自宅から取って来たいものがあって、お昼ごろお家に向かっていた時のこと。
最寄駅で降りて自宅まで、温かい陽気にうっとりしながら歩いていました

途中、信号待ちをしながら横のほうへ視線をやると、遠くから小さな男の子がえぐえぐ涙を拭いながら歩いてくるのが見えました。
何となく気になり、何度もチラ見しながら様子を伺いますが、誰も追ってくる様子もなく、彼ひとりが広い歩道の上にぽちょんと居る感じ。その辺りはむしろオフィス街に近いため、連休中はあまり人手がありません。見渡しのいい閑散とした通りに人は数えるほど。

そしてその子の周りをいくら見ていても彼の保護者らしい人物はどこにも居ません。
思わず、「じぃー・・・」と見ている私のほうをじっと見つめながら、やがて歩みを速めて半ば転がるようにまっすこちらに向かって来る男の子。後ろを振り向いても私以外誰もいません。
・・・私??
私はその子(以下、僕)の前にかがみ込んで声をかけてみました。

私:「どうしたのー?迷子になっちゃったの?」
子:「いやって言われちゃったの・・・」
私:「何がいやって言われちゃった?」
子:「もういやだって言われちゃった・・・もごもご(解読不能)」

私って、本当ぉ~・・・・に小さな子供と接する機会がないんです。
この年齢の子と話すのも初めて・・・いや10年振り位か?
この子が一体いくつくらいなのかも皆目検討がつきません。

僕の話から推察するに、おそろく数人で遊んでいたら仲間はずれにされたとか。

私:「じゃー、どうしよっか。お友達のところに戻ってみる?」
僕:「やだ・・・やだ・・・」
私:「じゃー、ママのところに行って見る?」
僕:「うん、行く・・」
私:「ママはどこ?」
僕:「・・あっち、ママはねー、あのね、もごもご・・(同上)」

僕に連れられて行った先はコンビニ。店員さんがもしやお父様?なんて思って表情を凝視しましたが、無反応な様子からそれは違うようでした。私の手を握りながら、店内を危なっかしく探し回る僕。
やがて半泣きで、「ママいない・・・」

私:「じゃー、ママはおうちにいるのかなー?」
僕:「うん、そう」
私:「おうちに電話してみようか?」
僕:「うん、する。」
私:「番号わかるかな~?」
僕:「わかんない・・」
私:「おうちまで行ける?」
僕:「行ける、こっち・・・もごもご・・」

すぐそばのマンションに迷わず手を引いて案内する僕。
オートロークのパネルを前に
私:「ボタン押せる?お部屋の番号、わかる?」
僕:「うん、押せる・・」
壁の高い位置に設置されたパネルの前に僕を抱え上げると、僕は並んだボタンの上に小さな手を這わせるようにして言いました
僕:「どこ? 教えて・・?」
・・・。
私:「どこ押すかわかんないかなー?」
僕:「わかんない・・」

再び表に出た私と僕。

私:「じゃー、おまわりさんのところに行ってみようか。」
僕:「うん!行く・・」

交番に着くと、ちょうど巡回中で無人でした。設置されている電話で事情を伝え、待つこと20分。
やがて4人の警察官が次々と「すみませんね~」なんて言いながら自転車で戻ってみえました。
地図を使ってこれまでの経緯を伝えたところで、警察官が僕に聞きました。
警:「僕、お名前なんていうの?」
僕:「わかんない・・・」



しかし、子供ってかわいいですねー。
何というか・・・、神秘的。

散々歩いた上に辿り着いた交番に椅子がなかったので、立っているのにも疲れてきっている様子の僕に、私は「(交番の机に)すわる?」と訊きました。すぐ「うん、すわる」と言うものの、いざ座らせると「怒られない?」って訊くのです。
賢いのかお育ちがいいのか普通なのか全然わかりませんが、何かすごく印象的でした。
お回りさんが遠くに見えて来たので、「遠くにお回りさんが見えてきたよー、降りる?」と訊けば「うん、降りる」と。
そして私に「うんと、さっき、なんで僕が歩いてる時ずっと見てたの?」なんて言うんです。
どこまでわかってて、どこからがわからないのか、それが掴めなくて(単に私が子供を知らないだけかとも思いますが・・・)神秘的なものを感じました。

少し前に、バスを待ってきた時のこと。
バス停に母親と祖母に連れられた男の子がやってきて、近くの花壇の脇に並べられた鉢植えを上から踏み付けていました。
小さな足が鉢植えにすっぽりとはまるようなはまらないような感触が面白いのか、花が溢れていた鉢の上から何度もも片足を踏み込む動作を繰り返していました。私は思わず声を上げた(というか「・・・!」みたいな感じで声が漏れそうになった)のですが、母親も祖母も興味なさそうに彼の行動を見やっていました。
鉢植えはぐちゃぐちゃになりました。
こちらの子のほうが大きかったと思います。見ていてこう危なっかしい感じはあまりなかったので。
こちらは小学校に上がる前??くらい、迷子のあの子は幼稚園に上がる前??くらい?でしょうか。

ああいう違いは子供の個性なのでしょうか。
年齢?
それとも親御さんのご養育?



にしても、緊張しましたー。
二人で歩きながら、ここで何かあったら(途中、道路脇の花壇にいた小さな蜂みたいのがすーっと寄ってきて、思わず抱えてその場を離れました。もうその責任を考えるとガクブルでした。小さな段差にはここで転んだら大変、とか、ちゃんと水分は取ってるのかしら?とか、交番では机から落ちるようなことがあったら大変(机と私で彼を軽くサンドイッチするように立ちふさがりました・・・)とか、あらゆる可能性がプレッシャーとしてのしかかって来ました。思う存分「ビビリちゃん」の本領を発揮する自分に笑ってしまいます。


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