#量子チェシャ猫 の記事を書くために図書館でいろいろな科学誌を読んだ中に、
アハラノフさんのインタビュー記事がありました。
日経サイエンス2014年1月号の「光子は未来を知っている」は、私にとっては
疑似科学の提唱者の発言と同じもののように感じられたので、覚え書きを置きます。
覚え書きなので、記事本文を読んでいない人にはわかりにくいかもしれません。
まず、私が弱測定という概念に触れたのは、このかたが提唱してくれたからだし、
有名な「光子の裁判」における弱測定の例などは感動的なものであったことは確か
です。
しかし、弱測定は「統計」を利用して全体像を知る方法なのに、高校生が学んで
いる「統計の基礎」を踏まえないで理論を展開しているように見える点で、
アハラノフさんの理論は破綻していると感じたのです。
中学と高校で統計を学ぶとき、かならず次の2つは教えられます。
(1) サンプリングに偏りがあってはいけない
(2) まれにしか起こらない事象を「これが全体像の真実である」と
仮定してはいけない
(1)の典型例は、この前に書いた量子チェシャ猫でした。
量子チェシャ猫では、非常に雑に言えば、秋葉原と渋谷の二つの駅で
アニメイトの袋を持っている人を選択して(秋葉原10人、渋谷1人)、その
変化から秋葉原と渋谷の乗降客の全体像を述べるようなものでした。
(2)は、下記URLのように検定や「帰無仮説」「棄却域」で学びます。
https://bellcurve.jp/statistics/course/9317.html
アハラノフさんは弱測定において、どのような状態を事後選択するかに
よって、すでに測定された電場の平均値(過去)が変わると言っています。
「どの実験でも、電子はまったく同じように箱の中に置かれ、同じ装置に
よって測定された。にもかかわらず電子が作る電場は、その電子が未来
においてどのような測定をされるかによって変わる。未来はそのように
現在に影響を与えるのだ。すなわち、個々の粒子は、未来において自身
にどのような測定がなされるかをすでに知っている。粒子が到達する終
状態が、未来から現在に遡って、何が起きるかを変化させる。その意味
において、未来は今ここに存在する。」
通常予想されるケースを弱測定で積み上げて推計した過去の状態と、
稀なケースだけを弱測定で積み上げて推計した過去の状態はどちらも真実
であり、測定によって過去が変化するというこの理論は、高校生レベルの
統計の基本を踏まえていないことになります。
さきのURLでは、帰無仮説として
「日本人男性の平均身長は180センチである」という仮説を挙げて、
その仮説は5%以下の確率でしか起こらないから棄却しています。
アハラノフさんは、まれにしか起こらない現象だけを集めて統計を使えば
マイナス1個の電子があるかのような劇的な事実が遡って発生すると話して
いました。
さて、身近な例で考えてみます。
私の身長は公称158センチですが、東京に住んでいる男子の平均身長を
推計するために、上60度の目線で歩いて顔が見えた男性の身長を集めます。
そうしたら、東京の男子の平均身長は2メートル近くになりました。(うそです)
稀な結果を測定すると過去が変わるのではなく、稀な結果だけから母集団を
推計することが大きな誤りである。と思いました。
統計的手法を科学で利用するときは、「統計のうそにだまされない方法」を
念頭に置く必要があると感じた記事でした。