弟が私たち家族の前でだけ、自分のことを「俺」と言っていることを、私は知っていた。

私だって同じだったから。

私は私の胸の中でだけ、私を「私」と呼んでいた。

あなたは気付いてくれていたかしら?

偽りの自分を創るためにまず努力しなければいけなかったのは、

自分で自分に嘘をつくことだったのかもしれないわね。



別に流れるような付き合いをしていたって、私自身は痛くも痒くもなかった。

むしろ可哀想だったのは私と束の間の交際をした男たちのほうだったのかもしれない。

私は母や佐藤さんの目に常に新しい「彼氏の顔」を、そして彼氏の「数」をインプットさせるためだけに、人形に飽きた子供のようにころころと何の理由もなく男を変えた。

「換えた」とでも言ったほうがいいのかもしれない。

弟にさえそんな私を見られなければ何をやってもいいとさえ、私は思っていたから。

それでもやっぱり選べなかった。

弟と雰囲気が似ている男でなければ。

周りの人間は「男たらし」という称号を授けた私の相手の顔をひとたび見れば、みんな意外そうな顔をした。なんて失礼な。

弟を何処かのチャラい奴と一緒にするななんて思いが首をもたげるが、彼らには関係ないことなので必死に黙殺したのは一度や二度じゃない。

弟は普通より少し物静かなほうだけど、惹かれる何かがある。

それは私だけの認識だろうか。

誰かを好きになる理由なんて、無いのと同じことには変わりない。

そうじゃなければ、

最初からこんな望みのない恋などしない。



少し物静かな雰囲気の男を探すのは割と簡単だった。

それでも信じてほしい。

今まで弟以上に私が心傾けられた人間は、

この世界にいなかったんだってことを。

物心ついたときには既に、

私は弟しか見えていなかった。

それをあなただけには、

ずっと忘れないでいてほしい。



もうそろそろおしまいね。

最初から叶わない恋など、

したくはなかったのに。

どうして望みがないことを知りながら、

私は想ってしまうのだろう。



教えなさいよ。誰でもいいから・・・