この秋には発売か?と噂されていた『Seiko Jazz 3』は、追加収録があったり、色々(版権上の?)問題が生じたりでずいぶん発売が遅れてしまいましたが、ついに「2024.2.14の発売」と告知され、音盤の予約も開始されました。
前作の『SEIKO JAZZ 2』でも、いわばQ(クインシー・ジョーンズ)スクールのマーヴィン・ウォーレンがプロデューサー&アレンジャーとして起用されましたが、今回もQスクールの超大物、ネイザン・イーストがプロデューサーとして招聘されました。
アレンジはネイザンとその息子のノア・イーストが主に担当したようです。演奏は、ネイザン、ノア親子はもちろん、スティーヴ・フェローン、グレッグ・フィリンゲインズ、トム・キーン、ジャック・リーなどそうそうたるメンバー。さらにジェイムス・ゾラー(tp)やケニー・G(ss)がソリストとして客演しています。
聖子さんのヴォーカル云々以前に、聴こえてくるサウンド自体が楽しみでたまりませんね!
(収録曲とオリジナル演奏者)
① I'm Not In Love / 10cc 1975
② 赤いスイートピー English Jazz Ver. / 松田聖子 1982
③ Rock With You / Michael Jackson 1979
④ Tears In Heaven / Eric Clapton 1992
⑤ The Sweetest Taboo / Sade 1985
⑥ Killing Me Softly With His Song / Lori Lieberman 1972
⑦ Chasing Cars / Snow Patrol 2006
⑧ Saving All My Love For You / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. 1978
⑨ Paradise / Sade 1987
⑩ Love...Thy Will Be Done / Martika 1991
⑪ How Deep Is Your Love / Bee Gees 1977
*なお、特設サイトに曲ごとのCREDITが載っています。
選曲はほぼ聖子さん自身が行ったようです。前作までの古いジャズ・スタンダードやボサノバ曲を主体とした曲構成は放棄し、1970年代から2000年代のポップス、ロック、ソウル系のヒット曲から、聖子さんが聴き親しんだ曲、新しいアレンジで歌ってみたい曲を選んでいます。この点は、SEIKO JAZZシリーズでも新機軸であるし、本来あるべき方向性だと思います。ジャズという音楽は、いろんなスタイルの変遷はあったものの、その時代時代のヒット曲を換骨奪胎して新たなアレンジ、新たな感性で演奏するというのがキモだからです。
結果、古いJazzオタクのジジイには手ごわい選曲になりましたが、その分期待値も100倍です!
曲目やパーソネルから想像すると、基本はブラコン系?、フュージョン系のサウンドになるのかなと思いますが、ウッド・ベース(アップライト・ベース)や生ピアノを使った演奏も多いようなので、意外にオーソドックスなジャズ・フォーマットの演奏もあるような気がします。
それでは、私自身の「予習」も兼ねて、一曲づつ見ていきましょうか。
① I'm Not In Love / 10cc 1975
▲10cc、バンド名は知っていますがほとんど聴いた覚えがありません。メロディは比較的シンプルですが、コーラス音を合成してシンセみたいなサウンドを作っているんでしょうか?すごいですね。
これをどういう形でジャズに塗り替えるのか、想像もできません・・・
ちなみに、この曲ではジェイムス・ゾラー(tp)がフューチャーされるようですが、ゾラーさんは(御大亡き後の)デューク・エリントン楽団など有名バンドを渡り歩き、けっこう古い物が得意なトランぺッターですので、もしかしてこれを古めのジャズ・スタイルでやるの? おもしろそう!
② 赤いスイートピー English Jazz Ver. / 松田聖子 1982
▲上の動画は『SEIKO MATSUDA 2020』に収録された英語ヴァージョン。
今回も同じMarc Jordanによる英訳詞で歌うようです。
まあアルバムには呼びモノ(眼玉?)が必要なわけで、このセルフカバーが本作の呼びモノということですね。しかも、スムースジャズ系サックスの巨匠ケニー・Gとの共演。ケニー・Gさんのソプラノサックスの音色はホントに美しい。
(Kenny G/The Moment)
③ Rock With You / Michael Jackson 1979
▲サンデーズ時代の聖子ちゃんは、マイケルの「Don’t Stop 'Til You Get Enough」を素材に西条満先生からダンスの猛特訓を受けた、という逸話がありますね。その頃から、マイケルは聖子ちゃんのヒーローの一人だったに違いありません。
前作ではちょっと大人っぽい「Human Nature」を歌いましたが、今回はド直球できましたね。
クインシーのプロデュースによる『Off The Wall』に収録されたこの曲ですが、マイケルのレコーディングでキーボードを担当したグレッグ・フィリンゲインズ本人が、アレンジとピアノで参加しています。なんか凄いことになってますね!
④ Tears In Heaven / Eric Clapton 1992
▲4歳で亡くなった息子を偲んで作った曲、ということで聖子さんにはちょっと重たい曲ですが、天国で沙也加さんと再会する日を想いながら歌ったんでしょうか・・・。
クラプトンには「身内の死を商売に使うな」とか心無い批判もあったようですし、聖子さんにもその類のコメントが来るでしょうが、そんなのは想定内。
あえてこの曲を歌ってくれた聖子さんに感謝です。
⑤ The Sweetest Taboo / Sade 1985
▲まあ、こういうアダルトでコンテンポラリーなサウンド、聖子さんは好きでしょうねぇ。近年の聖子さんの曲作りにも影響を与えたような気がします。
シャーデー・アデュのメイクやファッションも一時の聖子さんに影響あったかも?
