腐敗神話<過去ブログ>
えー…俺はvoである。
院長とか言ってるけれど、一応voでもある。つまり歌を歌う人だ。
voはライブの際、持ち込む機材が他のパートに比べ極端に少ない。
俺の場合、マイクとワイヤレスのラックと眉描きだ。
眉描き、これは大事だ。俺はこいつを絶対に手放さない。これについてはまた後で述べようと思う。
とにかく、とりあえずこれさえあれば最低限何とかライブはこなせる。
おかげで俺はいつも楽だ。ありがとう。
ありがとうvo職。
しかし、先日、この楽さを手放しで喜んではいられない事実に気付いてしまったのだ。
持ち物が少ない。
これはすなわち俺が装備しているアイテムの乏しさを意味しているのだ。
ライブ終了の際、よく見る光景。
Drがスティックを投げ、Gt、Baの弦楽器隊がピックを投げる。
終わりを迎えたライブが華々しく盛り上がる場面だ。
そんな中、アイテム数の乏しい俺は、ただただその光景を寂しく見つめる。俺がライブの内で最も疎外感を感じる瞬間だ。
だから俺は歌い終えるとステージから即帰る。
立つ鳥後を濁さず、と言えば聞こえはいいが、なんのことはない只逃げているだけなのだ。仲間外れな寂しさに耐え切れず逃げ出しているだけだ。
正直、あの瞬間、最高に光輝いている他のメンバーが羨ましい。
己の無力さにただただ打ちひしがれる。
もう嫌だ。
こんな思いをするのはたくさんだ。
俺は一念発起した。
やってやる、やってやるぜ、こうなったら眉描きを投げてやる。
しかし次の瞬間、脳裏によぎった光景に俺は躊躇することとなる。
そう、帰り道だ。家までの帰り道。
俺は夜道を「ブサイクスッピン眉無し仕様」という最強スペックで帰らなければならないのだ。
暗い夜道をそんなオバケみたいなのが歩いていたらそれだけで軽犯罪法に触れてしまいそうなな勢いである。
隣に住む、飲み屋を経営するオバチャンなんて階段をすれ違うときに驚愕のあまり階段から転がり落ちて怪我をしてしまうかもしれない。
ライブの帰りにいつもよる某牛丼屋には入店拒否されてしまう可能性だって否めない。
恐ろしい。
それだけは避けなければ。
そんな様々な思いが俺の中を一瞬のうちに駆け巡り、自身を思いとどまらせた。
ダメだ…これだけは投げれない。
投げたら終わる。全てが終わる。ダメだ。
ダメ、ゼッタイ!
俺はすぐさま思考を切り替えた。
そうだ。他のメンバーと俺がただひとつ共有しているものがあるではないか。
水だ。ペットボトルだ。これなら行ける。行けるぞ!
ついに他のメンバーと同じ土俵に立てることに俺は歓喜した。
投げれる。ついに投げれる。
行くぜペットボトル。
唸れ、俺の右腕。
そして俺は輝いた。
ペットボトルを投げたのだ。輝いていたに違いない。
しかし、次の瞬間、俺は青ざめた。
ペットボトルを投げ慣れていない俺。
中身のことを見事に忘れていた。
しまった。誤算だ。
水と言えども腐る。時がたてば腐るのだ。
見た目は春先の学校のプールのようにおぞましく、匂いは異臭を放つことになるだろう。
なんということだろうか。
輝いているように思えた俺の行為は墓穴だったのだ。
たぁの水→腐る→おぞましい見た目になる→たぁがおぞましい。
いとも容易くこんな連想が出来てしまう。
なんてった。
恐ろしい方式を完成させてしまった。
他のメンバーは皆どうしているのだろうか。
全部飲みきって投げるんだろうか。
とにかく、俺のペットボトル持ってる人へ。
ただちに中身を捨ててくれ。
俺のおぞましい計算式が完成する前に。
そして出来れば洗浄して欲しい。
せめて投げたペットボトルくらいは美しくありたいのだ。