部屋に戻っても、僕の熱は収まらなかった。
通学鞄の中からふらふらとカロリーメイトを取り出し机の上に放る。
椅子に座り、机に肘をついて頭を抱えた。
耳たぶまで熱くなっていることに遅まきながら気付き、さらにぐつぐつと僕のボルテージは上がっていく。
とてもじゃないけど、こんな状態の僕を家族に見せるわけにはいかない。
一人きりの反省会を始めるのだ。
(・・・びっくりした)
ただそれだけが脳裏にあった。
姉に話しかけられた。
受け答えをしてしまった。
久しぶりに姉を正面から見つめてしまった。
その嬉しさ、じゃなくて、
ダメージは意外と大きい。
残像のように、姉の姿が目に焼きついている。
完全にノックアウト、だった。
最近はひたすら姉に理性を吸い取られないようにしていたのに、
今までの苦労が水の泡だった。
姉は見るたび見るたびにどんどん美しくなっていくから、
僕はいつも気が気じゃないっていうのに。
その磨き上げられていく美しさが他の男のために在ることが嫌で、
そいつらに嫉妬しながらもそんな醜い感情を抱えてる自分自身にも嫌気がさしていた。
だから僕は、
醜い僕を作り出すひとと向き合わないためにも、
姉を避けていたというのに。
どうして、もっと見ていたくなるのだろう。
どうして、姉の姿をもっと、追いかけたくなるのだろう。
姉は「姉」でしかないのに。
そう思うことしかできないのに。
どうして。
「翔~今ちょっと入っていい?」
襖の向こう側から、
姉の声がした。
確かに。
聞き間違いじゃなかった。
僕はまだ幻聴を訴えるほど壊れてはいないから。
じゃあどうして。
どうして、
姉が僕の部屋にやってくるんだ?
どうして・・・
なんで?
「ちょっと・・・待って!」
こんな事、想像すらしていなかったけど、
まずはささやかな栄養補給をさせてください、姉さん。