悪徳ガス屋vs院長たぁ | LuLu たぁオフィシャルブログ「LuLu総合病院 外科」Powered by Ameba

悪徳ガス屋vs院長たぁ


「カチッ…カチッ…」

うちのキッチンにガスコンロのつまみを回す音だけが虚しく響き渡った。



事の顛末はこうだ。




2月の頭からアルバムのレコーディングだったLuLu。
レコーディング期間はほぼスタジオに缶詰状態で、家には寝に帰るだけ。みたいな生活だった。達郎先生なんかも日記に書いていたけど、「もうスタジオに住めばいいじゃん」てな生活で、繊細の塊、繊細が服をきているような僕は軽くホームシックに陥った。

まぁそんな生活だから、もう光熱費のことなんか綺麗さっぱり忘れてんの。
家に着いたら一刻も早く寝たいし、郵便受けなんか見ない。玄関なんかは風のように駆け抜けて、靴下も脱がずにベッドにインだ。
そしたらもう3時間は何があっても起きない。来客の呼び鈴なんか聞こえない。心に響かない。




そんな鎖国を貫いたライフスタイルを謳歌してたら…






見事にガス止まった。





で、冒頭のガスコンロのつまみ回し反復行動な訳。
いくら回したってカチカチなるだけ。
ホント虚しい。

なんていうか「枯渇した油田の煙突から火が消えた」みたいになってたもの。ウチのガスコンロ。
なんせ、いつも頼もしく燃えている火が無いからね。

そりゃあ切なくて切なくて。

まだかまだかとお湯を待ってる、ふた半開きのカップラーメンに目からウッカリ塩水こぼしそうになったもんな。



しばらく立ち尽くしたよ。キッチンに一人。


でもまぁ、状況を理解するのに時間は掛からなかった。

そういえば心当たりがあったんです。

レコーディング期間に入る前、つまり1月末頃ですな。

ガス屋を名乗るなんとも怪しげな男がウチにやってきまして。

胸にガス屋の名札つけてなかったら、うさんくさい訪問販売と判断して、カタコトの日本語で追い返してやるぞ、なんて思うレヴェル。

で、その彼がこんなこという訳。

「御手洗さん(僕の仮名) 先月のガス代1万5千円になるんだけど、今払える?払わないとガス止めるよ?」と。

あ、御手洗ってのは僕が憧れてる苗字でして。
かっこよくないですか?御手洗って書いてみたらいですよ。なんていうか斬新だよね。イイ。
出来ることなら御手洗さんの家に婿入りしたい。
で、御手洗の性を名乗りたい。
まぁ、御手洗さんへのラヴコールはこのへんにしておいて。



肝心のガス代の話しなんだけど、有り得ねぇんですわコレが。


僕は確かに日本でも屈指の低所得者に位置付けられている貧民ですが、医者のクセに貧民ですが、風呂の余り湯で洗車しますが、光熱費くらい払っとるわ!

うん、確かに払ってるんです。それは間違いない。なけなしのお金で。

なのにそれをこのガス屋は!訪問販売みたいなガス屋は!
ホントにうさん臭い。
本気でヘッドギアとか似合いそうだもの。おもわず「その1万5千円はお布施ですか?」って聞き返しそうになった。

てゆうか、憤怒した。怒りが沸点を迎えそうになった。
だって、なけなしのお金でガス代払ってるのに、「ガス止めるよ?」ですよ。なんの為に俺はジャンプを立ち読みで我慢してんだって泣きそうになった。
今すぐいままで我慢してきたジャンプ買ってこいや!って怒り狂いそうになった。


だけどそこは平常心で怒りを抑え、「1万5千なら確かに払いました。会社に帰ったら確認お願いします。」とキッパリ言いましたよ僕は。
大人の対応を見せつけましたよ。少年ジャンプみてるけど。


そしたらその信者の奴、面白くなさそうな顔で「あ、そうですか」って言い残して帰った。

もうね、呆然ですよ。面白くないのはこっちだっつーの。


とまぁそんなやりとりがあったんですよ。

だけど、すぐレコーディング期間に入り、そんなことがあったことは綺麗さっぱり忘れていったわけ。



そしたら見事にガス止まってんの。


そこで、ガス屋とのそんなやりとりがあったことを思い出して怒り沸騰ですよ。

もうね、今度こそは怒った。ロッキーみたいに怒りに燃えた。ガスコンロには火ついてないけど。
エイドリアンに誓った。ガス屋を倒すと。

もう最高に意味が分かんない。1月末に前述のやりとりがガス屋とあって。いま何月だと思ってんだよ。なんで今更になってガス止めるんだよ。つい昨日まではガスついてたじゃねぇか。つい昨日まで素敵なお風呂ライフを満喫してたじゃねぇか!沼に潜むカエルみたく目だけだしてな!
楽しかったぜ。


それをなんで今更になってガスの供給をストップするんだよ。
しかも無実の罪で。

その上、実はこんなことが去年にもおきているんですよ。ようは、2度目な訳。

1度目はライブから帰ってきて、意気揚々と風呂場にシャワーを浴びに向かったときだった。
勢いよく蛇口を捻りお湯を出したはずの俺の頭に降り注いできたのは冷水だった。
冬でした。


もう許さん。
過去の嫌な思い出まで蘇った俺は、怒髪天を衝く勢いで猛った。シャウトの練習でもないのに猛った。
うん、狂ってるんじゃないか俺は。

そのまま家を飛び出して、ガス屋と刺し違える勢いでガス屋に向かったよ。いや、我ながら凄い勢いだったよ。走ったもんな。ロッキーみたいに。


そりゃもう、ガス屋にはそれ相応の償いをしてもらおうと思った。ガス10年分くらい無料で供給してもらおうかと思った。とにかくそんな気概を全身にみなぎらせてガス屋に向かった。
なんせ2回目だからな

ライブのつもりで暴れてやるぜ。そんな気概でガス屋の入口をくぐった。




「あのー…すんません、御手洗ですけどー。ガス止まっちゃったみたいでー…」

あれ、違うこんなんじゃない。

もっとこう、なんていうか、「グラァァァァ!」とか「エイドリアーン」とか「治療するぞー!い″ゃ″お″ーっイ″」とか奇声を発するつもりだったのに。



そしたらガス屋さん
「あ、すみませーん。すぐガス通しますねー」って言ってティッシュ1箱とボールペンくれたのな。

もう俺もホクホク笑顔で
「あ、ありがとーございます。すみませんー♪」って言っちゃった。



で、幸せな気持ちで家路についたよ。



ティッシュを脇にかかえて。