⑥ Killing Me Softly With His Song / Lori Lieberman 1972
▲ロバータ・フラックの歌唱が有名すぎて、ロリ・リーバーマンのオリジナル・ヴァージョンはすっかり忘れてました。思い出すいいきっかけになりました。
(Roberta Flack)
我々の世代はつい「ネスカフェ」のCMを思い出してしまいますが、聖子さんは、1985年の「ザッツミュージック」という番組でこの歌を日本語と英語で歌っていましたね。↓(復活シン聖子命に感謝!)
⑦ Chasing Cars / Snow Patrol 2006
▲すいません、知らない曲です^^;こういうのをオルタナティヴ・ロックって言うんでしょうか?その界隈では超有名なんでしょうね。
この曲をどういうアレンジで歌うのか?実はかなり楽しみな一曲です。
⑧ Saving All My Love For You / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr. 1978
▲この曲も、ホイットニー・ヒューストンのヴァージョンが有名すぎて、この原ヴァージョンは記憶にありませんでした。
(Whitney Houston)
今の聖子さんはホイットニーのようなパワフルな歌唱は望めませんが、聖子さんなりにどう消化して歌うのか、興味深いところです。
⑨ Paradise / Sade 1987
▲なるほどねぇ、正直私はシャーデーにはあまり興味がなかったんですが、このクールでアーバンなグルーヴ感、いいですねぇ!
聖子さんがシャーデーから2曲も採ったのも頷けますな。
⑩ Love...Thy Will Be Done / Martika 1991
▲この曲も初めて聴きました。作曲はプリンスですか。
「thy」は「your」の古語で、シェイクスピアの時代ぐらいまでは詩でよく使われました。「thy」は所有格ですので、次の「Will」は助動詞ではなく「意志」の意味の名詞ですね。なんか宗教的なニュアンスの歌詞なんでしょうか?
俄然この歌詞に興味が出てきましたが、今は時間がないので今度ゆっくり歌詞を確認したいと思います(しないだろうなぁ・・・)。
⑪ How Deep Is Your Love / Bee Gees 1977
▲一旦は製作完了したのに聖子さんのたっての要請で追加収録されたとのことで、この曲にどんな思い入れがあったんでしょう?
聖子さんは2006年の『Eternal II』でこの曲を歌っていたわけですが、その時の歌唱が物足りなくて再挑戦したかったんでしょうか。それとも・・・
(How Deep Is Your Love / 松田聖子)
そういえば、聖子ちゃんはすでに1982/03/14のレッツゴーヤングで、この曲を日本語で歌っていましたね(トシちゃんとのデュエット)。
(愛はきらめきの中に)
音域の広い曲で、若き日の聖子ちゃんは高音のファルセットに苦しんでいますね。
今回もファルセットの出し入れがキーになる曲だと思いますが、聖子さんはどんな歌唱を聴かせてくれるんでしょうか?
閑話休題・・・
ボッサクバーナさんの名記事「Seiko Jazz 0(ゼロ)」で詳細に検証されているように、「SEIKO JAZZ プロジェクト」はクインシー・ジョーンズとの邂逅から始まりました。
そして、エリントン~クインシー~聖子の競演という、あの空前絶後にして幻のMVが生まれたわけです。
One Of These Days / Seiko Matsuda
さらに、Qスクールの筆頭格であるボブ・ジェイムスをリーダーとするフュージョン・バンド Fourplay のアルバム『Esprit De Four』(2012)で、聖子さんは「Put Our Hearts Togather」を歌っています。この曲は、ボブ・ジェイムスと共演の形で「東京JAZZ 2012」のステージで披露され、その圧倒的な表現力はコアなジャズファンをも驚かせました。
Put Our Hearts Togather / Fourplay with Seiko Matsuda
(残念ながら「東京JAZZ 2012」での歌唱は危険動画のためお見せできません)
その Fourplay の不動のベーシストが、今回プロデュースを担当したネイザン・イーストなわけで、ネイザンと聖子さんの関係も今に始まったわけではなく深い因縁があります。
SEIKO JAZZ の前史において披露された上記の二曲は、およそジャズやフュージョンといったジャンルで括れる音楽ではなく、「アダルト・コンテンポラリー」とでも言うしかない曲で、エリントン流に言えば「Good Music」と評するしかない音楽です。
その意味で、今回のジャンル横断的なラインナップは私にとってあっと驚く選曲であると同時に、SEIKO JAZZプロジェクト本来のコンセプトに近づきつつあるのかなぁ・・・という期待を抱かせるものでした。
(もちろん前記2曲のような歌唱をもう一度やってほしい、という意味ではありません)
ということで、まだ聴いてもいないのにいろいろと偉そうな駄文を書いてしまいました、ごめんなさい^^;
とにかくもう、来年のヴァレンタインが待ち遠しくてたまりません!
ではまた~~
(追記)
TVで”I'm Not In Love”のサワリを流したみたいですね。(0:28~)
本文で「古めのジャズ・スタイルでやるの?」なんて書いたけど、ミュートTpを使ったモードっぽいイントロ(あるいは間奏?)から、軽めのビートに乗って聖子さんのクールな中低音・・・いいじゃないですか!
この曲のMVが先行公開されるのかしら?
(追記2)
すでにラジオでフルヴァージョンが流されたようです。
▼I'm Not In Love / SEIKO JAZZ 3