◆大阪、ミナミの高校生
大阪の"旅する演劇部"、精華高校演劇部。
第一作の脚本はわりとタブーに切り込んだ内容で、「大阪では上演しない」という舞台だっただけに、まさかシリーズ化されるとは思わなかった『大阪、ミナミの高校生』。
これまでに1、2と観てきたけど、続編ってわけではなさそうで、そこにあるのは子供と大人の間を漂う等身大の高校生の揺れ動く心の叫びに似たような世界観。
最初は友人のお子さんが出演される…というのがきっかけで、義理半分で桜木町に観に行ったんだけど、その子の吸い込まれるような目ヂカラと説得力ある芝居に理屈抜きに一目惚れ。
翌年その彼女が卒業したものの、乗り掛かった舟の如く『大阪、ミナミの高校生2』を目白に観に行ったら、これまた高校三年生にして妖艶で独特の雰囲気を持つ子の芝居に、今度はイチコロ。
そして『大阪、ミナミの高校生3』を心待にしていて、高校演劇サミットで東京にやって来ると知ると歓びいさんでチケットの予約をしていたのです。
◆高校演劇の魅力
結果的に僕は役者個人に入れ込んだ訳ではなくて、他の役者や脚本をはじめとした精華の舞台そのものの魅力に吸い込まれていて、すっかりこの演劇部のファンになっていたのだ。
振り返ると、これまで観てきた「生活をかけてる大人の演劇」とは違う、高校演劇の伸び伸びとして未来を見据えてるような芝居に魅了されたのだ。
プロ野球はもちろん上手いし華やかだけど高校野球には独特の魅力がある…ように、高校演劇にも独特の魅力があることを知った。
◆さて『大阪、ミナミの高校生3』
一昨年以来の高校演劇サミット@駒場東大前・アゴラ劇場。
毎度思うけど、『大阪、ミナミの高校生』の脚本には観る側の想像力の豊かさや、解釈をするための引き出しの数を試されてるかのよう。
ゆえに解釈がやや難しかったりするけど、見て聞いて感じたものを頭で理解して、更に想像力を駆使して腹に落としてく作業が実に心地いい。
終った後に「なんでお客さんみんなスタンディングオベーションしないの?」なんて思うくらい"心臓を殴られた"。
もちろん過去の作品と比べて優劣をつけるつもりはなけど、今作は舞台としては過去一番好きかもしれない。
そんな彼らの手応えは、カーテンコールでの彼らの充実した笑顔が物語っていた。
帰りはあまりに興奮してしまって家までたどり着けず、下北沢で途中下車して舞台を思い返しながら一人酒を飲んで至福の時間を過ごした。
高校演劇を肴に酒を飲もう…なんて不謹慎かもしれないけど、突然『涙は海だ』というセリフがストンと腹に落ちたり、『鮫』について新しい解釈ができたりしてこれまた楽しい。
オノマリコさんの脚本を読み落とした彼らの舞台は独特の世界観を持っていて、読む度に解釈や印象が変わるカフカやフィッツジェラルドの小説のよう。
手放しで褒めちぎって崇めてるつもりはないけど、高校の演劇部員が抱える恋や悩みやその先の不安を、その高校生がやるんだから説得力抜群なのだ。
恋愛も社会経験も積んだ大人がやっても伝わらない魅力があるんだよね、高校演劇には。
◆なんなん?この演劇部?
『大阪、ミナミの高校生』が進化してる様を目の当たりにした。
世代交代してく高校生の部活にあって、舞台が毎年どんどんブラッシュアップしていて、過去の作品と先輩が残した成果や反省を継承してるかのようで演劇部が成長しているのがよくわかる。
しかも高校野球で言ったら毎年ドラフト候補のスターが現れる育成力。
こんな場を提供してくれた高校演劇サミットの主宰者と、"旅する演劇部"を率いて(おそらく計り知れないご苦労があるに違いないのに)毎年躊躇なく遠征公演にやって来る顧問の先生にとにかく感謝…。
そして精華高校演劇部の皆さん、本当に素晴らしかったです。
一週間近く滞在した東京生活で標準語に慣れてしまう前にお気をつけて大阪の南にお帰りください。
また来年、『大阪、ミナミの高校生4』を楽しみにお待ちしています。