし、2016年10月、ハッブル宇宙望遠鏡の観測画像からの見積もりによって、宇宙に存在する銀河の数が2兆個に訂正されました。

https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/8745_galaxies

これまで考えられた銀河の数の10~20倍もの銀河があるというのは、とても驚くべき変化でした。

これとヒッパルコス衛星の計測データから得られた「10光年以内の恒星の数が12個」、宇宙の広さを138億光年、銀河に存在する恒星の数を1千億個にして、太陽と同じ大きさの恒星をモデルに考えると、背景限界距離は次のようになります。

このブログでは、いちおう36垓光年が背景限界距離であると考えることにします。

 

(2) もう一つのカギ『可視的宇宙の距離』

津村先生からは、この言葉の定義がわからないと言われてしまいましたが、

津村先生が様々な数字や学説を引いている『夜空はなぜ暗い?』では、「可視的宇宙の大きさ」という言葉が使われていました。

私は「大きさ」というと面積や体積も思い浮かべてしまうので、ここでは「可視的宇宙の距離」と書かせていただきます。

これは、現実の空の明るさから、現実に見える宇宙の大きさを逆算するのに役立つ考え方です。

また、私のように「ヒルバース距離」はどのくらい必要か? を考えるときにも有益です。

 

可視的宇宙の距離を計算する方法の求め方は、次の2とおりあります。

ア)大学レベルの数学を使って求める方法 (津村先生からご指導いただいた方法です)

イ)たとえば空の明るさを25万分の1にするために、ばらまいた星の明るさはそのままで、断面積を25万倍にする

  (ミントが書いた方法で、津村先生にも認めていただきました

 

どちらの計算方法を使っても、空の明るさと背景限界距離と可視的宇宙の距離の関係は、次の簡単な式になります。

可視的宇宙の距離=背景限界距離×太陽の面輝度の何倍の明るさか

  「可視的宇宙の距離」とは、空の明るさから計算できる「どこまで見通せれば、その明るさになるか」という距離です。

 

(3) さて、そうするとヒルバース距離は?

このブログでは、背景限界距離を36垓光年(3.6かける10の21乗光年)として計算します。

ヒルバース距離=36垓光年×25万分の1=1.44×10の16乗光年

=1京4400兆光年

私たちの夜空が昼の明るさになるためには、1京4400兆光年先まで見渡せる必要があることがわかりました。

 

いま見える宇宙の大きさは138億光年なので、私たちの夜空は昼の明るさになりません。

(註&お願い)固有距離と共動距離についての突込みはお許しください

 

この距離の違いでは「おそらに涯てがある」ことの効果だけで十分なので、「宇宙が膨張している」ことで暗くなる効果の検証は省略します。

 

(4) いまの夜空の明るさは?・・・・津村先生の記述が。。。。(涙)

こうやって考えると、「では、いまの夜空は138億光年の可視的宇宙の距離による暗さなのか?」ということを当然考えてしまいます。

いまの夜空の明るさが、2つの説を組み合わせることで実現できれば、だいたいこの2説にまとめることができます。

 

津村先生の『宇宙はなぜ「暗い」のか?』のP.161によると「太陽面の明るさの10兆分の1の明るさ」がおおよそ私たちが知っている暗い夜空の明るさに相当するそうです。

 

そうすると、いまの可視的宇宙の距離は36垓光年(3.6かける10の21乗)の10兆(10の12乗)分の1で、、、、

3.6かける10の9乗=36億光年となります。。。。。?

つまり、津村先生の記述を信じると、私たちは36億光年先しか見通せていないことになる????

2016年3月7日にハッブル宇宙望遠鏡で134億年前の銀河を発見したという記事があったけれど、この記事と今の計算はどうして食い違っているのだろう???

 

もしかして、、津村先生がまた原著の数字をそのまま、、、いやいや、きっと津村先生の書いている10兆分の1の暗さというのが、何か私たち凡人の考える夜空の明るさと違う定義なのでしょう。。。

 

(5) 夜空の明るさを算出しました・・・・太陽の面輝度の1374億分の1です(10兆分の1じゃなかった)

さて、それでは、今の夜空の明るさは、太陽の面輝度の明るさの何分の一と考えたらいいでしょうか。

論文をリサーチしても、星のない「暗い部分の明るさ22等星」とか、「特定の星の明るさ○○等星」が出てくるだけで、私の知りたい「私たちが知っている夜空の明るさ」の資料が見当たりません。

それをおばあちゃんにボヤいていたら、おばあちゃんから「それなら、天体撮影の数字で考えればいいじゃない!」というヒントが!!!

