もう何年も前のこと、コの字型のカウンターに10数席があるだけの小さなホルモン焼き屋でのこと。

私と彼の二人で席に付くと、反対側の席に私達とちょうど同じくらいと思われる年齢の3名の男の方が座っていました。店内の客は私達と彼らの5名だけで、お互いに何となく相手を受け入れるような、といって会話するわけでもない感じで、それぞれ飲んだり食べたりしていました。

その内に「いいですね、お二人で仲良くホルモン焼き」「すいませんね、こんな僕達が向かいにいちゃって」などと朗らかに話しかけられ、和やかに話をするようになりました。
彼も男性たちもお互いに店員に「あちらにこれを一本」「同じものをあちらに」みたいなことを繰り返し合って、私達は共に美味しいお酒をかなりの量飲み交わしました。

お互いかなりお酒も回ったきた頃、3名の内の1名が「この人たちはいい人だ、気に入った」と言い、わざわざ壁にかけたスーツのジャケットの内ポケットから名刺を取り出しました。
すかさず、隣にいた方が「・・・ちょっと、それは・・」と止めるようなそぶりを見せました。
私も彼も笑顔でその成り行きに任せて見ていましたら、名刺を用意した男性は「大丈夫だって、この人たちは間違いなくいい人たちだよ」と静止を振り切って、こちらに名刺を差し出しました。

半ば笑いをこらえ切れずに私達が戸惑っていると「いや、ほんとに。」と受け取るように促すので、彼と顔を見合わせて笑ってしまいました。
その名刺には『警視庁機動隊』と書いてありました。
その場で名刺を持っていたのが私だけだったので私の名刺を渡すと、「大学の友達が何人かいるよ!」という話になり、大学時代の部活動の話になり、とまたそこからさらに盛り上がり・・・

ということがありました。

日頃から機動隊の姿に強い尊敬の念を抱いていた私は、彼らのどこまでも楽しげな真っ赤で明朗な笑顔を眺めながら一人心の中で「こういう温かくて明るくて、我々と何も変わらないような人が、厳しい訓練を重ねて分厚いガラスの1枚を隔て、怖ろしい連中と最前列で向き合うんだ・・・」と思いました。


23歳で殉職された愛知県警機動隊巡査部長のご冥福を心よりお祈りし、
ご遺族となられたご家族に謹んでお悔やみを申し上げます。