もう傍にはいられないと思うの。

自分でも変な話だって思ってる。

ほんと、笑っちゃうくらい可笑しな話。

ねえ、どうして誰よりも近くにいるはずなのに、

誰よりも遠くのひとになってしまうの?

どうして私たちの距離は縮まらないで離れていくの?

誰か教えてよ。

ねえ。

何がいけなかったの?

何もかもがいけなかったの?

ねえ。

どうして?




二つ年下の弟は、私が高校に入学する頃には既に私とめったに目を合わせてはくれなくなっていた。

恐らくはこんな姉を持ったことを恥じているのだろう。

でもそれが私の想像であることを、私はなんとなく悟ってしまっている。

そしてそれが私の願いから生まれた想像であることも、私はよく分かっているつもりだ。

久しぶりに弟の視線とぶつかったある日、ああやっぱりそうなんだって感じたから。

私と同じ光が弟の目にも宿っていることに気付いてしまった。

弟は私に恋をしていたのだ。

姉弟という一本の絆で繋がっているんだもの、そのサインがどんな形で相手に伝わるかなんてお見通しだった。

だからこそ私は、

男癖の悪い女というレッテルを背負うために、

流れるような付き合いをしていくことを決めていた。。

それは既に実行中。

そして井戸端会議が好きな母が、情報屋として私のことをよく家族団欒の時間に話題にしようとする。

すぐお隣の家の佐藤さんも、母と同じ井戸端会議の主要メンバー。

母が見られなかった私のはしたなさを上手にカバーして、逐一母に伝えてくれるらしい。

とても好都合だと思った。

私のこの胸が引き裂かれんばかりの努力も、母たちの活躍も、そのどれもが弟に、そしてすべての人に何も悟らせないため働きかけていくのだから。

私が持つ弟と同じ光を、誰にも気付かれずに隠し持っていられるように。

少しでも長い間、私が松下家長女として家にいられることを願っていた。

一人の松下道琉という女として、決断しなければならない時が訪れないことを祈っていた。


私も、弟に恋をしていたから。