うちの祖母は、私をあちこち連れまわして自然や私の写真を撮ってくれる写真愛好家ですが、いまだにメカニカルシャッターの銀塩カメラを愛用している変な人です。

祖母から、太陽なら大体EV33位だから夜空のEV-4との比を出せば良いと言われたけれど、NDフィルターって何?、EV?、F値?な私は言われたことを理解できません。

 

どこかに説明の文章が出ているサイトがないか探してたら、やっと「小学生でも分かるEV値の話」というサイトを見つけました!!!!

ここの表には快晴のEV15までしか出ていませんが、快晴の青空は太陽の面輝度の25万分の1なので、これを使えばおばあちゃんの言うとおりEV15の25万倍の明るさはEV33だと出せます。

夜空の明るさはEV-4なので、EVの差は37です。

そうすると、太陽と夜空の明るさの比は、2の37乗=約1374億分の1になります。

 

(6) 私たちの夜空の明るさが2つの説から説明できました・・・・「だいたい」ですけど。。。

やっとわかった夜空の明るさを使って、可視的宇宙の距離を出します。

可視的宇宙の距離=36垓光年×1374億分の1=2.6×10の11乗光年

=約260億光年

私たちの夜空の明るさは、他の要因がなければ「約260億光年先まで見えている」と考えることができます。

 

ここで「宇宙が膨張している」もあてはめます

佐治先生がチコちゃんで「宇宙が膨張しているということも、まあ、理由の一つにはなるんですね。」と仰っているので、宇宙が膨張していることも含めて可視的宇宙の距離を計算します。

「10、宇宙が膨張している」の説明で、宇宙背景放射において3分の1程度に放射量が減るとご説明しました。

この「3分の1になる」のは、言い換えると「はるか遠くの星は3分の1の暗さになる」に近いことになります。

ということは、近くの星も含めた全体的な赤方偏移による効果は おそらをだいたい3分の2の暗さにすること だと考えても良さそうです。(「4分の1」をもとにした場合は、だいたい2分の1の暗さにすることになります)

 

ということは、さっき求めた可視的宇宙の距離に2分の3をかけて、約390億光年が私たちの見渡せる宇宙の広さだということになります。

 

え?宇宙の広さが「138億光年」と数字が違いますか?

大丈夫です。私は津村先生に次のように教わりましたから、これで正しいと思います。

天文学の世界では「3はだいたい1」、桁さえ合っていればいい

津村先生 2019/4/15 0:26

天文学の世界では「3はだいたい1」ですし、ここでの議論は桁が合っていればいいので、1京光年で良いと思います。1京光年か1垓光年かは、恒星の個数密度として、太陽周辺を使うか、宇宙全体を使うかの違いなので、その後の議論をどう持っていきたいかで、どちらを使うべきかが決まると思います

 

 

13、謝辞・・・・ブログ完成のお礼

このブログは、津村先生のTwitter上でのご発言がバズり、ご著書の人気が高まっているなか、改訂版に反映したい事柄等があって作成しました。

行動のきっかけになったのは津村先生ですし、その後のご指導の数々も忘れられません。ほんとうに。。。

ありがとうございました。津村耕司先生。

 

そして、何よりの謝辞を佐治晴夫先生に。

小さなころから、自然や宇宙を驚きをもって見つめること、音楽や詩や芸術と科学の目を大切にすることを、その温かい語り口のご著書から学ばせていただきました。

 

今回のブログ作成にあたり、佐治先生の『おそらにはてはあるの?』を読み返して、さらにボロボロにしました。

『宇宙の不思議』でたったの2ページで分かりやすくオルバースのパラドックスを解いているのに感動したり、『量子は、不確定性原理のゆりかごで、宇宙の夢をみる』でものが「見える」しくみを再確認したことで、ある程度かたちになるブログにまとめられました。

ありがとうございます。